AKB48の私スタイル vol.1 「向井地美音が語るキャプテンシー」 Interview
「根も葉もRumor」に続き「元カレです」のヒット、60thシングル『久しぶりのリップグロス』がリリース前から話題を呼ぶなど、ますます勢いに乗るAKB48。今回の新連載では毎回特定メンバーにスポットを当て、趣味や特技、こだわりのファッションやヘアメイクなどを語ってもらいながら、それぞれのキャラクターを深掘りしていきます。第1回は3代目総監督とチームAのキャプテンを牽引する向井地美音が、キャプテンシーについて熱く語ります。
高橋みなみと横山由依は違うタイプの総監督だった
――最近、「スプラトゥーン2」にハマっているそうですね。
向井地美音(以下、向井地) 1年前くらいにAKB48の番組収録でゲーム大会があって、当日までにスプラトゥーンを覚えなきゃいけなかったんです。そもそも私はゲーマーではないんですけど、やり始めたらドハマリしまして、毎晩、友達と電話しながらプレイしていた時期もあります。

――「スプラトゥーン2」発売は2017年です。周りは上手い方が多かったんじゃないですか?
向井地 メンバーでもプレイしている子が多くて、みんなすごく上手いです。ようやく私も上達して、Bランクに上がりました。
――それまでゲームにハマったことはないんですか?
向井地 「どうぶつの森」くらいで、戦う系のゲームは初です。一回始めると4時間くらいできちゃうんですけど、夜、寝る時に目を閉じると、勝手に「スプラトゥーン2」の世界が蘇ってきて、頭の中がインクで塗られてみたいな(笑)。それくらい中毒性のあるゲームです。
――一度ハマると、とことんやるタイプなんですね。YouTubeチャンネル「ゆうなぁもぎおんチャンネル」でも、動画編集を担当することが多いとお聞きしました。
向井地 小学4年生頃からパソコンのオンラインゲームを始めて、そこからチャットなどをしているうちにタイピングも早くなりました。中学時代はペンタブなどを使って、AKB48のメンバーの写真を可愛く加工する画像編集にハマっていたのが、今の動画編集に繋がっています。

――向井地さんはAKB48グループ3代目総監督とチームAのキャプテンを務めています。今回は「キャプテンシー」をテーマにお話を伺いたいのですが、AKB48に入る前からリーダーシップはあるほうでしたか?
向井地 全然なかったです。クラスの委員長や部活の部長などの経験もないですしね。グループに入ってからも自分がリーダーになるとは思っていなくて、素質もなかったと思うんです。ただ同期の中では年上のほうで、みんなのバランスを保つ立ち位置でした。若い時ってみんないろんな意見があるじゃないですか。平和主義の私は、それを中和する役だったというか。でもそれ以外は、リーダーやキャプテンになる経験がなかったので、今の状況は自分でもびっくりです。
――初代の高橋みなみさん、二代目の横山由依さん。過去に総監督を務めたお二人は、どんなリーダーでしたか?
向井地 たかみなさんはファンの時からずっと見させていただいていました。AKB48のドキュメンタリー映画でも、みんなの前でメガホンで叱っている姿が印象的で。一人ひとりを気にかけて、何かあったら「大丈夫?」と聞いてあげる「大丈夫センサー」があるという話をファンながらに、いろいろ聞いていたので、「本当にすごいな」と思っていましたし、自分には絶対にできないことだなと。私が15期生でたかみなさんは1期生と、かなり離れているんですけど、すごく15期生を気にかけてくれました。卒業される時も、「一番若い期の15期生と一緒に公演がしたい」と、15期生プラスたかみなさんで公演をする機会を作ってくださって。リーダーだけど誰もが話しかけやすいオーラや、いじりやすい雰囲気を出してくださったり、LINEをくださったりする優しい方なんです。だけど、叱る時は叱る。たかみなさんがいると、自然と「ちゃんとやろう!」という空気になるところがすごいなと思います。

――横山さんはいかがですか?
向井地 私にとってはお母さんみたいな存在です。横山さん自身も研究生からいろんな立場を経験して選抜に入った方なので、お仕事があんまりもらえなかったり、自分だけコンサートに出られないという悔しい思いやメンバーの気持ちが分かるんです。しかも、誰よりも一番汗をかく。レッスンの時も一生懸命に踊るし、楽屋を出るのも、着替え終わるのも一番最初。横山さん的には、「歌やダンスで引っ張れなかったとしても、日々の行動で背中を見せることをすごく意識していた」とおっしゃっていました。もちろん、歌もダンスもすごいんですけどね。言葉の力というか、説得力、オーラのあるたかみなさんは生まれながらのリーダーで、みんなを引っ張る人。それに対して横山さんは、みんなと同じ目線を持ちながら、横一列になって一緒に頑張ってくださる総監督だったと思います。
センターよりもキャプテンや総監督で自分を生かせると気づいた
――2018年12月8日に、横山さんより3代目総監督に指名されました時の気持ちはいかがでしたか?
向井地 同じ年のAKB48選抜総選挙で総監督に立候補させてもらってはいましたが、まさかこんなに早く指名していただけると思わなかったので驚きました。自分としては2~3年後に、総監督になれるくらいの人になりたい、という気持ちでの立候補だったんですが、その半年後に指名していただいたので、まだ自信もなかったです。

――もともとリーダー気質ではなかった向井地さんが、どうして総監督になりたいと思ったんですか?
向井地 正規メンバーに昇格した当初はセンターを任せていただける機会が多くて、アイドルとしてAKB48を引っ張りたい、自分が前に出たいと思っていたんですが、いざ「翼はいらない」(※2016年6月1日リリースの44thシングル)でセンターに立ってみると、私は横で支える側が向いているなと思ったんです。いろんなチャンスをもらっていたにも関わらず、2017年の選抜総選挙では17位で、選抜にも入れなかったですしね。悔しかったし、自信を失っちゃったし、「これからどうしよう……。選抜に入れない自分に価値はあるんだろうか」と悩んだりもして。そんな時横山さんが話を聞いてくださったり、横山さんの姿を見たりしているうちに、「総監督やキャプテンとして、グループのために貢献できるかもしれない」と思い始めたんです。
――自分を見つめ直したことで、総監督というポジションが合っていると。
向井地 2018年開催の、「AKB48グループセンター試験」というイベントで、AKB48に関する知識力を競い合ったんですが、何百人もいるメンバーの中で初めて一番を取れて、AKB48愛を証明できたのもうれしくて。いろんな要素が重なって、私が目指す方向はこっちだなって、何かが降ってきた感覚でした(笑)。
――指名されて就任するまでの約4カ月間、どのように準備を進めたのでしょうか?
向井地 横山さんは、たかみなさんからの引き継ぎ期間が1年間あって、たかみなさんの隣でずっと学ぶ修行期間だったので、「常にたかみなさんと比べられるのがしんどかった。だから次の総監督への引き継ぎ期間は、もっと短くしたい」とおっしゃっていて、私は4カ月間での引き継ぎでした。横山さんからは「今の美音のままだと、まだ総監督として未熟だから、普段の行動からリーダーとして背中を見られることを意識してやっていこう」と言われていて。TOKYO DOME CITY HALLでの全体のコンサートの時は、横山さんが隣で見守ってくれる中、初めて円陣でメガホンを持って、みんなの前でお話しする経験もさせてもらいました。その4カ月があったおかげで、歌番組で挨拶するタイミングなども学べて、総監督に就任後も自然にやっていくことができました。

――どういう総監督を目指したのでしょうか?
向井地 自分の特徴はAKB48のめちゃくちゃファンなところです。メンバーだけじゃなく、ファンの方の目線も取り入れて、しっかりと楽しんでもらえるAKB48を作りたいなと思ったので、ファンとメンバーとスタッフさんとの架け橋みたいな存在になりたいというのが目標でした。
――どのぐらいで総監督の自覚が出てきましたか?
向井地 最初の4カ月ぐらいは総監督と呼ばれることに慣れなさ過ぎてソワソワしていましたし、先輩方もいる中で、自分がレッスンを引っ張る気まずさもありました。ただセットリストからスタッフさんと一緒に考えさせてもらった2019年の全国ツアーがファンの方に好評だったことで、自信がついたし目標も達成できたと思います。
――高橋さんは「叱る時は叱る総監督」と仰っていましたが、向井地さんはいかがですか?
向井地 選抜メンバーをはじめ、メンバーみんながいい子すぎて、いまだに怒ったことがないと思います。ただ振りを揃えるといったところは常に意識したいと思っていたので、総監督になってからは、すごく周りを見るようになりました。レッスンでも鏡越しにメンバーを見ながら踊って、「あの子はここが間違ってるから後で言わなきゃ」「あそこの列が揃ってないな」とか、視野は広くなったのかなと思います。
――総監督になって4年近く経ちますが、手ごたえはいかがですか?
向井地 正直、コロナ禍で実感がないんです。したくてもできなかったこともたくさんあるので、満足度としては半分くらい。自粛期間中はメンバー同士で話し合って、「家からの生配信をメンバーでやろう」「『365日の紙飛行機』の動画を作って、みんなが歌っている映像を流そう」とメンバー発信の活動がたくさんできるようになったのは良かったし、支えてくれるメンバーがすごく増えました。「キャプテンズ」という各チームのキャプテンたちと作った5人のLINEグループでは、各チームの情報を共有したり、生配信の内容やメンバーの割り振りを私たち主導で決めたり。私たちが自主的に動かなければ、という危機感もあったんです。コロナ禍前は恵まれた環境で、与えられたものをこなすだけで必死でしたが、自分が総監督になってからは、「こういうことがやりたい」と発信したメンバーの思いを叶えてくれる場を用意してもらえることが増えました。風通しもよくなったなと思いますし、先輩後輩の垣根も少なくなりました。
リーダーに必要な素質は組織への愛と自分への自信
――リーダーに必要な素質は何だと思いますか?
向井地 組織への愛が一番大事だなと思います。それが私にとってはAKB48です。リーダーは辛い役割ですし、グループを好きじゃないと続けられないことがたくさんあります。同じ立場の人がいないし、全てをメンバーに共感してもらえる訳でもない。自分を抑えて、周りの子を前に出さなきゃいけないこともあります。でもグループが好きなら、全然苦に感じないんです。あと、自分への自信もすごく大事だなと思います。自信がないと、ダンスや歌についていろいろ言えないんですよ。私はいまだに言えないですけど(笑)。正しい振り付けを覚えている自信はあっても、特別上手いわけではないし……。努力を積み重ねて、結果を出した上で自信を持っているリーダーは完璧ですし、私もそうなりたいと思っています。

――昨年末からチームAのキャプテンも兼任することになりましたが、任命された時はどんな気持ちでしたか?
向井地 若いメンバーがキャプテンになると思っていたので、すごくびっくりしました。実際にチームA以外は若いメンバーだし、「Aだけ私?いいのかな……」と。キャプテン経験もチャンスになるので、それを私が総監督と二重でもらってしまっていいのかなという気持ちもあったんですが、一回チームキャプテンをやってみたいとも思っていたので、初心に帰って、キャプテンとしての立場を楽しもうとワクワクしました。
――総監督とキャプテンの違いはありますか?
向井地 規模が違うだけで、ほとんど一緒ではありますが、キャプテンはよりメンバー個々にピントを当てて、「この子のこういう部分を押し出してあげたいな」と考えています。チームAのメンバーが大好きなので、めちゃくちゃいい居場所を与えてもらえたなと感謝しています。
――今、AKB48は上昇気流に乗っていますね。
向井地 「根も葉もRumor」という曲との出会いが大きいと思うんですけど、そこに至るまでの過程が重要でした。一番は危機感ですね。2021年5月22日にみいちゃん(峯岸みなみ)の卒業コンサート、その翌日にAKB48の現役メンバーの単独コンサートがありました。1期生を始め錚々たる先輩方が集まったみいちゃんのコンサートを、現役メンバーだけのコンサートが超えられなかったら、私たちの未来はないと思う、みたいな話を円陣の時に話したんです。そんな気合いが、ファンの方にも伝わったと思いますし、達成感もありました。先ほどお話したように、自分たちからの発信が増えたことで自信がついたし。コロナ禍で姉妹グループが東京に来られなくなったことで歌番組でも、今まで出られなかった子がアンダーで空いた枠に入れたり、選抜もAKB48単独になったりして、チャンスが増えた子がいたのも大きかったと思います。今のメンバーはAKB48が好きで入ってきた子たちなので、本当にグループ全体を愛しているし、何事も諦めてないところがすごくいいですね。

――向井地さん自身、壁にぶち当たることもあったかと思います。そんな時はどうやってモチベーションを高めているんですか?
向井地 人に話すのが一番すっきりします。グループで一番仲の良い茂木さん(茂木忍)に話すことも多いですし、みいちゃんがいろんな人生相談に乗ってくれるんです。「峯岸メンタルクリニック」というのがあって、みいちゃんの家に駆け込んで相談を聞いてもらうんです(笑)。あらゆる経験をしているみいちゃんは、何でも答えを知っているんですよ。「今、こういう感じなんですよね」と言っても「あ~、そういう時あった」「そういう時はこういう風にしたらいいよ」「考えすぎないのがいいよ」と言ってくれるので、すっきりするんです。あと、やっぱりメンバーの存在は大きいです。家で落ち込んでいても、現場に来てメンバーに会うと楽しくなっちゃうんです。
――最後にティーンに向けて、進路を考える上でのアドバイスやメッセージをお願いします。
向井地 私の場合、AKB48に入った時点で、この世界しか選択肢がなかったというか。大学受験すら1ミリも考えず、「私は一生AKB48」という謎の自信でやってきました。でもAKB48に入る時はすごく迷ったんですよ。大ファンだっただけに、大変さも分かっていたし、当時は高校生で入るのは、ちょっと遅いという雰囲気もあったので、高校1年生で入った私は「今から入って意味あるのかな」と思ったりもしました。でも飛び込んでみたら、何をするにも遅いなんてことはないんだなと思いました。20歳で入った子でも、年齢に関係なく、いつでも活躍できます。だから、「遅いかも」「できないかも」とかは気にせず、一回チャレンジしてほしいなと思います。いろいろ考えて尻込みしちゃうこともあると思いますが、「本当はこれがやりたい」というものは絶対にあると思います。自分の胸に手を当ててやりたいことを選んでください。