日本語文法概説(53)
53. 程度 53.1 程度:ほど・くらい 53.2 比較:より・ほど 53.3 限定:だけ・ばかり・しか 53.1 程度:ホド・クライ 「程度」は、前の「様子」に近いものですが、主節の述語に対して連用節が述語の程度を表わすものです。単文での程度の副詞に当たります。「ほど」と「くらい(ぐらい)」を使います。「ほど」「くらい」が名詞などをうける用法は「18. 副助詞」で扱いました。ここでは述語をうける用法を見てみます。 53.1.1 ホド・クライが交換できる場合 「ほど」と「くらい」が交換可能な用法があります。形容詞や動詞によって表される状態の程度を「V-ほど/くらい」が示します。「非常に~」であることを、印象的に、多少極端な言い方で表します。この「V」の内容は、実際のことである場合と、単なるたとえの場合があります。否定形も受けられます。 まず、文末の述語を修飾している例から。 あの映像は悲しくなるほど/くらい 美しい。 歩けないほど/くらい、酔ってしまった。 このテーブルは10人でも持てないほど/ぐらい 重い。 ここのラーメンは新聞にも載ったほど/くらい 有名だ。 殺してやりたいほど/くらい 憎い。 日曜にも働かなければならないほど/くらい 忙しい。 死ぬほど疲れた。(×死ぬくらい) 初めの例で「あの映像が美しい」程度は、「あまり美しくて悲しくなる」ということになる・・・(ここでどうしても「ほどだった」と言いたくなるところです)レベルだった、ということです。「死ぬほど」は慣用的な表現として固定しているようで、「くらい」では言えません。「くらい」のほうが「ほど」より少し話しことば的です。 「しそうだ」「V-かもしれない」を受けることができます。 うちの子は将棋が好きで、もう私も負けそうなほど強くなった。 私たちにも買えるかもしれないくらい安くなってきました。 「~だろう」「~らしい」は使えません。 あとに「に」をつけて、「V-ほどに」「V-くらいに」とすることもできます。そうすると少し重々しい感じがします。 疑問語は、「どれ/どの くらい」「どれほど」です。 その恐竜はどのくらい大きかったんですか。 この用法の「ほど」と「くらい」はお互いに入れ換えることができます。以下の例でも同様です。 次に、文末以外の位置にある述語を修飾する場合の例。 びっくりするほどきれいに撮れた。(びっくりするくらい) 知らない人はないほど有名な話だ。 向こう岸が見えないくらい広い川だ。 やめたくなるくらいきつく、つらい仕事です。 いやになるくらい面白くない映画だった。 一つもできなかったほどむずかしい試験だった。 最初の例で「びっくりするほど」が修飾している「きれいに」は、それ自体が「撮れた」の修飾語になっていますが、「びっくりするほど」の修飾語という役割は変わりません。修飾語の修飾語になっています。 この「ほど」「くらい」は「だ」をつけて文末におくこともできます。 あの映像は(とても)美しくて、悲しくなるほどだ。 酔ってしまって、歩けないほどだった。 箱は重くて、一人では持てないくらいだった。(~くらい重い) その苦しさは、耐えきれないほどだった。(~ほどの苦しさだった) 上の三つの例は「~て」の形を受けています。「原因」の「~て」です。「~ので」でも言えますが、二つの節の関係が直接的なので、「~て」のほうが自然な感じがします。 最後の例は名詞を受けていますが、「苦しさ」は「苦しい」と同じようにその程度を考えることができます。 また、「~ほど/くらいのN」の形にもなります。 食べきれないほど/くらい の食べ物 この場合はもちろん「食べきれないほどたくさんの」という意味合いです。 息苦しくなるほどの映像美 (~ほど美しい) 一人では持てないほどの重さ 向こう岸が見えないほどの(広い)川 この「広い」は省略できます。「~ほどの川」だけで、広さが問題になっていることがすぐに了解できるからです。また、「~ほど広い川」でもいいわけです。 「~だ」が「~になる」になる例。 コートが要らないぐらいになった。(~ぐらい暖かくなった) 枝が伸びて、屋根に届くほどになった。(~ほど長くなった)) それぞれ、「暖かく」「長く」の省略と考えられます。 [N/V ほど/くらい ~Nはない] 他にないのですから、「いちばん・・・だ」という意味を表します。 この湖ほど美しいところはない。 この問題ほど難しい問題はない。 あいつをだます(こと)ぐらい/ほど 簡単なことはない。 「こと」が入れば名詞節を受けることになります。 53.1.2 ホド・クライが交換できない場合 さて、「ほど」と「くらい」の言い換えのできない場合があります。 [ホド] プロと比べられるほど上手ではありません。 ?プロと比べられるくらい上手ではありません。 プロと比べられるほど/くらい 上手です。 「くらい」はどうも安定しません。単に否定だからだめだということでもありません。 食べる物が買えないほど/くらい お金がなかった。 皆が途中で帰ってしまうほど/くらい つまらない講演だった。 言いかえられる例では「Aほど/くらいB」のAとBの関係は「BだからA」という関係です。 お金がない→食べ物が買えない つまらない→帰ってしまう それに対して、上の言いかえられない例は、 上手ではない→プロと比べられる となりません。否定をAとBの関係の外に出して、 [上手だ→プロと比べられる]ではない と考えればいいわけです。もとの文に戻して、 [プロと比べられるほど上手]ではありません。 のような構造だと考えられます。 ヨットが買えるほどお金持ちではないよ。(×くらい) ヨットが買えるほどのお金はないよ。(?くらいの) 僕のお小遣いで買えないほど高くはなかった。(×くらい) どうしても結婚したいというほど愛してはいなかった。(×くらい) 「ほど」を文末に移した例。 速いといっても、入賞するほどではなかった。(×くらい) 次の例も「くらい」では言えません。 君が言うほど難しくなかったよ。 ×君が言うくらい難しくなかったよ。 修飾される述語を肯定にすると、「ほど」でも変です。 ×君が言うほど難しかった。 「難しい」程度は「君が言う(言った)」では示せません。これは否定と共に使われる「ほど」で、「比較」に近い文型です。 上でも簡単に述べましたが、これまで多く見てきた「ほど・くらい」の言い換えのできる例の場合は、 びっくりするほど難しかった。 のように、「AほどB」のAとBの関係は、 とてもBなので、Aするほどだ となり、AはBの程度を強く印象づける内容になっています。 しかし、この用法は、A程度をかなり高いものとして予想した上での表現で、実際にはBはその程度まで届かない、という否定的な内容です。 政府が繰り返し強調したほど重大な問題ではなかった。 行く前に想像したほどは大きくはなかった。 現地へ行ってみると、言われているほど汚染は進んでいなかった。 これらはそれぞれ、 政府が繰り返し「重大だ」と強調したほど~ 行く前に「大きいだろう」と想像したほどは~ 「汚染がひどい」と言われているほど~ というようなことが前提になっています。「ほど」の前の動詞は言語・心理関係の動詞で、「引用」のできる動詞です。(→「58. 引用」)実際に知る前に「程度が高い」という予測があったが、実際はそうではなかった、というのがこの用法です。 単文の比較の文型で、 AはBほど大きくない というとき、Bはある程度「大きい」ものであるのと並行しています。 「君が言うほど~」の例も、 君が「難しいぞ」と言う(言った)ほど難しくなかった。 と考えられますが、「言った」を「言う」で言えるのは、この動詞の特性です。 「見る」は引用の動詞ではありませんが、「~を~と見る」という文型になる動詞です。 この仕事は、はたで見るほど楽じゃないよ。(×くらい) (周りの人が、この仕事を「楽だ」と見るほど、楽じゃない) [クライ] 次に、「くらい」のほうが自然な例。「最低」を示す「くらい」は「ほど」では言えません。 ここに入っちゃいけない(こと)ぐらい知ってるでしょう? 入賞したぐらいで喜んではいけない。 休みの日でも警備員をおくぐらいできるだろう。(ぐらいのことは) 彼女じゃあ、即席ラーメンを作るくらいが関の山だ。 ちょっとビールを飲むくらい、いいじゃないか。 「~ことくらい」または「~くらいのこと(+助詞)」でも言えます。前者は「名詞節+くらい」で、つまりは「Nくらい」と同じことになります。 市の大会で入賞するぐらい、大したことじゃない。 「入賞することは大したことではない」という意味ですが、 市の大会で入賞するほど、大したことじゃない。 とすると、「このこと(何かはわかりませんが)は、市の大会で入賞することほど素晴らしいことではない」という、まったく違った意味になります。 また、「ちょうどその分くらい」という意味の場合も、「ほど」では言いにくいか、「ほど」で言うと意味が多少変わってきます。 この小さな店がちょうどいっぱいになるぐらい、客が来た。 車ならちょうど10分かかるくらいの距離だ。 「会費はどのくらいになりそうですか」「そうですねえ。1万円でお釣りがくる くらいです」 「ほど」の「君が言うほど難しくなかった」に対応する「くらい」の例。 ちょうど君が言っていたくらい難しかったよ。 ちょうど君が言っていたくらいの難しさだったよ。 「君が『このぐらい難しい』と言っていた」のと同じくらい難しかった、という意味です。なぜか名詞文にしたほうが安定した感じがしますが。 [~ば~ほど] 「ほど」は「AばBほど」の形で、Aの程度が上がるに従って、Bの程度も上がることを表す文型に使われます。「Aば」が省略された形でもよく使われます。 飲めば飲むほど、体が軽くなる。 安くなればなるほどたくさん売れる。 南へ行くほど暖かくなる。 大きいほどいいんですが。 (大きければ~) 53.2 比較:ヨリ・ホド 単文の「17.比較構文」のところでも述べたように、そしてすぐ上でみた、「ほど」「くらい」の用法の広がりを見てもわかるように、程度と比較は関係の深いものですので、程度の連用節に続けて比較構文をとりあげることにします。 比較構文で名詞が入るところに節を入れることができます。これは名詞節の一つの用法と考えることもできますが、「の」も「こと」も使わず、述語に直接「より」が接続できるところに特徴があるので、名詞節とは別にしておきます。まず、動詞が入る例から。「AよりBほうが」または「BほうがAより」の形。 渋滞すると、車より自転車のほうが速い。(名詞の例) 渋滞すると、車に乗っているより降りて歩く/歩いた ほうが速い。 店で買うより自分で作る/作った ほうが安く上がる。 でかけるより家で寝ている/いた ほうが楽だ。 手紙を書くより電話する/した ほうが時間の節約になる。 ワープロを使うほうが手で書くよりかえって時間がかかるよ。 手で書くよりワープロを使ったほうがきれいに書けるよ。 宗教の教えは、人を生かすより殺すほうが多い。(×殺した) 車を買うほうが免許をとるよりやさしい。(×買った) 離婚するほうが結婚するよりはるかに難しい。(×離婚した) 単文では、「NよりNのほうが」という形でした。節が入ると、 A(現在形)より B(現在形/過去形)ほうが~ となり、Bの現在形と過去形は多くの場合入れ替え可能です。ただ、過去形のほうが仮想的で、「望ましいこと」という意味合いがあり、「忠告」の「V-たほうがいい」に近くなります。 「望ましい」という意味合いがない、「生かすより殺すほうが」以下の例では「殺したほうが」は言えません。もちろん、それぞれの動詞が過去形にならないということではありません。 むだに苦しませるより、早く殺したほうが動物にとってもいいんだ。 離婚したほうが、憎み合って暮らすよりずっと精神的にいいさ。 「AはBより」の形。Aは「~の/こと」の名詞節になります。 失敗から学ぶことは、たまたま成功してしまうより価値がある。 車を買うのは、免許をとるよりやさしい。 離婚するのは結婚するよりはるかに難しい。 「どちら/どっち」による疑問文は「~の/こと」名詞節を使います。 車に乗るのと、歩くのと、どちらが好きですか。 でかけるのと、家で寝ているのと、どっちがいい? 人を疑うことと、信じることとでは、どちらがより難しいことだろうか。 節内の述語が動詞以外の例。ナ形容詞では「である」または「なの」を使います。名詞述語は「である」を使います。「こと」を入れれば名詞節となり、 単文の比較構文と同じになります。 女性は美しいよりやさしいほうが私には望ましい。 男性にとって、妻がきれいであるより性格がおだやかなほうが重要なことだ。 病気で暇(なの)より、元気で忙しいほうがいい。 安い(こと)よりおいしい(ことの)ほうが大事(なこと)だ。 この車は、音がうるさいことより排気ガスが多いことのほうが大きな欠点だ。 cf. この車は、その大きさより燃費の悪さが大きな欠点だ。 忙しい金持ちであるより、暇な貧乏人であるほうがいい。 私は指導者であるより、一市民として参加したい。 これまでの例とはちょっと違った形の例文を少しあげておきます。主節の述語や節の助詞が違うものです。 給料を上げることより、休暇を増やすこと(のほう)を要求した。 初任給を上げるより、休暇を増やすことで大学生を引きつけた。 自分で努力することより、幸運に恵まれることに頼っている。 夫の死を嘆き悲しむより、子どもを育てるのに忙しかった。 私は、腹を立てるよりもあきれかえってしまった。 うちへ帰るよりもまず一杯だ。 手で書くより、ワープロで書くといいよ。 人に頼るより、自分でやってみることを考えたらどうだ。 話を聞くより、ただ相手の顔を見てばかりいた。 最後のほうは、「~より」があるだけで、比較の文型とは呼びがたいものです。 否定は「名詞節+ほど」を使います。 禁煙を始めるのは、続けることほど難しくない。何度もやった。 冒険をして失敗することは、恐れて何もせぬことほど悪くない。 子どもを育てるのは、子供を作ることほど簡単ではありません。 次の例は、前にとりあげた「程度」の例です。比較ではありません。 車を運転するのは、思っていたほど難しくなかった。 何事も実行するのは口で言うほどやさしくない。 ? 「より」を使うこともできます。「こと」はなくてもかまいません。 三日後の天気を正確に当てることは、ロケットを月に当てるより難しいのです。 比較で「同程度」を表すには、名詞節にしてしまって、 山道を降りるのは、登るのと同じくらい注意が必要だ。 のように、 ~の/こと は ~の/こと と同じくらい~ という形にします。 これは単文の比較表現の、 AはちょうどB(と同じ)くらい難しい。 AはちょうどB(と同じ)くらいの難しさだ。 に対応する文型です。 53.3 限定 単文の「18.副助詞」で取り上げた「だけ・ばかり・しか」が述語を受ける用法を見てみましょう。基本的な意味は「限定」です。連用節としての用法だけでなく、「~だ」の形で文末に来る用法、つまり助動詞的な用法もここでみていきます。 53.3.1 だけ ①「~だけだ」 「Nだけ」の一つの意味は、述語の表す意味に該当する名詞はこのN以外にない、というような意味でした。「~だけだ」の形で述語を受ける場合も、基本的には同じです。事柄の描写として正しいのはこの述語以外にない、という意味を表します。「~だけで、~」の主節は、否定的とは限りません。 新幹線なんて速いだけだ。 眠いので寝ていただけです。病気ではありません。 この辞書は厚いだけで、内容はさっぱりだ。 時々会議に出るだけで、外には何もしなくていいんですよ。 参考書を買ってきただけで、ぜんぜん読んでいない。 漢字がいくつかわからないだけで、内容は全部わかりました。 な形容詞は連体形の「-な」を使います。 デザインがちょっと変なだけで、性能は最高だ。 名詞節の「~こと」ももちろん受けられます。 私の今日の仕事は会議に出席することだけです。 主節は、推量や命令や意志を表すこともできます。 あいさつがちょっとあるだけで、あとは気楽な会になるだろう。 おもちゃは見るだけで帰ってきなさい。買っちゃだめよ。 彼女と週に一度会うだけで我慢しよう。毎日会ったら勉強できない。 「Aだけでなく、B」の形で、もう一つの述語も成り立つことを表します。 この部屋は明るいだけでなく、風通しもいいね。 このリンゴは形が悪いだけじゃなくて、味も悪い。買って損した。 見舞いに来ただけでなく、仕事の話を持ってきてくれた。 ただ量を走るだけでなく、フォームを考えて走りなさい。 最初の二つの例は、類似のことを単純に並べただけなので「~し、~」に置き換えられます。主節のほうに「Nも」が現れています。最後の例は述語は同じ「走る」ですが、修飾語の内容が違います。「だけでなく」で否定されているのは「量を(走る)」です。これは「~し、~」では言えません。また、主節に命令や意志の表現を使うことができます。 見るだけの客 行って帰ってくるだけの仕事 安いだけなら、ほかにもある。 安いだけでは、売れない。 試合に出られただけで十分です。(~で十分だ) 一度失敗しただけだろう?まだまだこれからだよ。 口で言うだけならかんたんだ。 ちょっと顔を出してくれるだけでもいいんだけどなあ。 叱るだけじゃダメだ。たまにはほめてやらないと。 「V-だけにする」という表現もあります。 今日は仕事の手順を決めるだけにして、作業は明日からにしよう。 今回は会って話すだけにしよう。取引は別の機会にしたい。。 慣用的な表現で、「~だけがNだ」という言い方があります。 足が速いだけがあいつの取り柄だ。 おまけが付いているだけが魅力のお菓子だが、子供は欲しがる。 大きいだけが売りものの冷蔵庫だね。工夫がないね。 ②「~だけ、~」 「Nだけ」のNが分量の時、「ちょうどその分」という意味がありました。「それ以上ではない」ということですが、否定的な評価はありません。述語を受ける場合にも、同じような使い方があります。「ちょうどその分」です。 テレビも見られるだけ、こっちのパソコンのほうが得だ。 そう言われるだけ、評価されているということだ。 相手にしてくれるだけいいよ。僕は相手にもされなかった。 角が丸くなっただけ、持ち運びに便利な形になった。 ここにあるだけ、全部使ってしまおう。 まだ余力を残しているだけ、こちらに勝ち目がある。 同じ動詞が「だけ」の前後に使われる形があります。最大限という意味合いになります。前の動詞が可能形や「V-たい」の形をとることが多いです。 「のこと+助詞」が「だけ」の後ろに入ることもあります。 手に持てるだけ持った。 やれるだけ/できるだけ(のことを)やってみろよ。 言いたいだけ言えばいいさ。 次は「最大限」ではなく、「ちょうどその分」です。 こんな本でも、出せば出しただけの価値はある。 やるだけ(のこと)はやった。 違う動詞の例。 カバンに入るだけ詰め込んだ。 欲しいだけあげるよ。 要るだけ持っていっていいよ。 後の動詞が「V-てみる」になる場合も多くあります。こちらは最低限です。ただし、否定的な意味合いはありません。 会うだけ会ってみてください。 どんなものか、見るだけ見てみよう。 話を聞くだけ聞いてみよう。 一応、見るだけは見たけどね。あまり大したことはないね。 「V-ばVほど」の文型の「ほど」のところに「だけ」を使ってほぼ同じ意味を表すことができます。 やればやるだけ上手になる。 使えば使うだけ少なくなる。 [~だけに/だけあって] 「18.副助詞」でも「Nだけに/だけあって」の形を出しましたが、それが節を受ける例です。 「AだけにB」は、特徴のあるAという事実から、当然の結論としてBという判断が出てくる、という意味を表します。「~からこそ」にほぼ置き換えられます。 話が急に決まっただけに、準備が大変だ。 なかなかおいしかっただけに、閉店とは残念だ。 あと少しで同点、というところだっただけに、惜しかった。 内情を知っているだけに、批判はしにくい立場だ。 最重要の課題であるだけに、慎重な対応が必要だ。 同じ名詞を繰り返して、「NがNだけに」という形で、「そのNが特別なNだから、当然~」という意味を表します。 昨日の事件は起きた場所が場所だけに、日本中の注目を集めている。 この映画は、主役が主役だけに大当たり間違いなしだ。 「~だけあって」は、あるNに関して、その程度が高いことを予想させる評判や様子があることを示し、主節のほうは実際にその通りであることを表します。「~だけのことはある/あって」の形も使われます。「さすが(に)」がよく一緒に使われます。 この画家はさすがに有名なだけあって、高い値段が付いているね。 偉そうなことを言っているだけあって、確かに実力はあるねえ。 さすが才能のある作家が長い年月をかけただけあって、いい作品だ。 なるほど、自慢するだけのことはある。最高にうまいラーメンだ。 53.3.2 ばかり 基本的には「だけ」の①と同じような用法です。「~ばかりだ」はそれ以外のことが起こらない、という否定的な意味を表します。「~ばかりで、~」の形も多いです。その場合、主節にも否定的な内容が来ます。過去形・否定形は使いません。 単身赴任の日曜日、ただ家族のことを思うばかりだ。 彼は文句を言うばかりで、ちっとも仕事をしない。 シルクロード。ただ砂漠が広がるばかりだったが、感動した。 こうなったら、後はひたすら祈るばかりだ。 ただ見ているばかりで、何もできなかった。 これは安いばかりで、性能は良くない。 楽な仕事だけれども、退屈なばかりでいやになってきた。 主節に命令や意志などは来ません。推量は使えます。 どうせ人が多いばかりで、面白いことはないだろう。 ×ちょっと見るばかりで、すぐ帰ってきなさい/来よう。(○だけで) 「~ばかりでなく」の形があり、「~だけでなく」とほとんど同じ意味で使われます。「~ばかりか」の形でも同じ意味で、少し書きことばです。いいことにも悪いことにも使えます。主節に「Nも」がよく使われます。 この果物はおいしいばかりでなく、香りもいい。 いつも顔を出すばかりでなく、必ずおみやげを持ってくる。 彼女は、テニスが得意なばかりか、スキーも一級の腕前だ。 顔を出さないばかりか、電話もしてこない。 「~ばかりが(~ない)」の形もよく使われます。あとに否定的な内容が来ます。「~だけが」に置き換えられます。 早いばかりがいいとは言えない。 目立つばかりが個性じゃない。 このトランクは大きいばかりが取り柄で、かさばって困る。 「V-ばかりだ」はいくつかの意味があります。前に「24.10 V-たばかりだ」という文型をとりあげました。それと形の上で対応する「V-るばかりだ」には、3つの用法があります。 まず、最初に出した「~だけだ」に近い意味のもの、次に、ある方向への変化ばかりが起こる、という用法があります。悪いことが多いようです。 毎年、トシと体重が増えるばかりだ。 考えれば考えるほど、わからなくなるばかりだ。 この地区の人口は減って行くばかりで、高齢化が進んでいる。 もう一つの用法は、「外の準備は終わって、残っているのはこのことだけだ」というような意味を表します。あまり多くは使われません。 準備は全部終わって、後は始めるばかりだ。 留学の手続きをみなすませ、後は出発の日を待つばかりだ。 豪華な料理が並べられ、乾杯の合図を待つばかりになっている。 「~ばかりに」の形で「理由」を表す用法は「50.8.1 ~ばかりに」で説明しました。「そのほかのことのためでなく」というような意味合いが、限定と関係するのでしょう。 「V-てばかりだ/ている」という形もありました。これも「外のことはせずに」という限定の意味合いがあります。「44.2(複合述語と)他の要素との関係」というところでかんたんに触れました。 最後に、ちょっと特別な形で「V-んばかりに」というのがあります。大げさな、古い言い方という感じがします。この「ん」は否定の「ぬ」で、「V-ぬばかりに」でも使われます。動詞の形は「V-ずに」の場合と同じです。 「ほとんどそれに近い状態だ」という意味です。 まるで「お前のせいだ」と言わんばかりの言い方だった。 その時、核弾頭ミサイルはまさに発射せんばかりになっていた。 53.3.3 しか 「動詞+しか」の形は用法の狭いものです。他に取り得る選択肢がない、という場合に使われます。文末の否定は「~しかない」または「~しか~Nがない」という形になります。 もう会社をやめるしかなかった。 ただ謝るしか(しかた/方法 が)なかった。 その山道を行くしか逃げる道はなかった。 次の例は、「人に頼ることを考える」という「~こと」の名詞節を使った文に「しか」を使っただけで、ここで取り上げた「動詞+しか」の例とは違う文型です。 彼はいつも人に頼ることしか考えない。 [参考文献] 野田時寛2001「複文研究メモ(5) 程度・比較構文」『中央大学論集』22 井本亮1999「「ほど」構文の解釈と主文の有界性について-述語動詞句の動詞分類を中心に-」『筑波日本語研究』4 井本亮2000「連用修飾成分「ほど」句の用法について」『日本語科学』8 安達太郎2001「比較構文の全体像」『広島女子大学国際文化学部紀要』9