【睡前故事】《小王子》系列之地球篇

《 地球 》
こういうわけで、,
七番目の星が地球だった。
地球に着いた王子さまは、,
人っ子一人いないことに驚いた。
「もしかして、星を間違えたかな。」と、,
不安になってきた。
その時、,
月色の輪が砂の中で解(ほど)けた。
王子さまは一応声を掛けてみた。
「こんばんは。」,
「こんばんは。」,
「この星は、何と言う星?」,
「地球だよ。アフリカさ。」,
「そうか。
それじゃ、地球には誰もいないの?」,
「ここは砂漠だからね。
砂漠には誰もいない。
地球は大きいんだよ。」,
王子さまは、岩に座って空を見上げた。
「星がキラキラ光っているのは、,
旅をしている僕たちみんなが,
いつか自分の星に帰る時、,
すぐに見つかるようにかな。
見て、あれが僕の星。
ちょうど真上にある。
でも、なんて遠いんだ。」,
「綺麗な星だね。
なぜ地球に来たんだい?」,
「僕、花とうまくいっていないんだ。」,
「そうか。」,
「人間はどこ?
砂漠って、ちょっと寂しいよね。」,
「人間がいても寂しいさ。」,
「君って、変わった生き物だね。
指みたいに細くて。」,
「でも、王様の指よりずっと強いんだよ。」,
「そんなに強いはずはないよ。
足もないし、旅も出来ないじゃない?」,
「私は船より遠くにお前を連れて行ける。」,
蛇は、金のブレスレットのように,
王子さまの足首に巻き付いた。
「私は、触れた物を皆土へと返してやる。
しかしお前は、純粋無垢で、,
星からやって来たという。」,
王子さまは、何も答えなかった。
「可哀相に。
この岩だらけの星で、,
お前は斯(か)くも弱い。
いつか、,
自分の星が恋しくてたまらなくなったら、,
私が力を貸してやろう。」,
「分かったよ。
でも、どうして君はいつも,
謎めいた話し方をするの?」,
「私には、全ての謎が解けるからさ。」,
そして、どちらも黙り込んだ。
王子さまは高い山に登った。
これまで、山と言えば、,
膝の高さの三つの火山しか知らなかった。
死火山は、腰掛代わりに使っていた。
「こんなに高い山からなら、,
この星も人間も全て一目で見渡せるぞ。」,
しかし見えたのは、,
針のように鋭く切り立った,
岩山の頂ばかりだった。
「こんにちは。貴方は誰?
友達になってよ。僕、寂しいんだ。」,
王子さまは、,
それが木霊(こだま)だと知らないので、,
こう考えた。
「変な星だな。
どこもかしこも乾いていて、,
尖(とん)がっていて、塩辛い。
人間には想像力がなくて、,
言われたことを繰り返すだけ。
僕の星には、花が咲いていた。
あの花はいつも先に話しかけてきた。」,
砂と岩と雪の中を,
長い間歩いてきた王子さまは、,
ようやく一本の道を見つけた。
そして、,
道は必ず人間がいる場所へと通じている。
王子さまの行き着いた先は、,
薔薇の花が咲き揃った庭園だった。
「こんにちは。」,
「こんにちは。」,
王子さまは薔薇たちを凝視(ぎょうし)した。
どれも王子さまの花にそっくりだった。
「君たちは誰なの?」,
「私たちは薔薇よ。」,
「そんな!」,
王子さまはとても悲しい気持ちになった。
王子さまの花は、,
自分は宇宙で,
たった一つだけの存在と語っていた。
それなのに、,
この庭園だけで,
同じ花が五千本もあるなんて。
「あの花がこれを見たら、,
酷く傷つくだろうな。
笑いものにならないように,
激しく咳をして、,
死んだふりをするかも。
そして僕は,
花を介抱するふりをしなきゃいけなくなるんだ。
そうしないと、,
僕に恥じ入らせようとして、,
本当に死んでしまう。」,
そして、王子さまはこう思った。
「この世に一つしかない花を持っていて、,
豊かだと思っていたけど、,
僕が持っていたのは,
ただの有り触れた薔薇の花だったんだ。
あとは膝までの高さしかない,
三つの火山。
そのうちの一つは,
永久に火が消えたままかもしれない。
これじゃ僕は,
立派な王子にはなれないよ。」,
そして王子さまは、,
草の上に突っ伏して、泣いた。