へんちくちく音機
あいつとの出会いは、冬休みにおばあちゃんの家に行った時だった。
【これ、欲しいな】
【それは、無理だと思うぞ。】
と、お父さんが言った。
【どうして】
【それはなあ、おばあちゃんがずっと大事にしていた、おばあちゃんの宝物なんだから。】
【ふーん。でも、一応聞いてみるよ。おばあちゃーん、二階にあるラッパみたいなやつ、ちょうだい。】
【あれは、駄目よ。おばあちゃんのおじいさんからもらった大事な宝物なんだから。】
【そう言わずに。お年玉いらないから。】
【うーん、しょうがないわねぇ。その代わり、今日からあなたたちが帰るまで、おばあちゃんの言うとおりにするのよ。そしたら後で送ってあげる。】
それから五日の間、おばあちゃんの言うとおりにした。帰る日、おばあちゃんは、ちょっと寂しそうな顔で僕たちを見送った。
【ただいま。】
誰もいない家の中に挨拶をした。玄関には、
大きなダンボール箱が置いてあった。もしかしたらとかけ寄ってみると、おばあちゃんが送ってくれたちく音機だった。早速部屋に持ち込んで、レコードをならしてみた。
はじめは、いい音楽が流れていたが、しばらくすると、
ガーガーザーザー
という声が聞こえてきた。どうしたんだろう。僕は、ダイヤルをいじくり回していると、
【コソバイでござる。】
という声がした。僕は、辺りを見回した。
【誰だい】
【目に前にいるでござる。ところで、ここはとこでござる】
【君が喋っているの】
【セッシャ以外誰が喋るんでござるか】
【信じられない。ここは、亀岡市だけど。】
【セッシャ舞鶴に住んで、おらなかったか】
【ああ、すんでいたけど、ぼくがもらってきたんだ。けど君は、どうしてそんなお侍さんみたいない言葉を使うんだ。】
【セッシャ、元お侍の家にいたからでござる。セッシャの主人は、お侍だった時の言葉を忘れないために、毎日毎日セッシャの前で喋っていたのござる。】
【どうして君は、喋れるよになったの。】
【それはでござる、ある日、主人が酒を飲んで、酔っぱらって、セッシャを思いっ切り、蹴飛ばしたのでござる。その、ショックで、言葉を話せるようになったのでござる。セッシャ、舞鶴では、ばーさんとよく話をしたものだ。ばーさんは、よく旅行へ行くので、旅の話を聞かせてくれたものでござる。ばーさん、元気にしているでござるかなぁ。】
その時、お兄ちゃんの声が聞こえた。
【じゅーん、おばあちゃんからちく音機、届いたのか】
【お兄ちゃんが来ても、一言もしゃべるなよ。】
【分かっているでござる。】
【なかなか立派なちく音機じゃないか】
【お兄ちゃん、このちく音機、いつ作られたんだと思う。】
【明治時代】
【何で知ってるの。お兄ちゃん。】
【僕は、喋ってない。】
【それじゃ、誰が喋ったの。】
【セッシャでござる。】
【えーっ】
【どうしたのお兄ちゃん。何か言った。】
【今、ちく音機喋らなかったか。】
【喋るわけないじゃないの、耳がおかしくなたんじゃない、お兄ちゃん。】
【じゅん、何か僕に隠してるだろう。】
とうとうお兄ちゃんにもばれたらしい
【実はねぇ、このちく音機喋るんだよ。】
【いっちょう喋らせてくれ。頼む。】
【おい!ちく音機、ちく音機!】
【グースカ、グースカでござる。】
【お兄ちゃん、こいつ寝ているよ。】
【しょうがない、後にして野球しよう。】
【ストライク、ストライク、カッキーン。】
僕は思いっ切りボールをぶったたいた。
そのボールは、窓をつきぬけ、僕の部屋に入っていった。
【あっ、ちく音機大丈夫かなあ。】
僕は走って二階へかけあがった。
僕に部屋に入ってみると、ちく音機のラッパの中にすっぽりとボールが入っていた。僕は慌ててボールをひきぬき、
【おい、ちく音機、大丈夫か。】
と聞いた。でもちく音機は何にも喋らなかった。まだダイヤルをいじくり回した。すると、小さな小さなこえで、
【さらばでござる。】
と、いう声が聞こえた。