第25话 插曲:噩梦和膝枕
第25話 蛇足:悪夢と膝枕
第25话 插曲:噩梦和膝枕
「嗯…………」
意识仍然是模糊的样子、我把搭耷在桌子上的脑袋抬了起来。
啊嘞、我在做什么呢……?
啊、不……对了
记得是文化祭的后夜祭上和大家聊天来着……。
「我……睡着了吗? 什么时候……」
模糊的视野渐渐的清晰了起来。
接着、模糊的周围的轮廓开始变得分明。
「诶……?」
在那里我注意到
刚刚我头趴着的并不是教室的桌子――
居然是搭载着电脑的办公桌。
「为、为什么这样的东西会……诶……!?」
在对不应该存在于教室的东西感到混乱的时候、我注意到了自己穿着的衣服并不是学校的制服。
西装、衬衫、西裤、领带――完全是社会人的装扮好吗。
「啊……诶……?」
在搞不清状况的情况下向周围放眼望去后、我发现了这里并不是学校的教室。
被香烟的烟脂污染的天花板。
充满着老化的明显龟裂并且涂装剥落的墙壁。
未经整理的文件被杂乱地强行塞入的书柜
排成一排的办公桌和镇座在上面的电脑。
过于熟悉的光景仿佛把全身的血液冷却地像冰块一样。
这里是……怎么会是这样……。
「居然打起瞌睡来了你地位还挺高的吗、混渣」
「诶……」
在听到那个声音的一瞬间――肠胃中仿佛被扭曲般的痛苦开始奔走起来。
因为在办公室回响的厌恶声音无可救药地是我听过的
「課……長……」
我的上司……只要开口的话除了抱怨和谩骂之外不会蹦出来别的话语。可谓是我的恐怖本身
油光发亮的肥胖的50岁人带着毫无良心的目光看向这里。
「到底是发生了什么……我是在教室里……和大家……」
「啊哈、教室? 哈、你在做什么愚蠢的梦啊你这混球」
「梦……?」
在说什么啊。
那怎么可能是梦。
我回到过去重新开始为了将本不应该丢失的东西重新寻回——
「哈、虽然不知道你到底做了多么快乐的梦! 但是你的现实可是在这边啊!」
不是的。这样的话是骗人的。
这样的东西才不是现实
绝对不可能是现实。
「好了、接下来是快乐的工作时间咯新浜」
我的桌子上堆砌着像山般的文件啊资料之类的捆版包。
即使是每天熬夜的话也不知道何时才能迎接来终结的量
「休息之类的没有。辞职之类的也不允许。你就给我在这里永远地像拉马车的马一样干下去。明天也好、后天也好、再接下来的那天也是! 你的一生就是这样的啊!」
不是的、不是的、不是的。
我的一生才不是这样的
就是为了不变成这样子、我才去改变未来的啊。
「但是啊、你好像看上去做了个很美的梦啊?」
住嘴啊
在此之上的话再别说了。
「但是已经梦醒了对吧? 你刚刚看到的――」
不是的。
不是的不是的不是的不是的不是的不是的……!
「全部都只是方便的妄想罢了」
像发黑凝固的油脂一般恶心的夹杂着唾液摩擦的声音向我纠缠而来。
我周围存在的东西全部、太过熟悉了——
仿佛在无言地低语着这里才是适合你的场所。
『――话说你是真的认真地觉得过去是能过重来的吗?』
脑袋中、不是课长的不知是谁的声音回响着。
虽然仿佛没听过的声音一般、但是也感觉是人生中最常听的声音
啊是这样啊这是——我的声音啊
『和紫条院同学变得关系亲近起来了? 早晚有一天会和她成为恋人?』
『变得被妹妹敬慕了起来能够互相带着笑颜谈话了?』
『和死别的母亲成功再会?』
『让文化祭成功举办然后从大家那里收获感谢?』
『全部、全部、全部――都是你的妄想』
『只不过是可怜的男人在人生最后看见的美梦罢了』
满溢在我脑海中的声音在嘲笑着我
这样方便的美梦只可能是妄想
那份嘲笑直接渗透进我的内心。
思考能力变得低弱、内心变得不相信希望了起来。
是这样的……吗?
直到刚刚为止……我只是梦到了我渴望的愿望吗?
(我所看见的事物无论是哪个……都只是方便的梦幻……)
宛如纯黑的焦油般的绝望在我内心扩散开来。
热量从内心丧失变得冰封。
内心的深处变得空洞了起来、一切都沦为空虚。
于是在一切的希望都快从我的内心消失的时候——
脸颊、被暖暖的不知是何物的东西触碰了。
「诶……?」
难以想象的温暖的什么东西、把冰封的我的内心慢慢的溶化了。
与此同时纯黑的绝望也仿佛被太阳照射的影子般消失了。
「这是……」
这份温暖、我是知道的。
总是能让我奋勇向前的东西。最能驱动我心灵的原动力。
对我而言、比任何东西都要重要的东西
为我内心注入光明和热量的、一直都是她啊
「紫条院同学……!」
以宛如刚刚的绝望之类完全不存在一样的放晴的心情、我将那个名字述说而出。
我是紫条院春华。
如今我、在仅有二人的教室里守望着嘶嘶而眠的新浜君
后夜祭迎来结束后、收拾着点心的垃圾之类的新浜君不知什么时候在为了章鱼烧咖啡厅用而制作的客人席位上座着入眠了。
当然不叫醒的话是不行的、但是知晓着今日的重劳动带来的疲劳的我在其他人回家的时候、将教室的钥匙从风见原那里借为保管、和入眠的新浜君一起残留在了教室。
距离最终的放学时刻还有少量时间。
在那之前就让新浜君这样睡着吧。
「真的是非常棒的文化祭呐新浜君」
被完成了使命的章鱼烧咖啡厅的布局包围着、我小声着低语着。。
是的、这个文化祭很快乐。
而给与我和班上的大家这份快乐的正是如今在眼前进行着寝息的男子。
当后夜祭大家向他宣泄发自内心的感谢的时候、我也非常高兴。
面对新浜君的努力被大家认可了、大家的心意温暖了新浜君的内心的情况我的内心也被喜悦填满了。。
(但是那个……虽然无法对其他人启齿、我的内心也有些许悸动不安的时候)
比如风见原和笔桥同学
虽然她们二人是通过文化祭而和新浜君变成能够搭话的、但是看着她们对新浜君投以笑容的时候内心就会变得嘈杂纷扰起来。
说实话、我自己也不太清楚
明明新浜君从大家身上收获信赖是非常开心的、但是为什么当女生过于接近他的时候就会变得冷静不下来呢?
「呣……特别是风见原同学呐……」
在这个文化祭凭借执行委员和所谓的顾问的立场、两人在相当的时间内都是黏在一起的。虽然风见原同学因为那种我行我素的性格难以阅读其情感、但是对于新浜君确是一贯的出于好意地多次夸奖了他的手段。
虽然因为是那么可靠的人所以这是当然的……。
「而且感觉新浜君也是对于风见原同学和笔桥同学没有客气和拘泥……」
明明对风见原则是「你会不会太让我成为众矢之的了啊!?」之类的、笔桥则是像「啊真是的、不要发出这种快要哭出来的声音啊! 我会想办法的!」这样的感觉。对我确是「如果不介意是我的话无论何时都可以成为你的力量哟」这样过于绅士。
「对我更加随和点不用那么拘束也没关系的……诶?」
偶然之间瞥向新浜君脸庞、我发现汗水在上面满满地渗出来。
不仅仅是这样。
苦闷的声音也从嘴角流露出来。
「新、新浜君!? 怎么了?」
「呜、啊、啊啊……啊啊啊……」
看着他苦闷的表情、我迅速理解了他是梦到了噩梦。
而且还是相当痛苦的噩梦。
「…………っ」
我瞬间、轻轻地触碰了他的脸颊。。
之后冷静思考就会发现明明立刻把新浜君叫醒就好了、但是那个时候我的脑袋里只能想到这种做法。
像小的时候每当发生讨厌的事情的时候母亲大人总是对我做的般、希望通过我的体温向他传达人的温暖。
新浜君应该梦见的才不是什么噩梦。
像这样为了各自各样的事情努力拼劲全力的人、即使是在梦中也不应该陷入不幸。
「新浜君应该梦见的是……幸福的美梦才对!」
为了尽可能的增加体温的传达面积、我用两手的手掌将新浜君的脸颊包裹起来。
祈祷着哪怕他的痛苦只能能缓解一点也好。
听见紫条院同学的声音了。
感受到紫条院同学的体温了
啊、如果知道了她在这里之外的话那么答案就明白了
这绝对不是现实。
「哈、刚刚的害怕真是血亏……原来只是单纯的噩梦啊」
刚刚的感觉仿佛连情绪都死掉的心情瞬间烟消云散、我对着因为这样显而易见的噩梦自乱阵脚的自己不禁感觉羞耻了起来。
不如说在认识到这是梦之后冷静地思考就会发现到处都是破绽。
总感觉公司的风景和我的记忆都在暧昧的部分模糊不清。
「喂、新浜你小子在嘀咕个什么……」
「课长的细节倒是正确的。是因为只有这点是我的心灵创伤的缘故吗」
好了、虽然从这样噩梦中速度醒来才是关键――但是在这之前。
「喂你这混渣在听吗! 为了你的成长我可是把我的那份也给你做了哦快点给我去干活啊! 稍微偷点懒的话工资可是会再次降低的――」
「吵死了你个呆瓜啊啊啊啊啊啊啊啊!!」
对着不断嘎嘎叫唤的课长发出怒鸣后、摆出一副性情扭曲脸庞的50多岁的男人哑口无言地瞪大了眼睛。
机会难得所以就把在前世想对这家伙说的话全部说出来吧。
「你这胖墩墩的肥猪混蛋课长! 抽烟过多导致嘴巴里都是烟脂的臭味啊! 只会对别人的事情絮絮叨叨的但是明明自己如果是一个人的话就是什么都做不到的无能的化身、一直对着别人下达不合理的命令! 如果要说什么伟大的话语之前你tm先来试试100天连续出勤看看!」
将一直以来在内心中激荡的抱怨托盘而出后、课长哆哆嗦嗦地颤抖起来。
哈哈、明明是在梦中却能像模像样的发火吗。
「居然敢……你居然敢这么对我说话! 你小子今后别想着能正经工作……哟……?」
面对着咯吱咯吱扭着手腕接近的我、课长的声音怂了起来。
呵呵、思考方式发生变化的话这哪里是噩梦啊、简直是好的不行的梦。
「因为是梦的话也就没有解雇和起诉啊。满不在乎地踏入别人的梦境中算是你气运到头了」
我坏笑着浮现出颇为灿烂的笑容向着课长靠近。
哈哈哈、即使现在开始后退也太晚了哟。
「等、等一下……! 别……っ!」
「这是常年积攒下来的怨恨……! 去死吧啊啊啊啊啊啊啊啊!」
我握紧拳头、向着曾经光是看着就想发吐的混蛋家伙猛冲上去。
「太好了。居然这么有效果……」
用双手包住新浜君的脸颊是一时的冲动只举、没有设想过借此总会有办法的之类的。但是不知为何效果拔群、新浜君迅速取回了平稳的睡颜。
「这样新浜君也安心下来了吧――诶っ!?」
苦闷表情消失后的新浜君、说着「嗯……去死吧……」这样的梦话身体开始了扭转
于是身体不断地从座位上滑落下来……最后落在地板上导致我慌乱了起来。
「没、没事吧新浜君? 诶……还在睡吗……?」
轰隆地一声滚倒在地板上的新浜君仍在熟睡着。
即使是这样没有醒来的话想必是相当疲惫吧。
「果然这样放在不管的话是不行呐……那个……稍微失礼一下……」
我座到地板上、将新浜君的头放置在我的膝上。
比起用书包来当枕头、这样应该能让他更加安眠一点。
(哇……我还以为只是把头放在膝上这种程度的没什么大不了的……我的腹部周围就放着新浜君的脸这样的怎么说呢……心情有点奇怪……)
「嗯……啊嘞……?」
「起……你起来了吗新浜君?」
「啊、这次好好的是……教室……了啊……」
还以为是睡醒了所以就向他搭了话、但是总感觉话语还是飘飘然的样子。
仿佛意识还没彻底清醒仍处于睡眼惺忪的状态。
「那个、能理解吗? 我是紫条院哦。新浜君你在教室里睡着了……」
「啊……紫条院同学啊……」
叫唤着我的名字的新浜君仿佛婴幼儿一样、十分纯真无邪。
恐怕、还处于搞不清楚状况的情况。
(呵呵っ现在的新浜君……总感觉像小孩子一样看上去很可爱)
「嗯……? 是膝枕啊……软软的……」
「那、那个这个是……因为新浜君滚到地板上才……」
我突然对仍处于把新浜君的头搭在膝上进行对话的这个状态感到害羞了起来、一不小心就说出了类似找借口般的话语。
「啊、好舒服……而且还有一股很好闻的味道……」
「~~~~~~っ!?」
我的脸颊变得通红了起来。
今天的我在章鱼烧咖啡厅排班的时候流了很多的汗。
一想到这样充满汗臭味的自己的体味被新浜君闻到了后、异常的羞耻心就涌现了上来。
「啊嘞……怎么说呢……总感觉做了个很痛苦的梦但又感觉不是……嘛、算了……」
仍然是一副睡眼惺忪样子的新浜君小声低语道。
果然是做了噩梦啊、但是如果不记得了的话就这样也挺好的。
「啊、果然紫条院同学很漂亮啊……真好啊……」
「哇!? 什、在说什么啊!?」
如今的新浜君由于还是处于没有睡醒的状态、所以大部分的话语都是无意识的吧。
但是就和曾经和他一同放学回家时一样、那份话语激烈地动摇着我的内心。
不知为何、收到新浜君夸奖的时候就会变得很开心。
「但是……这也不是梦呐……」
「诶……」
「紫条院同学……不知道是不是在那个触手可及的范围里呢……」
这份低语看不出是那个一直都是积极向前做什么都是拼尽全力的新浜君所发出的、是那么的纤细宛如一个害怕发抖的孩子一般。
看着这样的他、我想到了
不管是以前的那个内心的新浜君、还是说话干练让人感到塌心的新浜君。
并不是哪个才是真正的新浜君、而是二者都确实是新浜君啊
(那个像那样什么都做得到的新浜君究竟是在为什么而感到不安呐……虽然我不知道这点。但是――)
「――是的、我在这里哦」
就像刚在做的一样、我为了消除新浜君的不安而去触碰了他的脸颊。
「新浜君的身旁、有我在呐。所以――」
所以你想要的东西一定哪里都不会去的哦。
「安心下来、再稍微的睡一会吧」
「啊、是吗――太好……了……」
在我这样宣告后、新浜君再次发出嘶嘶的寝息坠入梦河。
「真的辛苦你了新浜君。虽然只是现在一小会、还请以健全的心态休息一下」
偶然望向窗外发现太阳已经西沉、周围的光线也变得昏暗了起来。
在白天的喧嚣仿佛是谎言般、在这个被消音了的校舍、我将新浜君的脑袋仍维持在我的膝上、就这样不知疲倦地眺望着努力的男孩的睡颜。

本来想今天做一半明天做一半的,但是游戏里的队友太不当人了,输了一周末一把没赢。就不打来翻这个了。难顶。文化祭到这里就结束了,下周可能会更也可能不会,累的话就鸽去补觉了。

以下为日语原文
「ん…………」
ぼんやりとした意識のまま、俺は机に突っ伏していた頭を起こした。
あれ、俺は何をしていたんだ……?
あ、いや……そうだ。
文化祭の後夜祭でみんなと話していて……。
「俺……寝てたのか? いつの間に……」
ぼんやりとした視界が徐々にクリアになる。
そして、朧気だった周囲の輪郭がはっきりしていき――
「え……?」
そこで気付く。
今まで俺が頭を突っ伏していたのは教室の机ではなく――
パソコンが乗ったオフィスデスクなのだと。
「な、何でこんなものが……え……!?」
教室にあるわけがないものに混乱していると、自分の着ている服が学校の制服でないことに気付く。
スーツ、シャツ、スラックス、ネクタイ――完全な社会人の格好だった。
「あ……え……?」
わけもわからずに周囲を見渡すと、そこは学校の教室ではなかった。
タバコのヤニで汚れた天井。
老朽化の著しく亀裂が多い塗装がハゲた壁。
整理されていない書類が乱雑に詰め込まれたキャビネット。
居並ぶオフィスデスクとその上に鎮座するパソコン。
見覚えがありすぎる光景に全身の血液が氷のように冷たくなっていく。
ここは……そんな、まさか……。
「居眠りとは良い身分だなカスが」
「え……」
その声を聞いた瞬間――胃腸にねじれるような痛みが走った。
オフィスに響いた嫌みな声は、どうしようもなく聞き覚えがあったからだ。
「課……長……」
俺の上司……口を開けば文句と罵言しかでてこない俺の恐怖そのもの。
脂ぎった肥満の50代が良心の欠片もないような目でこちらを見ていた。
「何がどうなって……俺は教室で……みんなと……」
「ああん、教室ぅ? はっ、何を馬鹿な夢を見てるんだこのグズが」
「ゆ、め……?」
何を言っている。
あれが夢なわけないんだ。
俺は過去に戻ってやり直して取りこぼしていたものを得るために――
「はっ、どんな楽しい夢を見ていたか知らねえけどなあ! お前の現実はこっちだよ!」
ちがう。そんなのはウソだ。
こんなものは現実じゃない。
現実であっていいはずがない。
「さあ、楽しいお仕事の時間だ新浜」
俺のデスクにファイルや書類の束が山積みになって置かれる。
毎日徹夜してもいつ終わるかわからないほどの量だった。
「休みなんてない。辞めるなんて許さねえ。お前はここでずっと馬車馬みてえに働くんだ。明日も明後日もそのまた次の日も! お前の一生なんてそんなもんだよ!」
ちがう、ちがう、ちがう。
俺の一生はそんなものじゃない。
そんなふうにならないために、俺は未来を変えるんだ。
「しかしまあ、ずいぶん良い夢をみてたようだなぁ?」
やめろ。
それ以上、何も言うな。
「けどもう目が覚めたろ? お前がみていたのは――」
ちがう。
ちがうちがうちがうちがうちがうちがう……!
「全部都合のいい妄想なんだよ」
黒ずんで固まった油のようなニチャリとした声が、俺に絡みつく。
俺の周囲にあるもの全てが、あまりに見慣れていて――
ここがお前にお似合いの場所だと無言で囁いてくる。
『――そもそも過去をやり直せるなんて本気で思っていたのか?』
頭の中に、課長でない誰かの声がした。
知らない声のようで、人生で最も聞いた気もする。
ああそうかこれは――俺の声だ。
『紫条院さんと仲良くなれた? いずれ彼女を恋人にする?』
『妹に慕われるようになってお互いに笑顔で話せるようになった?』
『死別した母さんと再会できた?』
『文化祭を成功させてクラスのみんなから感謝された?』
『全部、全部、全部――お前の妄想だよ』
『哀れな男が人生の最後に見た夢に過ぎない』
頭に溢れる声が俺をあざ笑う。
そんな都合の良い夢は妄想でしかないと。
俺の心に、直接その嘲笑はすり込まれていく。
思考能力が薄れ、心が希望を信じられなくなっていく。
そうなの……か?
俺は今まで……俺が渇望した願望を夢に見ていただけなのか?
(俺が見ていたのは何もかも……ただの都合のいい幻……)
真っ黒なコールタールのような絶望が、俺の中に広がっていく。
心から熱が失せて凍りつく。
胸の奥ががらんどうになり、全てが空虚になる。
そうして俺の中から一切の希望が消えかけたその時――
頬に、暖かい何かが触れた。
「え……?」
途方もない温かい何かは、凍った俺の心をじわりと溶かした。
同時に真っ黒な絶望も太陽に照らされた影のように消え失せていく。
「これは……」
その温もりを、俺は知っている。
いつも俺を奮い立たせるもの。俺が心を動かす一番の原動力。
俺にとって、何よりも大切なもの。
俺の心に光と熱をくれるのは、いつだって彼女なのだ。
「紫条院さん……!」
ついさきほどまでの絶望なんてなかったかのような晴れ晴れとした気持ちで、俺はその名前を口にした。
私は紫条院春華。
今私は、二人っきりの教室ですやすやと眠る新浜君を見守っていた。
後夜祭が終わった後、お菓子のゴミなど片付けをしていると新浜君がいつのか間にタコ焼き喫茶用に作った客席に座って眠りに落ちていた。
もちろん起こさないといけなかったけれど、今日の重労働からくる疲労を知っている私は他の皆が帰宅する中、教室のカギを風見原さんから預かって、眠る新浜君と一緒に教室に残った。
最終下校時刻まではまだ少しだけ時間がある。
それまでは新浜君を寝かせてあげたかったからだ。
「とっても良い文化祭でしたね新浜君」
役割が終わったタコ焼き喫茶のセットに囲まれ、私は呟いた。
そう、この文化祭は楽しかった。
そしてその楽しさを私やクラスの皆にくれたのは、今目の前で寝息を立てる男の子だった。
後夜祭でみんなが彼に心からの感謝を告げた時、私はとても嬉しかった。
新浜君の頑張りをみんなが認めて、みんなの気持ちが新浜君の心を温めている様に私の心も喜びで満たされた。
(けれどその……誰にも言ってないですけど、少しだけもやもやする時がありました)
例えば風見原さんと筆橋さん。
二人とも文化祭を通じて新浜君と話すようになったのだけど、彼女らが新浜君に笑顔を向けていると心がざわめく。
正直、自分でもわけがわからない。
新浜君が皆の信頼を得るのはとても嬉しいのに、どうして女子が彼に接近しすぎると落ち着かなくなるのだろう?
「むぅ……特に風見原さんですね……」
この文化祭で実行委員とそのアドバイザーという立場の二人はかなりの時間一緒にいた。風見原さんはマイペースなので感情が読みづらいけど、新浜君に対しては一貫して好意的でその手腕を何度も褒めていた。
あれだけ頼りになる人なのだから当然ではあるのだけど……。
「それに新浜君もなんだか風見原さんや筆橋さんに対しては気安いような……」
風見原さんには「俺を矢面に立たせすぎだろお前!?」とかで、筆橋さんには「ああもう、泣きそうな声出すなって! なんとかするから!」みたいな感じなのに私には「俺で良ければいつでも力になるよ」というふうに紳士的すぎるのだ。
「私にももっと気さくな感じでも構わないんですけど……え?」
ふと新浜君の顔を見ると、汗がびっしりと浮かんでいた。
それだけじゃない。
口から苦悶の声を漏らしている。
「に、新浜君!? どうしたんです?」
「う、あ、ああ……あああ……」
苦悶の表情を見て、すぐに悪い夢を見ているのだとわかった。
それも相当に酷い夢のようだ。
「…………っ」
私は咄嗟に、そっと彼の頬に触れた。
後で冷静に考えれば新浜君をすぐに起こせば良かったのだろうけれど、この時の私はこうすることしか頭になかった。
幼い頃、嫌なことがあった時にお母様がいつもそうしてくれたように、彼に私の体温を通じて人の温かさを届けたかった。
新浜君が見るべきなのは悪夢なんかじゃない。
こんなにも色んな事を頑張って一生懸命な人は、たとえ夢でも不幸になるべきじゃない。
「新浜君が見るべきなのは……幸せな夢なんです!」
少しでも体温を伝える面積を増やすべく、私は両の手の平で新浜君の頬を包み込んだ。
彼の苦しみが、少しでも和らぐことを願いながら。
紫条院さんの声が聞こえる。
紫条院さんの温もりを感じる。
ああ、彼女がここの外にいるのならもう答えは明白だ。
これは絶対に現実じゃない。
「はあ、ビビって損した……なんだ単なる悪夢かよ」
さっきまでの感情が死んでいくような気分はあっさり霧散し、俺はこんな見え見えの悪夢で取り乱した自分を恥じた。
というか夢だと認識して冷静に見てみると穴だらけだ。
なんかこの会社の風景も俺の記憶が曖昧な部分はぼやけてるし。
「おい、新浜てめえ何をブツブツと……」
「課長のディティールだけは正確だな。それだけトラウマだったってことか」
さて、こんな悪夢からはとっとと覚めるのが一番だが――その前に。
「おいこら聞いてんのかグズが! お前の成長のために俺の分もやらせてやるからさっさと仕事をしろ! ちょっとでもサボったらまた給与を下げてや――」
「やかましいわボケがああああああ!!」
ギャーギャーとわめき出した課長を正面から怒鳴りつけてやると、根性が曲がった顔をした50代男は目を見開いて絶句した。
せっかくだし前世でこいつに言いたかったことを全部言っておこう。
「このブクブク太りのクソ課長がっ! タバコの吸い過ぎで口がヤニ臭えんだよ! 他人のことばっかりネチネチ言うのに自分一人じゃ何も出来ない無能の権化のくせに、いつも人に理不尽な命令ばっかしやがって! 偉そうなことを言うならてめえが100連勤してみろや!」
いつも胸に渦巻いていた怨嗟をぶちまけると、課長はワナワナと震えだした。
はは、夢のくせに一丁前に怒るのか。
「よくも……よくも俺にそんな口をききやがったな! お前今後まともに仕事できると思うな……よ……?」
腕をポキポキ鳴らしながら近寄る俺に、課長の声が尻すぼみになる。
ふふ、考え方を変えればこれって悪夢どころかすっごい良い夢じゃないか。
「なんせ夢なら解雇も起訴もないからな。ノコノコ人の夢に出てきたのが運の尽きだ」
俺はニコニコとすこぶる良い笑みを浮かべて課長に近づく。
ははは、今更後ずさりしても遅えよ。
「ま、待て……! やめ……っ!」
「積年の恨みだ……! くたばれやあああああああああああ!」
俺は拳を固めて、かつて見るだけで吐き気がしていたクソ野郎に突進した。
「良かったです。こんなに効果があるなんて……」
新浜君の頬を両手で包んだのは衝動的なことで、それでどうにかなるとは思っていなかった。けれど何故か効果は絶大で、新浜君はすぐに穏やかな寝顔を取り戻した。
「これで新浜君も心安らかに――えっ!?」
苦悶の表情が消えた新浜君は、寝言で「うーん……くたばれやぁ……」などと言いだして身体をよじり始めた。
すると身体がどんどん身体が席からズリ落ちていき……最後には床に落っこちてしまったので私は慌てた。
「だ、大丈夫ですか新浜君? え……まだ寝てる……?」
ごろんと教室の床に転がった新浜君はまだ寝息を立てていた。
これで起きないとはやっぱり相当疲れているようだ。
「流石にこのままにはしておけないですね……その……ちょっと失礼します……」
私は床に座り込み、新浜君の頭を自分の膝の上に乗せた。
鞄を枕にするよりかは、少しは安眠を提供できるはずだ。
(うわぁ……膝に頭を乗せるくらい大したことないと思っていましたけど……私のお腹あたりに新浜君の顔があるというのはなんだかこう……変な気分になります……)
「ん……あれ……?」
「あ……起きたんですか新浜君?」
「ああ、こんどはちゃんと……きょうしつ……だ……」
目を覚ましたと思って声をかけてみたものの、どうも言葉がふわふわだ。
意識が完全に覚醒せず寝ぼけている状態のようだった。
「あの、わかりますか? 私は紫条院です。新浜君は教室で寝ちゃっていて……」
「ああ……しじょういんさんだ……」
私の名前を呼ぶ新浜君はまるで幼児のようで、とても無垢だった。
おそらく、あまり状況はわかっていないのだと思う。
(ふふっ今の新浜君……なんだか子どもみたいで可愛いです)
「ん……? ひざまくらだ……やわらかい……」
「あ、あのこれは……新浜君が床にずり落ちてしまったので……」
新浜君の頭を膝に乗せたまま会話しているという状況に急に気恥ずかしくなり、私はつい言い訳のようなことを口にしてしまう。
「ああ、きもちいい……それにいいにおいがする……」
「~~~~~~っ!?」
私は顔が真っ赤になった。
今日の私はタコ焼き喫茶のシフトに入った時に、とっても汗をかいてしまった。
そんな汗くさい自分の匂いを新浜君に嗅がれていると思うと、とてつもないほどの羞恥心がこみ上がってくる。
「あれ……なんだろう……ひどいゆめをみていたようなそうじゃないような……まあ、いっか……」
まだまだ寝ぼけている様子で、新浜君が呟く。
やっぱり悪夢をみていたようだったけれど、覚えていないのならそれでいいと思う。
「ああ、やっぱりしじょういんさんはきれいだな……すてきだ……」
「ほぁ!? な、何を言っているんですか!?」
今の新浜君は寝ぼけている状態だから、ほとんど無意識なのだろう。
けれどいつか彼と一緒に下校した時と同じく、その言葉は私の胸を激しく揺さぶる。
何故か私は、新浜君に褒めてもらえると嬉しい。
「でも……これもゆめじゃないよな……」
「え……」
「しじょういんさんは……おれのてのとどくところにいるのかな……」
その呟きはいつも前向きで何にでも一生懸命な新浜君のものとは思えないほどにか細く、まるで震える子どものようだった。
そんな彼を見て、私は思った。
以前の内気だった新浜君と、ハキハキと喋って力強くなった新浜君。
どっちが本当ということじゃなくて、きっと両方が新浜君なのだ。
(あんなに何でもできる新浜君が何をそんなに不安がっているのか……それはわかりません。けれど――)
「――はい、ここにいます」
さっきそうしたように、私は新浜君の不安を消したくて彼の頬に触れた。
「新浜君の側に、私はいます。だから――」
今日はとても頑張ったのだから。
あなたが欲しいものはきっとどこにもいかないから。
「安心して、もう少しだけ眠ってください」
「ああ、そうか――よかっ……た……」
私がそう告げると、新浜君はすぅすぅと寝息を立て始めて再び眠りに落ちていった。
「本当にお疲れ様です新浜君。今は少しの間だけ、健やかな気持ちで休んでください」
ふと窓の外を見れば日が落ちて、辺りは薄暗くなっていた。
もう学校にいられる時間はあと僅かだけど、それまではずっとこうしていたい。
お昼の喧噪が嘘のように音が消え去った校舎で、私は新浜君の頭を膝に乗せたまま、頑張った男の子の寝顔をずっと飽きずに眺めていた。