だれかの心臓になれたなら 追懐録【月詠み】

それは空の上。
身处天空之上。
それは海の底。
身处深海之下。
それは一面に広がる花々の中。
身处绵延无尽的万千花儿之中。
それは一縷の光も届かない闇の中。
身处毫无一缕光芒的黑暗之中。
落ちているのか
是要如此堕落?
昇っているのか、
还是将要上升?
止まっているのか、
是要停滞于此?
浮かんでいるのか、
还是浮上水面?
思い出の水底。
回忆海洋深处。
そこに淀むのは眩い程に美しい日々と、鳴り止まない音楽。
唯有令人炫目的绚丽时日、跃动不止的音乐沉积于此。
彼女は間違いなく、私の世界を変える一因だった。
毫无疑问,她就是将我的世界改变的原因之一。
いや、今でも彼女は——私の世界の全てを言える。
不,如今她也——仍旧是我的世界的全部。
彼女に憧れて音楽を始めて、もう何年になるだろう。
自对她萌生憧憬,开始音乐之路后,已经过了多少年呢?
自分の作品の向こうには、いつも彼女が見える。
但自己的作品中,却一直能望见她的身影。
今もあの頃のことばかりを綴ってしまうのは、未だ私は前を向けていないからだ。
当下仍在拼缀那时如碎片般的回忆,多少是因为我失去了向未来看齐的勇气。
思い出の中を生き續けるのは、きっとさよならを言えていないからだ。
活在回忆中的我,定是因为我无法言喻“再见”二字。
monologue yuma 201※
その頃、私は二つのものに憧れた。
那时,我有两个憧憬。
憧れの一つは音楽家で、もう一つは小説家を志す同級生の男の子。
憧憬之一是成为音乐家。而憧憬之二,是立志成为小说家的同年级男孩子。
——創作というのはこの世で最も美しいものだと、彼は言った。
——创作,是这个世间最为美丽的事物,他曾如此说道。
その言葉は不思議と私の心を震わせた。
这句话语,不可思议地震撼了我的心灵。
私はその言葉を理解したかった。
我渴望理解这句话语。
一度はやめた音楽をまた始めたのは、彼のように特別になりたかったからだと思う。
我之所以重拾曾经放弃的音乐,正是因为我渴望如他一般特别。
そうして私は、ユマとして生きていくことを決めた。
因此,我才决定身为yuma活下去。
今日も私は歌う。どこかの誰かに届くようにと。
今天我也如往常歌唱,只为将这首歌传递给素不相识的谁。
monologue rino 201※
私は高校生になっても夢の一つすら持っていない。
在我升为高中生后,我也没有怀揣过哪怕一个梦想。
後に悔いるのが人生なら、いっそ何もないまま終わりたい。
既然人生终会留下遗憾,那不如就此一无所有迎来终结。
華のない生活で構わない。ドラマにならない人生でいい。
平淡无奇的生活又有什么关系?不按剧本的人生也已足够。
何をしたって、どうせいつかは全部失くなる。それなら最初から何も要らない。
就算自己做了什么,最终一切也都将归为虚无,那索性还是从最初就舍弃一切为好。
冷たい風。白い息。寂しさを帯びた冬の街。
冷风刺骨,嘴中呼出缕缕白气,冬日街道稍显一丝寂寞。
ふと聴こえた、少女の歌声。
倏地听到一阵,少女的歌声。
見覚えのある黒い長髪。
那头乌黑长发让人倍感熟悉。
彼女の歌は、私の胸を真っ直ぐに貫いた。
她的歌声,径直贯穿我的心灵。
空っぽだったはずの私の中から何かが零れた。
而我本应空虚无比的心灵中,仿佛有什么洒落了下来。
monologue rino 202※
後に彼女から、あのときの歌の名前を教えてもらった。
随后,她将歌名告诉了我。
『生きるよすが 』
『生之所依』
その名通り、それは私にとってのよすがとなった。
歌如其名,这首歌自然成为了我的生之所依。
あの頃の出来事が、映写機からスクリーンに映し出されるみたいに目の前に浮かぶ。
那时的一切,仿佛投映于映机荧幕一般,浮现在我的眼前。
その記憶の映像は、私と彼女を少し離れたところから、ファインダーを覗くように眺めている。
而记忆的影像,离我们稍微有些距离,如窥伺取景器一般眺望着我们。
二人は一台のピアノの前に並んで座って鍵盤を鳴らす。
二人并相坐在一台钢琴面前,奏起了钢琴。
二人が奏でる追走曲(カノン)。
二人奏起了轮唱曲(卡农曲)。
彼女の旋律を追いかけたその日から、私はずっと彼女を追いかけている。
自从那天追寻她的旋律起,我就一直追寻着她的身影。
私は私が思っている以上に彼女のことを知らないのかもしれないけれど、
或许我比自己想象地更加对她一无所知。
私の目には誰よりも特別な存在に映った。
但在我看来,她比任何人都要特别。
挫けることを知らず、ひたすらに音楽に心血を注ぐ彼女は、
永不气馁、一心铺在音乐的她
眩しくて、気高くて、美しかった。
是如此炫目、高雅、美不胜收。
私は、彼女のようになりたかった。
因此,我才渴望如她一般。
monologue yuma 201※
リノの歌を思い出していた。
我又想起了rino的歌曲。
自分は特別なんかじゃないと、改めて思い知る。
我再次深深体会到,自己并没有什么特别。
音楽の神様がいるとしたら、その神様に愛されていたのは彼女の方だろう。
倘若世间有所谓音乐之神,那被音乐之神所宠爱的一定是她。
何を書いても、何を歌っても、焦燥感が拭えない。
就算缀写、歌唱什么,心中的焦躁也抹除不去。
見えるもの全てが歪んでいく。
映入眼帘的一切逐渐歪曲。
いつの間にかどこかへ迷い込んでしまった。
自己也不知何时迷茫在了何处。
呼吸さえままならない。
连呼吸也使不上劲儿。
だけど、まだ生きている。
却依旧,活在当下。
どうか私を見つけてほしい。
rino,一定要找到我
誰の心も照らせない。
找到那轮为谁的心灵带不去光芒的
その光に気付いてすらもらえない。
找到那轮任何光芒都无法寻觅到的
真昼の月だ。
正午之月。
monologue rino 202※
真昼の月。
正午之月。
それを見る度、在りし日の彼女と、彼女の言葉を思い出す。
每次看到这个字眼,我总会想起往昔的她,以及她给予的话语。
創作というのは、この世で最も美しいものだと思う——と、いつか彼女は言った。
创作,是这个世间最为美丽的事物——她曾如此说道。
今なら、その言葉の意味が少しはわかる気がする。
如今,我似乎稍稍理解了这句话蕴含的意义。
彼女の意志に寄り添うように、そして彼女を少しでも理解したくて、音楽を続けてきた。
为了能靠近她的心意,同时也渴望更进一步了解她的一切,我继续走在音乐的路上。
そこに何か救いがあるのだと思い込んでいた。
一心笃定音乐之路便能给我所谓的救赎。
彼女は、私に《リノ》という名前をくれた。
是她赋予了我“rino”一名。
音楽家としての名前、それはもう一人の私、それは本当の私。
这是我身为音乐家的名字。既是另一个我,又是真正的我。
それは偽りの私。
又是虚伪的我。
彼女を歌にした日から、また世界は形を変えてしまった気がした。それはあらゆる意味で。
自从那天将她的种种化作歌谣起,世界在各种意义上便再次更迭起来。
思い出がお金に変わっていく。私はこんなことの為に音楽を始めたのだろうか。
曾经的回忆逐渐变成了金钱,我开始音乐的契机就是为了这个吗?
私自身に、本当の価値なんて無いように思う。
我开始觉得,自己似乎也没有什么真正的价值。
所詮は彼女の真似事をしているだけ。彼女に倣うだけの、偽物だ。
自己无非就是个冒牌货,模仿、描摹她一切的冒牌货。
monologue yuma 201※
幸せの代償。夢の対価。
幸福的代价、梦想的回报。
私の人生で払えるものはもう無い。
我的人生中已没有什么能将这两者支付。
身の程知らずの私が、夢を見た結果だ。
这就是不自量力的我去追逐梦想的结果。
高くへと這い上がる程、落ちた時の痛みは増す。
水满则溢,登高必跌重。
創作を始めてからの五年間、そこからは私の人生の全てと言っていい程、色んなことがあった。
自开始创作后的这5年间,我经历了许多,而其中的部分经历甚至能称得上是我人生的全部。
現実は物語のようには上手くいかない。
现实怎么可能会像童话一般美好?
音のない世界。
世界几近无声。
自分の声すらも聴こえない。
连自己的音色也无法听到。
生きる理由はもう無い。
生之所依自然也失了去。
リノ。あなたは自分の才能を信じていないけれど、私にはわかる。
rino,尽管你对自己的才能缺乏信心,但我是明白的。
いつか世界があなたを見つける。
终有一日,世界会寻觅到你的身影。
だから、どうか歌い續けて。
所以,请你继续歌唱。
私は——音楽の神様があなたを導く為のきっかけだった。
我——只是音乐之神将你引导的契机罢了。
そう、神様の思し召し。なんて考えるのはどうだろう。
大概,就像是神明的尊意?这种想法大概不为过吧。
それなら、私の人生にも意味があったと思える気がする。
倘若如此,我的人生便会有了真正独属的意义了。
あなたが歌うなら。
只要你能继续歌唱。
monologue rino 202※
『生きる理由を見つけるというのは、同時に死ぬ理由も見つけるということを、
"在发觉到活下去的理由时,也必然会发觉死去的理由
その頃の私は知らなかった』
那时的我尚不清楚。”
彼女の残した言葉は、頭を巡る。
她留下的话语,久久萦绕在脑海挥之不去。
生きている限り、彼女の気持ちを本当に理解することなんて出来ないのかもしれない。
只要活在这世间,或许我就无法真正理解她的心意。
わからない。
我也不明白。
でも、
但是
『 リノ、あなたは大丈夫』
“rino,你肯定没问题”
それでも、
即便如此
『 どうか強く生きて 』
“一定要坚强活下去”
ユマ、あなたに生きてほしかった。
yuma,我是如此地渴望你能活着。
音楽なんてどうだっていいじゃないか。
音乐的话怎么都无所谓了,不是吗?
私は——どんな世界も、あなたがいるから生きていたいって思えたんだよ。
我——无论身处怎样的世界,只要有你相伴,我就会萌生活下去的念头了。
『 あなたの作品は、あなたの人生。
“你的作品,就是你的人生
あなたの人生は、あなたの作品』
你的人生,就是你的作品”
それが、ユマの選んだ結末なんだね。
这就是yuma你亲手选择的结局呢。
あなたにとっては、どんなものも音楽には敵わなかった。
无论何物,都抵不过你对音乐的热爱。
私は、彼女とは違う生き方をする。
我要选择与她迥然不同的活法。
誰かの為でも、自分の為でもいい、
为谁都好,为自己也罢。
私は生きる。
我要活下去。
ユマ、あなたの言う通り、音楽で世界を救えないのかもしれない。
yuma,你说得确凿无疑,或许音乐无法拯救世界。
それでも——少なくとも私は、
但至少——至少你的音乐
あなたの音楽で救われたと思っている。
你的音乐真正将我救赎了。
思い出の水底。
回忆海洋深处。
そこに淀むのは眩い程に美しい日々と、鳴り止まない音楽。
唯有令人炫目的绚丽时日、跃动不止的音乐沉积于此。
彼女は間違いなく、私の世界を変える一因だった。
毫无疑问,她就是将我的世界改变的原因之一。
いや、今でも彼女は——私の世界の全てを言える。
不,如今她也——仍旧是我的世界的全部。