【日本小5道德】19#名医、顺庵
名医、順庵
作者:荻原 隆(おぎはら たかし)
昔、九州のある町に松永順庵と言う医者が住んでいた。順庵は医術に優れ、人柄も立派だったので、その地方で一番の名医だと評判であった。その評判を聞いて、順庵の弟子になり医学を勉強したいと言う若者達が集まってきていた。
(从前,在九州的某个镇上有一位名叫松永顺庵的医生。顺庵的医术高超,人品也高尚,因此在这片地区被评价为最好的名医。年轻人们听闻顺庵的风评,便聚集而来想要当他的弟子,学习医学。)
弟子の中に、誰よりも勉強熱心で、よく働く孝吉と言う若者がいた。孝吉は、遠く離れた家に母一人を残して順庵の家に住み込み、勉強に励んでいた。
(他的弟子中有一个名为孝吉的年轻人,他比任何人都要热心学习,勤奋干活。孝吉将母亲独自一人留在了很遥远的家中,然后住到了顺庵家,勤奋学习。)
ある日、孝吉の元に一通の手紙が届いた。それは、滅多に手紙など書かない母からのもので、重い病気で寝たきりになってしまった、どうか早く帰ってきてほしい、と書かれてあった。手紙を読む孝吉の目に涙が滲んだ。孝吉の頭の中には、寝たきりで苦しんでいる母の姿や、その病気を治す薬のことが、浮かんでは消え、消えては浮かんでいた。
(某日,孝吉收到了一封信。是很少写信的母亲寄来的,信中写道她身患重病,卧床不起,希望他早日归来。孝吉读着信,泪水沁出。他的脑海里反反复复地浮现出母亲卧病在床的痛苦的样子,以及治疗疾病的药物。)
母の手紙を受け取ってからの数日、孝吉は元気がなかった。順庵は、孝吉の様子に気付いて声をかけた。
(收到母亲来信后的数日,孝吉没了精神。顺庵注意到了孝吉的样子,便对他说道。)
「孝吉、この頃元気がないが、体の具合でも悪いのかね。」
(“孝吉,这段时间没精神啊,是身体不舒服吗?”)
「いいえ、何でもありません……。」
(“不,没什么……”)
孝吉は、少し慌てながら答えた。
(孝吉有些慌张地回答道。)
孝吉は、順庵に母のことを話そうかどうしようかと迷っていたのである。母の病気を治すのによいという高麗人参は、大変高価であり、孝吉にはとても手に入れることが出来ない。それに、順庵の厳しい教え方から考えると、勉強を途中で投げ出して家に帰ってしまうような者は弟子にしておくわけがないのではないかと、心配していたのだった。
(孝吉犹豫着要不要对顺庵说母亲的事。治疗母亲疾病的良药高丽参非常昂贵,孝吉很难买到。而且,从顺庵严厉的教学方法考虑的话,孝吉担心他不会收学习半途而废回家的人当弟子。)
(早く母のところに戻りたい。何とか薬を飲ませて病気を治してあげたい。でも……。)
(想要快点回到母亲身边。得想办法让她喝药治好病。但是……)
孝吉の心の中は、母を思う気持ちでいっぱいになって、眠れない夜が続いた。
(孝吉的心中满是对母亲的思念,每晚都睡不着。)
孝吉は、ある夜とうとう、順庵の薬部屋から高麗人参を持ち出して、誰にも知られずに母の待つ家に戻ろうとした。しかし、孝吉が薬部屋から薬を持って出ようとした時、順庵の弟子の一人に見つかってしまった。
(孝吉在某晚终于从顺庵的药房中拿出了高丽参,然后准备不为人知地偷偷回母亲等待的家中。然而,当他拿着药准备从药房出去的时候,被顺庵的一名弟子发现了。)
「おい、孝吉。こんな夜中にそんなところで、何をしているんだ。」
(“喂,孝吉。三更半夜的,你在那里做什么?”)
その弟子が、孝吉の様子を怪しんで騒ぎ出したので、その声を聞いて他の弟子たちも集まってきた。
(这名弟子觉得孝吉的样子可疑,吵闹了起来,其他弟子也闻声聚集而来。)
「お前の持っているのは高麗人参じゃあないか。高い薬だから盗もうとしたんだな。」
(“你拿着的不是高丽参吗?你是在挑贵的药偷吧?”)
弟子の一人が大声で言った。孝吉は言い訳も出来ず、何とかその場から逃げ出そうとした。その時、奥から順庵がやって来た。
(其中一个弟子大声说道。孝吉说不出理由,打算逃跑了。这时,顺庵从里屋来了。)
「静かにしなさい。私が話を聞こう。孝吉、私と一緒に来なさい。」
(“安静。我来问他。孝吉,跟我来一趟。”)
順庵の声は穏やかだったが、表情は厳しかった。
(顺庵的声音很平稳,但是表情严肃。)
順庵は、孝吉を自分の部屋に連れて行き、厳しく問い詰めた。孝吉は何も言うことが出来ず、畳の上に泣き伏すだけだった。
(顺庵将孝吉带到了自己的房间,严厉地盘问他。孝吉什么都说不出,只是趴在榻榻米上哭泣。)
「泣いていたのでは分からない。とにかく訳を話してみなさい。」と言う順庵の声に、孝吉は今までのことをありのまま話し始めた。
(“只是哭的话,我不明白。总之说理由。”听到顺庵的话后,孝吉开始讲述起了迄今为止的事。)
話が終わった時、順庵が言った。
(孝吉语毕,顺庵说道。)
「お前の母を思う深い気持ちはよくわかった。孝吉、お前のしたことは、明らかに悪いことだが、お前の悩みや苦しみを分かってあげられなかった私にも、責任がある。さあ、その薬を持って、早くお母さんのところへ行ってあげなさい。」
(“我已经相当理解你对母亲的深沉思念了。孝吉,你所做的事确实不对,但是不能理解你的烦恼与痛苦的我也有责任。好,你拿着这药,尽快回你母亲的身边吧。”)
「では、先生、私を許してくださるのですか。」
(“那么,老师,您原谅我了吗?”)
「しっかりお母さんの看病をするんだぞ。お母さんが良くなって、孝吉が帰ってくる日を待っているぞ。」
(“你要好好照看你母亲。等你母亲恢复了,我等你回来。”)
「順庵先生、ありがとうございます。」
(“顺庵老师,谢谢您。”)
孝吉の目から涙が流れていた。
(孝吉的眼中流下了泪水。)
孝吉は、朝早く、母の待つ家へ向けて旅立っていった。
(孝吉一大早就出发前往了母亲所在的家。)

