【日本小5道德】20#贝多芬
ベートーベン(贝多芬)
作者:矢部 美智代(やべ みちよ)
窓から差し込む朝の光がまぶしくて、十四才のベートーベンは目を覚ましました。そして、一瞬、ここはどこだろうと考えました。たった今まで、ベートーベンは、小鳥の声と小川のせせらぎを聞きながら、森の小道を歩いていたのです。……あ、夢だったのか。
(从窗户照射进来的晨光耀眼,十四岁的贝多芬醒了。然后,他一瞬考虑道自己正身处何处。就在方才,贝多芬还一边听着小鸟的声音和小溪的潺潺流水声,一边走在森林的小路上。……啊,是梦啊?)
まだ夢の世界の微笑みが残っている顔で、部屋を見回したベートーベンの目に、またソファーで眠っている父ヨハンの姿が映りました。父の寝息と小鳥の声も違い過ぎる。ベートーベンは、急いで窓を開けて朝の空気を入れながら、思わずため息をついていました。……森の小道の空気と、何て違うんだ。
(贝多芬的脸上还残留着梦中的微笑,他环视了房间,又在沙发上睡觉的父亲约翰的身影映入了眼帘。父亲睡觉的呼吸和小鸟的声音也差太多了。贝多芬赶紧打开窗户,放入了早晨的空气,他不禁叹了口气。这和森林小路的空气多么不同啊。)
でも、次の瞬間、(今日は、ネーフェ先生にレッスンを受ける日だ。元気を出そう。)と自分に言い聞かせました。
(但是,下一瞬间,他对自己说道今天要去奈弗老师家上钢琴课。打起精神来吧。)
食事を済ませると、ベートーベンは仕事に出かけて行きました。
(吃完饭后,贝多芬出门去工作了。)
仕事……。ベートーベンは、ボンの町で、子供達にピアノを教えていたのです。他にも、教会のオルガン奏者、劇場のチェンバロ奏者、宮廷のオルガン奏者として働いていました。まだ十四才でしたが、最近では、ベートーベンの収入が家を支えていたのです。
(工作……贝多芬在波昂镇上教孩子们钢琴。他还作为教会的风琴演奏者、剧场的古钢琴演奏者、宫廷的风琴演奏者工作。虽然他只有十四岁,但最近贝多芬的收入支撑着家庭。)
ネーフェ先生は、ピアノの演奏だけではなく、作曲も教えてくれました。すぐにその面白さにのめり込んだベートーベンが、初めての曲を完成させ、先生から、「おめでとう。いい曲だ。君には、豊かな才能がある。」と褒められたのは、十二才の時。あの時の誇らしさは、今でもはっきりと覚えています。でも……。いくら、僕に音楽の才能があったって、家で僕を待っているのは……。仕事を失った父親、体の弱い母親や世話のかかる二人の弟達……。ネーフェ先生の家に向かう頃には、ベートーベンの心は、また重く沈んでいました。
(奈弗老师不仅教钢琴演奏,还教作曲。贝多芬立马陷入了作曲的乐趣之中,完成了第一首曲子,被老师表扬“恭喜。曲子不错。你富有才能。”是在他十二岁的时候。他至今都牢牢记着那时的骄傲感。但是,就算我再怎么有音乐的才能,在家中等着我的是……失业的父亲、身体虚弱的母亲和需要照料的两个弟弟……前往奈弗老师家中的时候,贝多芬的内心又沉重了起来。)
ドアを開けた途端、ネーフェ先生が、ベートーベンをちらりと見ました。
(打开门的瞬间,奈弗老师扫了一眼贝多芬。)
先生は肩に両手をのせて、優しくベートーベンの顔を覗き込みました。
(老师双手搭在他的肩上,温柔地注视着贝多芬的脸。)
「そんなに辛いのかい。」
(“你有那么痛苦吗?”)
「えっ?」
(“诶?”)
「自分は、世界中で一番不幸だ、って言う顔をしているぞ。」
(“你露出了认为自己是世界上最不幸的表情。”)
「あっ……。ごめんなさい。」
(“啊……对不起。”)
「いいんだ。そうだ、今日はレッスンをやめて、散歩に行こう。」
(“没事。对了,今天不上课了,去散步吧。”)
ネーフェ先生は、ベートーベンを連れて、夕暮れの町を歩き始めました。
(奈弗老师带着贝多芬开始在傍晚的镇上走着。)
「多分、君は今、お父さんやお母さんや弟達、それにお金のことも、全部一人で背負い込んでいるんだろう。違うかい?」
(“你也许现在独自背负着父母、弟弟们以及钱的事吧?”)
ベートーベンは、はっとしました。
(贝多芬惊了一下。)
「ほら、周りを見てごらん。皆平気な顔をしているけれど、世の中には、人の数だけそれぞれの辛さ、悲しさがあるんだよ。君の今の辛さも、その一つなんだ。辛さだけに囚われていてはいけない。心がほかの素晴らしいことに気づかなくなるから。心は、もっと広く、広く、開けておくんだよ。」
(“看看周围。大家虽然都满脸平静,但是世上有多少人,就有多少痛苦与悲伤。你如今的痛苦也是其中之一。不要只被痛苦所束缚。否则你的心灵就会注意不到其它美妙的事了。你要打开你的心扉,让你的心胸开阔起来。”)
「心を開けておく?」
(“打开心扉?”)
「そうさ。多くの美しいものに気付き、感動するためにね。その感動を、出来るだけ沢山心に溜め込むんだ。将来、君が作り出すはずの多くの美しい音楽を、今から君の中で育てるために。美しいものを見なさい。沢山感動しなさい。心を閉じてはいけないよ。」
(“没错。你要察觉到很多美好的事,并为此感动。然后尽可能地将众多的感动留存于心。为了从现在开始培养将来你能创造出的众多动听的音乐。看美丽的事物。众多的感动。不可以封闭心灵。”)
先生の言葉が、完全に分かった訳ではありません。でも、町角で先生に別れたベートーベンは、さっきまでよりずっと軽くなった心で、(もう、辛いことをより辛く考えるのはよそう。)と思っていました。
(虽然他没有完全明白老师的话。但是,他在街角与老师道别后,用比方才轻松了许多的心考虑道别再把痛苦的事想得更痛苦了。)
ふっと、今朝の夢を思い出しました。
(他一瞬想起了今天早上的梦。)
そうだ。いつか、あの美しい森の風景を音楽にしよう。僕の大好きな、小鳥の声と小川のせせらぎを、オーケストラで奏でてみよう……。
(对了。将来把那美丽的森林的风景变成音乐吧。用管弦乐演奏我最喜欢的小鸟的声音和小溪的潺潺流水声……)
およそ二十年後、ベートーベンは、段々と耳が聞こえなくなっていく中で、第六交響曲「田園」を書き上げます。
(约二十年后,贝多芬的耳朵渐渐听不到的时候,他写出了第六交响曲《田园》。)

