津島 直人变形金刚漫画Asterisk Story
STORY: The Cat and the Medal猫と勲章

昨日までの雨がうそのように、大きな雲と澄んだ空が広がっている。
アイは、日課のパトロールが遅番の日は、屋上でお弁当を食べることにしている。熊の模様のお弁当
は、そぼろと卵で描いたアイのお手製で(と、いっても母親の考案だが)熊は作り手の大きなあくび
のあおりを受けて、アイの左手の上で、空を見上げていた。
「ふぁ~~、いい天気だなぁ」
うるうると目をしぼませながらインプレッサのパトカーを形容した相棒「アラート」を金網にかかる
交通標語の垂れ幕の上からひょいと見下ろした。
「あれ?ぴかぴかに磨いたばかりなのに・・・」
どの車にも負けない白黒のツートンが映えるはずのボンネットに茶色の染みのようなものが見える。
熊はあっという間にプラスチックのキャンバスから消され、味気ない色味のハンカチに包まれた。
「ちょっと!またチャーか・・・」
階段を1段飛ばしで駆け下りたアイの目の前には、ボンネットの固定客である野良猫が、くぅくぅと
寝息を立てている。アイはその野良猫にチャーという名前をつけていた。茶色だから、"チャー"。
「まぁまぁ、ネコに罪はない。捨てる人間が悪いんだ」
インプレッサのパトカーは猫の眠りと出動間際の警官たちを気にして、小声で諭すように返事をした。
「アラートだって、足跡が付いたらイヤでしょ! 結局洗うのは私なんだしさぁ」
アイはぶつぶついいながら優しくチャーを抱え上げ、インプレッサに乗り込んだ。猫は昼寝を邪魔さ
れたことを気にもせず、とたとたと県警の敷地から駆け出ていった。
「ふっ。アイよりも、寝起きはいいようだな」
「う、うるさいなっ!もう行くよ!」
2、3日前も、早朝パトロールと偽ったアラートのサイレンで、起こしてもらったばかりである。

いつもの国道沿いの交番に立ち寄ると、30代くら
いであろうか、顔を青ざめながらも身振り手振りで
警官に熱弁している女性がいる。どうやら子どもに
昼飯の買い物を頼んだのだが一向に帰ってこないら
しい。よくよく聞いてみると引越してきたばかりで
土地勘もほとんどないらしく、迷子だ、事故だ、誘
拐だ、と母親はハンドバッグを振り回しながら騒ぎ
立てている。
「だったら子供に頼むなよ・・・人間て奴は・・・」
とアラートは、高出力の粒子振動センサーで会話を
拾いながら、路肩で呆れていた。
「来留間、悪いが・・・」
困っているのかうんざりしているのか、眉間にしわ
を寄せている上官が全てを言い終わる前に、
「了解しました、探して参ります!」
びしっと、右手を帽子に当て、すぐさまインプレッ
サで、捜索へ向かった。
「事件だぁ、事件だよ~アラート!」
アイはいつもより運転席を前に移動させ、顔をフロ
ントガラスにこすりつけそうな程、商店街の端々ま
で目を凝らしていた。
「なんか、楽しそうだな」
きらきらとしたアイの目とハンドルを握る強い力も
相成り、アラートはぽつりと言う。ルーチンワーク
の平凡なパトロールに飽き飽きしていたアイは、迷
子だろうが銀行強盗だろうが、事件という二文字に
枯渇していたのだ。通りかかりの子供たちへの聞き
込みや子供が足を運びそうな店を中心に探してい
く。
おもちゃ屋、本屋、駄菓子屋、コンビニ、ゲームセ
ンター・・・。
だが、手渡された写真の子供は一向に見つからな
い。
アラートも熱反応スキャナーの感度を最大に上げ、
一帯をサーチしているが、反応は無い。
当初は張り切っていたアイも、少しばかり表情が
曇ってきた。

「困ったなぁ。ホントにまさか・・・!」
緩やかに流れる大きな雲を見上げたア
イの頭の中では、マンガに出てきそう
な、いかにも悪人風のヒゲ面の男が、
泣きじゃくる子供を抱えながらワハハ
ハと高笑いを挙げていた。
ぶるると、首を振ったとき、頭の上の
方でも何か泣き声が聞こえた。
「!!!」
ヒゲ面の男を想像してか、携行してい
る警棒に手をあてた時、その泣き声が
どこかで聞いたことがあることを感じ
た。
いつもの野良猫、チャーである。
いつもと違うことは、ボンネット上で
の安らかな顔からは相反する恐怖に怯
えた顔をしていた。どうやら木の上か
ら降りられないようだ。
「まったく、もう。こんな時に!」
と、いいながらも、アイは足をどの幹
に掛けて登れば良いか、既に戦略を
練っていた。
子供の頃から木登りで友達に負けたこ
とは無いのだ。
「チャー! 今行くからね~!!
おとなしくしてるんだよ~!!!」

茶色の猫の震えは止まらず、何度か小さな足を滑らせながらも、何とか持ちこたえている。
「アイ!危ないからやめろ!!近くに消防署があるから、救援に来てもらえ!!」
アラートがアイの声紋を使って無線で連絡を取ろうとした時、アイはもう幹の上にいた。
「よかった。ごめんね、チャー。今度はゆっくりアラートの上で寝ていいからね」
と、チャーにほおずりをした、その時。さっきまでの緩やかな風からは信じられない大きな突風が幹の上を通過した。
「きゃあっ-!!!!!」
アイは風にバランスを崩し、チャーを抱きかかえながら背中から地面へ落ちていった。
(明日から早起きするつもりだったのに・・・)
(ああ、原宿のお店のアイスクリームをもっと食べたかった)
(勲章なんてものも一度はもらいたかったなぁ)
とまさしく走馬灯のように、アイはこの世に後悔と懺悔の念を繰り返していた。

だが、目をつぶったままのアイ
とチャーが、硬直した瞼を緩め
たとき、目の前には、逆光で焦
点がぼやけるが、はっきりと白
く輝くにやりとしたアラートの
顔があった。
「高いところが好きな奴はバカ
な奴っていう諺があるらしい
ぞ」
アイを抱えた大きな手は、特殊
な金属できているのであろう
が、とても柔らかく温かかっ
た。
アラートの手からぴょんと飛び
降りた猫は、またとたとたと駆
け出していった。
曲がり角を曲がり、猫は二人の
視界から消えていった。
「ちょっと、お礼くらい言って
よね!」
アイが、膨れていると、チャー
の泣き声がまた聞こえた。
「今度は何だ?マンホールにで
も落ちたか?」
アラートは、いつもの癖で頭を
掻きながら嘆く。

2人が角を曲がると、チャーは泣きつかれてしゃがんでいる男の子の顔をなめていた。
男の子の右腕には、半透明のスーパーの袋が提がっている。
「あっ!!」
アイは、アラートと顔を見合わせた。紛れもなく、写真の男の子であった。
「やっと、見つけた・・・」
アイは両手を膝に掛けながら、大きなため息をついた。
「これは猫の恩返しだな、アイ」
「そうだね、アラート。これで、私も勲章ものかな」
と、意気込んで無線で署に報告しようとした時、チャーが足元を駆け抜けた。口にはスーパーの
袋から取り出された魚を一匹くわえていた。
「こ、こら!そこの泥棒、止まりなさい!!」とアイは警棒を振り回しながら追いかける。
「勲章をもらったのは、猫の方か・・・」
アラートは、パトカーに姿を変え、熱反応スキャンの照準を、子供から魚に切り替えた。
STORY: I'll Show You Some Great Scenery良い景色教えます

「きぃもちぃぃい~空気も最高!!」
週末の秋名峠に、ジュンコのひときわ甲高い声がこだまし、羽を休めていた鳥たちが3羽ほど、
日差しを吸い込みながら空へと飛び立った。
ミッションを持て余し、ご自慢のV10エンジンを回せずに、フラストレーションが溜まる一方
のサンストリーカーは、お気に入りのパンクロックを聴きながら、何とか発散しようと尽力して
いた。
「ムズがゆい・・・ったく、こんなスピードじゃ俺様の吸気バルブはサビちまうぜ!!」
「ねぇサンストリーカー。見て見てぇ、すっごいいい景色!!」
峠も半ばに差し掛かったところで、眼下に広がる街並みをみながら、ジュンコはその腰まで届く
であろう長く美しい髪を風に任せて、歓喜の声を挙げた。

サンストリーカーが、その髪が放ったマリーゴールドの香りに回転数が少し上がった時、
ジュンコの視線はとうに車外に無く、ぱらぱらとファッション誌をめくっていた。
「っておい!景色はどうした、景色は!!!」
「秋物のお洋服、そろそろ欲しいわねぇ・・・」
完全にジュンコの細い腕はハンドルから離れ、数々のフラッシュを浴びた2本の脚も、3つ
のペダルからほど遠い位置にある。というか、脚を組んでいた。
「安全運転で、よろしくね!」
あっけなく運転の主導権を譲られたサンストリーカーが、更に音楽のボリュームレベルを上
げたその時、1台の黒のコルベットが、サイドミラーをかすめ、爆音を残し過ぎ去った。
思わず、ブレーキディスクに大きな抵抗を与え、スピードを急減速させた。
「きゃっ!!!」
ジュンコはその反動で、ページが20ページほど飛び、茶色のコートは、パウダーがふんだ
んにまぶされた純白のスィーツへと変化した。
「ちょっと、今読んでたのに!!もう、どこのページだったかしら・・・」
「許さん!!あの黒いヤツ!!」

眠っていた5速・6速は、運転者の手により見事に解禁になり、パンクロックの音はサンス
トリーカーの奏でる激しい音色にあっさりと掻き消された。
「きゃ~~~!!!と~め~て~~!!!!」
シートは上下にがたがたと震えだし、助手席においていた買ったばかりのハンドバックから
は、ファンデーションやら乳液やらが踊り出てきている。
少し磨り減っている4本のタイヤは、地球の全重力を全身に受けているかのごとく路面に吸
い付き、マフラーからは鮮やかなスパークがイエローのボディに彩を添えていた。
「俺様を追い抜こうなんざ、100億光年早いんだよ!!!!」
10本のピストンは、ジュンコが吸った秋名の澄み切った空気を、力強く圧縮し、爆発的な
推進力へと変えている。大きなダウンフォースにより、ダッジバイパーのサイドスカート
は、路面すれすれに空を切っていた。
「ぶつかる!ぶつかる!!あんた足も速いけど、視力も良かったわよね・・・ははは」
ジュンコは泣きながら笑う特殊技術を身につけたときには、黒のコルベットの背中が大きく
迫っていた。
「へっ!そんなスピードじゃ、ハエも止まるぜ!!」
コルベットのスリップストリームに入り、リアナンバーも読み取れる距離に近づいたとき、
"急カーブ注意 キケン"という標識の字も同時に読み取れた。
目の前には、先ほどよりも眺めの良い絶景がジュンコのすぐそこに迫ってきた。

「もう、ムリ!ありえない!!」
サンストリーカーのボンネットから、エンジンスパークとも地面との火花とも異なる眩い光を
出した。そして、光の中心を軸に左右に割れ、左足のようなものを標識にかけ、どこぞの雑技
団のように、くるりとカーブを曲がった。
いや、曲がったという表現よりも、回ったという方がより近い。しかも空中をだが。
「ジュンコ、景色はこう見るもんだぜ!!」
ジュンコの目の前は、いつかの展望台のように木々・川・街並みとめまぐるしく景色が変わっ
た。ものすごい速さで。後ろで綺麗にまとめた髪は完全に崩壊し、涙でマスカラが落ちかけて
いる。コルベットは、遥か後方へと置き去り、ようやくパンクロックが聞こえてくる速度に
なってきた。最後のキメポーズとばかりに、白煙を巻き上げながら、スピンターンを決める。

「ハ、ハハハ・・・良い景色だったわね・・・・」
「だろ!? 俺の走りのお陰だぜ!!!」
「どうすんのよ!あの折れ曲がった標識!!また弁償よ!あのコート欲しかったのに!!!」
車から降りたジュンコは、ロボットに姿を変えたサンストリーカーに、顔を真っ赤にしながら
怒っている。
「わりぃわりぃ、でも抜かれたままじゃ、俺様の血が黙っちゃいねぇんだよ」
「そんなことは聞いて・・・・うっ・・・・」
ジュンコの真っ赤な顔が、急激に真っ青への変色していく。
「わ~!もしかして~!!!」
少しばかり、自らのスピードへの罪悪感を感じたサンストリーカーであった・・・・。
STORY: The World's First Disaster Relief Car!?世界初!? 災害救助カー

毎年秋になると開かれるカーファンの為の一大イベント、東京モーターショー。
次年度のカー・オブ・ザ・イヤーの候補車や、もっと数年先の未来を描きたてるコンセプトカー
など、見るものを飽きさせない車種が所狭しと並ぶ様は圧巻である。
当然マスコミ各社からもイベントレポーターがかりだされ、ルミナにも仕事の話がきていた。
「今年で50周年を迎えます東京モーターショーの会場にきております。今年のショーテーマは
『みんながココロに描いてる、くるまのすべてに新提案』です。
どんなすばらしい車が私たちを待っているのでしょうか? 楽しみです。」
会場全体が見渡せる2階から、ルミナの撮影は順調にスタートした。

「ルミナはしっかり仕事をしているな、よしよし。」
ブロードブラストはファミリー向けの提案である試乗車として展示されながら、ルミナの仕事ぶり
を見守っていた。
そして、ルミナ撮影陣がトヨタブースを撮影する番が訪れた。
「さあ、こちらが若者受けするデザインと、実用的で広々とした空間を併せ持つトヨタbBです。
ちょうどご家族で試乗中ですね。」
楽しげにはしゃぐ子供と話を行いつつ撮影もほぼ終了するかと思われた瞬間、事件が発生する。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・」
会場全体が縦に揺れており、天井からぶら下がっている蛍光灯や看板が振り子のように左右に動き
出した。このところ頻繁に人々の生活を脅かしている地震である。


「・・・・結構長いわね、大丈夫かしら」
各ブース試乗中の客を車外に連れ出し非常口の場所を確認し始
める。揺れは2分ほど続いた後、
何事もなかったように沈静化した。
「ふう、ハプニングもありましたが、無事だったようです。」
すぐさま会場の人、音響が動き出し、またモーターショーは再
開され始めた。しかし人では体感できない地震の余波はまだか
すかに残っており、ブロードブラストは警戒態勢のまま、辺り
を見回している。
「ミシ・・・・ミシ・・・・」
気味の悪い音を聞き逃さなかったブロードブラストは、ヘッド
ライトを点滅させ、ルミナに合図を送った。
「ルミナ!!今すぐ隣のブースから人をどかせ!」
「ちょっと、他の人にばれちゃうでしょ、いったい何なの?」
「となりのブースの巨大モニターを見ろ!
ぐらついているぞ!」
血相を変えて振り向いたルミナの眼に、不安定に揺れる巨大
モニターが映った。


隣のブースでは、2006年に発売する話題の車種を宣伝すべく200インチの巨大モニターが
設置されていた。かなり高い位置に置かれていたため、揺れの影響を大きく受けてしまっている。
「皆さん、ただちに避難してください!」
会場のざわめきにかき消され、なかなかルミナの声はブースに届かない。
少しずつ避難させている間に、最悪の事態が起きる。
「バキ!!」
200インチのモニターの足がついに折れてしまい、落下し始めたのである。
「ウワァァァァァ!!」

人々が驚き逃げようとした瞬間、無人のbBの扉が開き、中からたくましい腕が出現し、
空中に向かって飛び出した!
「トランスフォーーーーム!!」
あらかじめルミナによって作られたスペースにすばやく着地したブロードブラストは
落下するモニターを両の腕で支えこんだ!
「さあ、みんな避難するんだ!」


落下地点付近の人を先に避難させたルミナたち撮影陣と、ブロードブラストの活躍もあり、
奇跡的に大きな傷を負ったものはゼロであった。
普通ならばこの後、ショーは中止になる可能性もあったのだが、ルミナの計らいによって
「交通事故を防ぐ話題のbB」という切り口で記者や観客は殺到、難を逃れた。
「・・・というわけで、人々の生活の安全を第一に考えられた新生トヨタbBの前より
星ルミナがお送りいたしました。」





