【翻译练习】人间失格 选段翻译练习
1
「金の切れめが縁の切れめ、ってのはね、あれはね、解釈が逆なんだ。金が無くなると女にふられるって意味、じゃあ無いんだ。男に金が無くなると、男は、ただおのずから意気銷沈(しょうちん)して、ダメになり、笑う声にも力が無く、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る、半狂乱になって振って振って振り抜くという意味なんだね、金沢大辞林という本に依ればね、可哀そうに。僕にも、その気持わかるがね」
“‘钱尽缘断‘的解释其实是反的,说的并不是男人没钱了就会被女人抛弃。而是男人要是没钱,就会意识消沉、缺乏自信,终日浑浑噩噩、愁眉苦脸,最后破罐子破摔,发了疯似的要把女人甩掉。字典里就是这么解释的。听着真可怜,我理解这种心情。”
2
惜しいという気持ではありませんでした。自分には、もともと所有慾というものは薄く、また、たまに幽かに惜しむ気持はあっても、その所有権を敢然と主張し、人と争うほどの気力が無いのでした。のちに、自分は、自分の内縁の妻が犯されるのを、黙って見ていた事さえあったほどなのです。
我一点都不心疼。本来我自己就没有什么占有欲。就算暗地里有些不甘,我也不敢站出来宣誓主权和他人发生冲突。之后,我的妻子被人侵犯,我也只是沉默地看着。
3
自分は、皆にあいそがいいかわりに、「友情」というものを、いちども実感した事が無く、堀木のような遊び友達は別として、いっさいの附き合いは、ただ苦痛を覚えるばかりで、その苦痛をもみほぐそうとして懸命にお道化を演じて、かえって、へとへとになり、わずかに知合っているひとの顔を、それに似た顔をさえ、往来などで見掛けても、ぎょっとして、一瞬、めまいするほどの不快な戦慄に襲われる有様で、人に好かれる事は知っていても、人を愛する能力に於(お)いては欠けているところがあるようでした。(もっとも、自分は、世の中の人間にだって、果して、「愛」の能力があるのかどうか、たいへん疑問に思っています)そのような自分に、所謂「親友」など出来る筈は無く、そのうえ自分には、「訪問(ヴィジット)」の能力さえ無かったのです。他人の家の門は、自分にとって、あの神曲の地獄の門以上に薄気味わるく、その門の奥には、おそろしい竜みたいな生臭い奇獣がうごめいている気配を、誇張でなしに、実感せられていたのです。
誰とも、附き合いが無い。どこへも、訪ねて行けない。
虽然我现在受大家的欢迎,但是从来没有体验过“友情”。堀木这样的酒肉朋友就另当别论。和人所有的交往我都只感到痛苦,为了缓解痛苦又要拼命地扮丑,反而弄得精疲力尽。即便在街上看到和熟人相似的面孔,也会心头一惊,然后浑身不安地战栗。虽然我知道自己是被人喜欢的,但我缺少爱他人的能力(但是,我对这个世界上的人到底有没有“爱”的能力抱有深深的疑问)。因而我是不可能有所谓的“好朋友”的,而且我连去别人家“拜访”的能力都没有。对我来说,他人家的门要比神曲中的地狱之门还要恐怖,在那门的深处,盘踞着恶龙般的怪兽要把人生吞活剥。我不是在夸张,这的确是我切身感受到的。
我和谁也不想来往,哪里也不想去。
4
世間。どうやら自分にも、それがぼんやりわかりかけて来たような気がしていました。個人と個人の争いで、しかも、その場の争いで、しかも、その場で勝てばいいのだ、人間は決して人間に服従しない、奴隷でさえ奴隷らしい卑屈なシッペがえしをするものだ、だから、人間にはその場の一本勝負にたよる他、生き伸びる工夫がつかぬのだ、大義名分らしいものを称(とな)えていながら、努力の目標は必ず個人、個人を乗り越えてまた個人、世間の難解は、個人の難解、大洋(オーシャン)は世間でなくて、個人なのだ、と世の中という大海の幻影におびえる事から、多少解放せられて、以前ほど、あれこれと際限の無い心遣いする事なく、謂わば差し当っての必要に応じて、いくぶん図々しく振舞う事を覚えて来たのです。
我自己也隐约察觉到了,这个世界就是人与人争斗的斗兽场,要当场决出胜负,并且必须要赢。人是绝不会屈服于其他人的,就连奴隶都会以奴隶那卑微的方式进行反击。因而人类的生存之道除了立马一决胜负外,绝无他法。虽然人们满口的仁义道德,但实际上最终考虑的都是自己。要踩在一个一个人的头上往上爬。世间的隐晦是人类的复杂。因而深不可测的海洋不是世界而是人类。想到这儿,我多少从对世界深海幻影般的恐惧中解脱了出来,不再像以前那样,凡事谨小慎微、惶恐不安,而是变得厚颜无耻、随机应变了。
5
自分は世の中に対して、次第に用心しなくなりました。世の中というところは、そんなに、おそろしいところでは無い、と思うようになりました。つまり、これまでの自分の恐怖感は、春の風には百日咳(ひゃくにちぜき)の黴菌(ばいきん)が何十万、銭湯には、目のつぶれる黴菌が何十万、床屋には禿頭(とくとう)病の黴菌が何十万、省線の吊皮(つりかわ)には疥癬(かいせん)の虫がうようよ、または、おさしみ、牛豚肉の生焼けには、さなだ虫の幼虫やら、ジストマやら、何やらの卵などが必ずひそんでいて、また、はだしで歩くと足の裏からガラスの小さい破片がはいって、その破片が体内を駈けめぐり眼玉を突いて失明させる事もあるとかいう謂わば「科学の迷信」におびやかされていたようなものなのでした。それは、たしかに何十万もの黴菌の浮び泳ぎうごめいているのは、「科学的」にも、正確な事でしょう。と同時に、その存在を完全に黙殺さえすれば、それは自分とみじんのつながりも無くなってたちまち消え失せる「科学の幽霊」に過ぎないのだという事をも、自分は知るようになったのです。
我对这个世界越来越放下了戒心。我开始觉得这个世界没那么恐怖。之前让我害怕的都是些,春风里有几十万百日咳的病菌,澡堂里有几十万致人眼瞎的病毒,理发店里有几十万让人秃头的细菌,电车吊环上长着的几十万疥癣的虫子。还有生鱼片、烤牛肉和烤猪肉里面肯定藏着绦虫的幼虫、跳蚤和虫卵什么的。光脚走路的时候,脚会踩到玻璃碎片。碎片会从脚底钻入体内,在体内四处乱窜,甚至可能刺破眼球导致失明。这些所谓“科学的迷信”让我恐惧。确实,有成千上万的细菌在漂浮、在蠕动,这在“科学”上来说是正确无疑的,但是我发现,只要不去想、不去担心这些事,那它们不过是和我毫无关系的,很快就会消失的“科学幽灵”。
6
さすがにその商人は、その後やっては来ませんでしたが、自分には、どうしてだか、その商人に対する憎悪よりも、さいしょに見つけたすぐその時に大きい咳ばらいも何もせず、そのまま自分に知らせにまた屋上に引返して来た堀木に対する憎しみと怒りが、眠られぬ夜などにむらむら起って呻(うめ)きました。
ゆるすも、ゆるさぬもありません。ヨシ子は信頼の天才なのです。ひとを疑う事を知らなかったのです。しかし、それゆえの悲惨。
神に問う。信頼は罪なりや。
ヨシ子が汚されたという事よりも、ヨシ子の信頼が汚されたという事が、自分にとってそののち永く、生きておられないほどの苦悩の種になりました。自分のような、いやらしくおどおどして、ひとの顔いろばかり伺い、人を信じる能力が、ひび割れてしまっているものにとって、ヨシ子の無垢(むく)の信頼心は、それこそ青葉の滝のようにすがすがしく思われていたのです。それが一夜で、黄色い汚水に変ってしまいました。見よ、ヨシ子は、その夜から自分の一顰(いっぴん)一笑にさえ気を遣うようになりました。
那个商人果然没有再来,但不知道为什么,我更恨堀木,我恨他发现这龌龊事时没有大声咳嗽、他什么都没有做就这样悄悄地回楼顶告诉我。我恨他!这股憎恨和愤怒,在不能安寝的夜晚不断翻滚呻吟。
没有什么原不原谅的事。良子过于信赖他人,连丝毫的怀疑都没有。也正是因此,她才会如此悲惨。
我问神。信赖是一种罪过吗?
良子被人玷污很让我愧疚,但良子的信赖被伤害更是在我心中种下了苦涩的种子,之后不断长大,让我痛不欲生。像我这种畏畏缩缩、只会看他人脸色、连对他人的信任都出现裂痕的人,良子纯洁的信赖,如同青葱的瀑布般冲刷我的心灵,但一夜之后,却被玷污成黄色的污水。看啊,良子从那天晚上开始,连自己的一颦一笑都小心翼翼地藏起来了。
7
無垢の信頼心は、罪なりや。
唯一のたのみの美質にさえ、疑惑を抱き、自分は、もはや何もかも、わけがわからなくなり、おもむくところは、ただアルコールだけになりました。自分の顔の表情は極度にいやしくなり、朝から焼酎を飲み、歯がぼろぼろに欠けて、漫画もほとんど猥画(わいが)に近いものを画くようになりました。いいえ、はっきり言います。自分はその頃から、春画のコピイをして密売しました。焼酎を買うお金がほしかったのです。いつも自分から視線をはずしておろおろしているヨシ子を見ると、こいつは全く警戒を知らぬ女だったから、あの商人といちどだけでは無かったのではなかろうか、また、堀木は? いや、或いは自分の知らない人とも? と疑惑は疑惑を生み、さりとて思い切ってそれを問い正す勇気も無く、れいの不安と恐怖にのたうち廻る思いで、ただ焼酎を飲んで酔っては、わずかに卑屈な誘導訊問(じんもん)みたいなものをおっかなびっくり試み、内心おろかしく一喜一憂し、うわべは、やたらにお道化て、そうして、それから、ヨシ子にいまわしい地獄の愛撫(あいぶ)を加え、泥のように眠りこけるのでした。
纯粹的信任是罪啊。
连最值得托付的美好品质我都抱有疑惑,这世间所有的一切都让我如坠云雾,我现在唯一能依靠的只有酒。早上一醒来我就开始喝烧酒,我表情变得猥琐,牙齿蜡黄残缺,漫画也画的很下流。好吧,我还是说得更清楚些。从那时候起,我就开始偷偷卖春宫图。我需要钱买酒。我发现良子总是把视线从我身上移开,一脸的不知所措。这娘们完全不懂得戒备。说不定和那个商人发生过不止一次,或者和堀木?不可能,或者是和我不认识的人?疑惑中又产生疑惑,但我又没有勇气去问清楚,只能和以前一样在不安和恐惧中徘徊,只有喝酒,把自己喝醉了后再低三下四地旁敲侧击地询问。表面是没有分寸地说笑,内心却是白痴似的又忧又喜。然后,施虐般的对良子疯狂的爱抚,烂泥一样的沉沉睡去。
8
不幸。この世には、さまざまの不幸な人が、いや、不幸な人ばかり、と言っても過言ではないでしょうが、しかし、その人たちの不幸は、所謂世間に対して堂々と抗議が出来、また「世間」もその人たちの抗議を容易に理解し同情します。しかし、自分の不幸は、すべて自分の罪悪からなので、誰にも抗議の仕様が無いし、また口ごもりながら一言でも抗議めいた事を言いかけると、ヒラメならずとも世間の人たち全部、よくもまあそんな口がきけたものだと呆(あき)れかえるに違いないし、自分はいったい俗にいう「わがままもの」なのか、またはその反対に、気が弱すぎるのか、自分でもわけがわからないけれども、とにかく罪悪のかたまりらしいので、どこまでも自(おのずか)らどんどん不幸になるばかりで、防ぎ止める具体策など無いのです。
不幸。这个世界上,有各种各样不幸的人,不对,是所有人都是不幸。但是,他们的不幸,可以堂堂正正地向所谓的世界抗议,而“世界”也很容易理解他们的抗议并施予同情。但是,我的不幸都是由自己的罪恶造成的,所以没法向任何人抗议,而且我支支吾吾地想说一句抗议的话,不仅是比目鱼、世上的所有人,居然都能说出来。我愕然了。我到底是世俗所说的“任性”,还是太懦弱,连我自己也不知道是什么,反正我就像是一团罪恶的集合体,只会越来越不幸,而且没有任何阻止的办法。