「何時間も電話を…」陸上界の新星・不破聖衣来が姉に打ち明けた本音

「何時間も電話を…」陸上界の新星・不破聖衣来が姉に打ち明けた本音

走れば驚異的なタイムをたたき出し、駅伝に出場すればごぼう抜き――。
アスリートにとって、大きな期待がプレッシャーになることもあるだろう。
陸上界の新星、不破聖衣来(せいら、19)=拓殖大=は、「最も尊敬している」という同じ長距離ランナーの姉・亜莉珠(ありす、22)=センコー=が心の支えになっている。
一躍、全国に名前が知られるようになったのは、昨年10月の全日本大学女子駅伝。5区(9・2キロ)で6人を抜き、従来の区間記録を1分以上更新した。
その後も快進撃は続いた。

昨年12月に女子1万メートルで、日本歴代2位の30分45秒21をマーク。今夏に開催される世界選手権(米・オレゴン州)の参加標準記録(31分25秒00)も上回った。
今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝では群馬代表で4区(4キロ)を担い、13人を抜く驚異的な走りを見せた。
ただ、レースを重ねるごとに周囲の環境も変わっていった。
街を歩いていると、愛称である「フワちゃん」と声をかけられるようになった。大会前になると、SNS上に陸上ファンによる期待の言葉があふれるようにもなった。
「(当時)18歳であそこまで上りつめて、プレッシャーに感じないはずない」
近くで妹の進化を見てきた姉はこう語る。
何時間も電話で相談を受けたこともあった。

特に、少しずつ陸上ファンに注目されるようになってきていた昨年5月の東京五輪テスト大会前は、精神的に不安定だったという。このときは貧血の影響もあって十分な練習が積めていなかったが、好記録を期待されていた。
「『期待されてうれしいけど、プレッシャーなんだよな』とこぼしていました。強い人には強い人の悩みがあるんだなって」
どんなときも話を聞いてくれる姉がいるからこそ、妹はいつも通りレースに臨むことができる。
「姉だけど、聖衣来のことを100%はわからない。でも、聖衣来自身が自分の口から話すことで、気持ちが少しでも軽くなればいいなって思っています」
妹のすごみがさらに増したと感じる出来事があった。昨年の冬、熱海へ家族旅行に行ったときのことだ。
一緒にジョギングをするために起床すると、畳に敷いた布団の上で黙々と補強トレーニングや体操をしていた。走る時間から逆算し、体を温める。たとえオフの日だとしても、真剣に競技と向き合う姿に驚いたという。
「義務感ではなく、自然にやっている。トップレベルのランナーはその流れが身についているんだなと……。私も見習わないといけないなと思いました」
真面目で努力家。
姉は妹をこう表現する。

走るたびに驚きと興奮を与えてくれる19歳は、世界選手権の出場権をかけて5月7日の日本選手権1万メートルに挑む予定だ。頼りになる姉に見守られながら、まだまだ成長曲線を描いていく。(辻隆徳)
