徒然草 第44段 あやしの竹の編戸の内より、・吉田兼好 日文念书

あやしの竹の編戸の内より:粗末な竹の網戸の中から。「あやし」は粗末な、の意。
狩衣に濃き指貫:「狩衣<かりぎぬ>」は、古代・中世、公家が常用した略服。胡服(こふく)系の盤領(まるえり)で、前身頃(まえみごろ)と袖が離れており、袖口にくくりの緒がついている。布製であるところから布衣(ほうい)とよんだが、平安後期になると、野外の出行や院参に華麗な絹織物が使われるようになり、位階・年齢に相応したものを用いる慣習を生じた。。「指貫<さしぬき>」は袴(はかま)の一。括(くく)り緒の袴の系統で、裾口にひもをさし通し、着用の際に裾をくくって足首に結ぶもの。八幅(やの)の裾長を普通とし、略儀に用いる布製の袴の布袴(ほうこ)がのちに絹製となり、公卿は綾・固織物・浮織物を用いるのが例となった。指貫の袴。奴袴(ぬばかま)(以上『大字林』より)。
いとゆゑづきたるさまにて:何か由緒ある様子の、品のよい。
笛をえならず吹きすさびたる:笛を実に上手に吹いて、。
あはれと聞き知るべき人もあらじと思ふに:この笛の音をすばらしいと聞く人もないと思われるのに。
山のきはに惣門のある内に入りぬ:山際の惣門の有る家に入っていった。「惣門」はハイクラスの屋敷の大きな門のこと。
榻に立てたる車の見ゆるも:「榻<しじ>」とは、牛車(ぎつしや)から牛を外したとき、車の轅(ながえ)の軛(くびき)を支え、乗り降りに際しては踏み台とする台。形は机に似て、鷺足(さぎあし)をつけ、黒漆塗りにして金具を施す(『大字林』より)。榻をその側においてある牛車の見えるのも、。
夜寒の風に誘はれくるそらだきものの匂ひも:夜の風に乗ってにおってくる薫物。
女房の追風用意など:女性たちの薫物の匂いのこと。
虫の音かごとがましく:「かごと」は、恨み嘆いて言うようすがありありと感じられる。虫の鳴き声をぐちめいている、と表現した。