铃芽之旅 3

每看见一户人家,我都会透过窗户从外面仔细打量房间内的情况。不论是哪个房子,都被墨绿色的青苔所掩埋。大抵都是窗玻璃分崩离析,支离破碎的窗帘在微弱的风中摇曳。发出难以令人察觉的声响。在屋子的里面,都有长满茂盛的杂草。碗盆,电子琴,教科书之类的东西,四散在杂草间。却还是保留着不可思议的崭新面貌。只听见我:“妈妈——”,“妈妈——”的声音回荡在其间,掠过这些地方的时候仿佛被空气所带走吞噬。
家を見つけると、私は窓から中を覗のぞき込む。どの家も深い緑に埋もれている。たいていは窓ガラスが割れていて、ちぎれたカーテンが小さな音を立てて風に揺れている。家の中にも雑草が茂っていて、食器とか電子ピアノとか教科書とかが、不思議な真新しさで草の間に散らばっている。おかあさん、と言おうとした声が、空気が抜けたみたいに掠かすれてしまう。

妈——妈!
从喉咙里发出声嘶力竭的声音,又一次大声呼唤。但那声音却,像是被爬山虎附着的墙壁一般。什么反应都没有一样地被吸进稀松平常的日常中去了。
「おかあさん!」
喉のどに力を込めて、もう一度大きく叫ぶ。でもその声は、蔦つたに覆われた壁に何事もなかったかのように吸い込まれてしまう。

就那样不知望过了多少户人家,也数不尽踏遍了几多杂草,呼唤了无数遍母亲。无论是谁也好,遇见一只动物,或者是碰见一个能回应自己的人也没有。我呼唤妈妈的声音,被无处不在的野草,破碎的建筑群,层层叠叠的汽车们,在屋顶停靠的渔船这些物体,统统吸收消化,再也回不到原来的样子。不论我走到哪里,仅仅只有的是遗弃的废墟,不知如何是好与深深感到绝望一并使我的眼泪忍不住涌上心头。
そうやっていくつの家を覗き、どれほどの草を踏み、何度母を呼んだことだろう。誰も答えず、誰にも会わず、一匹の動物も見なかった。おかあさんと叫ぶ私の声は、雑草に、崩れた家々に、積み重なった車に、屋根に載った漁船に、吸い込まれたまま戻ってこなかった。いくら歩いても、あるのはただ廃はい墟きよだけだった。どうしようもない絶望と一緒に、涙がまた迫せり上がってくる。

「おかあさん! ねえ、おかあさん、どこーっ!」
ぐしゃぐしゃに泣きながら、私は歩く。吐く息が白い。湿った息はすぐに冷たくなって、私の耳の先をもっと冷やす。泥が詰まって黒く汚れた指先も、マジックテープの靴を履いた丸い足先も痛いほど冷たいのに、喉と心臓と目の奥だけが、そこだけの特別な病気のように不快に熱い。
気づけば太陽は雲の下に沈み、あたりは透明なレモン色に包まれている。頭上では相変わらず、星々が乱暴に光っている。私は歩くことにも泣くことにも疲れ果て、草の中にうずくまっている。ダウンジャケットの丸めた背中から、風がちょっとず
つ体温を盗み、代わりに無力感を吹き込んでくる。小さな体が、泥に置き換わるように重くなっていく。
──でも、これからだ。
離れたところから自分を観察しているような気分で、私はふと思う。
ここからが、この夢のハイライトだ。私の体は凍え、不安と寂しさの果てに心も麻ま痺ひしていく。もうどうでもいいやと、諦あきらめが全身に広がっていく。でも──。
さく、さく、さく、と、遠くから小さな音がする。

誰かが草原を歩いてくる。ちくちくと尖とがって固かったはずの雑草は、その人が踏むとまるで新緑の季節のような優しく柔らかな音を立てる。両りよう膝ひざに埋うずめた顔を、私は上げる。足音が近づいてくる。私はゆっくりと立ち上がり、振り返る。目の曇りを拭ふき取るように、ぎゅっぎゅっと強くまばたきをする。揺れる草の向こうに、夕焼け色の薄紙に透かしたような人影が見える。ゆったりとした白いワンピースが風に丸く膨らみ、金色の光が長い髪を縁取っている。ほっそりと大人びたその人の口元には、夜明けの細い月みたいに薄くカーブした笑みがある。
「すずめ」
名を呼ばれる。そのとたん、耳から、指先から、鼻の頭から、その声の波が触れた先端からたちどころに、温かなお湯に浸ったような心地好さが全身に広がっていく。さっきまで風に混じっていた雪片は、いつのまにかピンク色の花びらとなってあたりに舞っている。
そうだ。この人は。この人が。
ずっとずっと探していた──。
「おかあさん」
と呟つぶやいた時には、私はもう夢から覚めていた。
そういう景色のように、美しい人
あれは夢の、いつも行く場所。

今は朝で、自分の部屋。
布団の上で、私は秒で理解する。ちりんちりんと、窓辺の風鈴が小さく鳴っている。海の匂いのする風が、レースのカーテンをゆっくりと揺らしている。あ、湿ってる、と、枕につけた頰で思う。寂しさと喜びの混じった痺しびれが、指先と足先にうっすらと残っている。私はシーツにくるまったまま、その自堕落な甘やかさをもうちょっとだけ味わおうと目をつむる。と、
「鈴すず芽めーっ、起きたー?」

階下から、ちょっと苛いらついたような大声が響いた。胸の中で溜ため息いきをつき、よっこらしょと体を回し、「起きたー」と大声を返す。さっきまであったはずの夢の余韻は、もうすっかり消え失うせている。