連覇めざす仙台育英を軸に大混戦 甲子園出場49校を担当記者が分析
昨夏、初めて「白河の関」を越えた深紅の大優勝旗を手にするのはどこか。全国3486チームが参加した地方大会を、昨夏、東北勢として初の全国制覇を遂げた仙台育英など49の代表校が勝ち抜いた。6日の第105回記念大会の開幕を前に、取材にあたった担当記者がその戦力を探った。組み合わせ抽選会は3日午後2時から行われる。(座談会の実施は7月31日)
投手力の仙台育英、バランスの広陵、強打の慶応と智弁学園
記者B 混戦になりそうだけど、力があるのはどこ。
記者A 一番手は仙台育英だろう。投手力が突出している。昨夏の優勝を経験した右腕の高橋煌稀(こうき)、湯田統真、左腕の仁田陽翔(はると)がさらに成長した。いずれも最速は150キロ以上。宮城大会は5試合で5投手が登板し、失点はたったの2。捕手の尾形樹人がそれぞれの特徴をうまく引き出している。
記者D 攻撃力はどう。
記者C 昨夏から4番に座る斎藤陽(ひなた)や橋本航河、山田脩也の1、2番が引っ張る。宮城大会で2本塁打を放った斎藤敏哉や2年生の鈴木拓斗は長打力が魅力だ。強力な投手陣を援護できれば、2004、05年の駒大苫小牧(南北海道)以来、史上7校目となる夏連覇が現実味を帯びてくる。
B 広陵も強いよね。
記者E 4強に入った今春の選抜からさらに投打が充実した印象だ。最速147キロの2年生右腕・高尾響は春から直球の平均球速が上がり、スライダーの切れも増した。広島大会は5試合で計36回を投げて46奪三振。狙って三振が取れている。
B 真鍋慧(けいた)は通算62本塁打で大会屈指の強打者。1番田上夏衣(たのうえかい)や2番谷本颯太は俊足で、足を絡めた攻撃も得意とする。守りも6試合で1失策と堅い。創部110年を超える伝統校で春は3度の優勝があるが、夏はない。悲願を狙える力は十分にあると思う。
D 激戦の神奈川を勝ち抜いた慶応も楽しみだね。
C 今春の選抜2回戦で仙台育英に延長10回タイブレークの末に1―2で惜敗し、打力を磨いてきた。神奈川大会準決勝で東海大相模を相手に14安打で12得点。6回コールド勝ちすると、横浜との決勝では九回に3番渡辺千之亮が逆転3ランを放ち、6―5で打ち勝った。
B 小宅(おやけ)雅己らの投手陣が安定すれば、1916(大正5)年の第2回大会以来、107年ぶりの優勝も見えてくる。
A 攻撃力で目を引くのは春の近畿大会を制した智弁学園。決勝で先頭打者本塁打を放つなど奈良大会で4本塁打をマークした松本大輝、広角に長打が打てる中山優月(ゆづき)らを中心に5試合で計12本塁打。チーム打率は4割を超える。12犠打を記録し、三振は二つだけと緻密(ちみつ)さも兼ね備える。2年前の第103回大会の準優勝を超えることが目標だ。
追う9校 大阪桐蔭を破った履正社、愛知3連覇の愛工大名電ら
B 大阪大会決勝で大阪桐蔭を倒した履正社はどうなの。
A 投手陣は制球のいい増田壮と最速150キロを誇る福田幸之介の左腕2人が中心だ。福田は大阪桐蔭を3安打完封し、自信を深めたよ。打線も大阪大会で3本塁打の4番森田大翔を中心に頼もしい。全国制覇した19年以来の出場。今春の選抜では初戦敗退しており、落ち着いて地力を発揮できるかがポイントだろうね。
記者F 参加173チームの最激戦区・愛知大会を3連覇した愛工大名電を忘れていないかな。準々決勝では好投手を擁する享栄から10得点し、決勝は中京大中京に1点差で競り勝った。県内のライバルを破っての頂点に選手たちは自信を深めたよう。昨夏の8強以上をめざしたい。
記者E 東北では八戸学院光星(青森)の評判がいい。春の東北大会で仙台育英を破って優勝しており、今夏もチームで計6本塁打と強打は相変わらず。投手陣は洗平(あらいだい)比呂、岡本琉奨と2年生の左腕2人が軸だ。
A 歴代最多を更新する40回目の出場となった北海(南北海道)も評価が高いよ。岡田彗斗、熊谷陽輝の二枚看板はともに140キロ台後半の球威を誇る。チーム打率も4割近く、攻守のバランスがいい。
D 九州では大分大会3連覇の明豊が強い。エース中山敬斗は最速147キロ。大分商との決勝は2安打で完封した。同じ右腕の森山塁もいい。下位の西川昇太が打率6割超、木下季音が打率5割と打線に切れ目がないのも強みだ。
B 選抜に出場した沖縄尚学も楽しみだね。
D 最速147キロの本格派右腕、東恩納蒼(あおい)がさらに成長し、沖縄大会は31回余りを投げて28奪三振、無失点。スライダーだけでなく、質が上がった真っすぐでも三振がとれる。元気がなかった打線に早く調子を取り戻して欲しいよ。
A 今春の選抜8強の専大松戸(千葉)は投手力に定評がある。最速151キロの好右腕、平野大地が調子を落としているようだけど、青野流果、渡辺翼、梅沢翔大らが伸びた。チーム打率3割8分3厘と打線が好調なのも心強い。
C 東海大甲府(山梨)の打力にはちょっと驚いた。チーム打率は4割を超え5試合で7本塁打、55得点。3番兼松実杜(みつと)は準決勝と決勝で計3本塁打を放った。山梨学院の選抜優勝に刺激を受けているそうで、8年ぶりの夏の甲子園で暴れたい。
E 浦和学院は機動力を生かした「超速攻」を掲げて、激戦区の埼玉を制した。全試合で先制点を奪い、盗塁は13。決勝では花咲徳栄に7―2で完勝した。1年生4番の西田瞬ら下級生が多いチームだけに勢いをつかみたい。
実力校ずらり 昨夏4強の聖光学院や近江
F 昨夏の全国選手権でともに4強に入った聖光学院と近江も戻ってくるね。
E 聖光学院は主将の高中一樹ら昨夏の経験者が残り、粘り強い。福島大会決勝は延長十回に4点差を逆転した。
B 近江は昨年の山田陽翔(現西武)のような大黒柱はいないが、1年から甲子園を経験する主将の横田悟を中心にまとまりがいい。投手陣は左腕河越大輝らの継投で臨む。
F 大リーグで活躍する大谷翔平の母校もやってくる。
E 花巻東だね。高校生最多とされる通算140本塁打を放つ佐々木麟太郎が大きな注目を集めそうだ。佐々木麟は本調子ではなかったが、投打のバランスがよくチーム力が高い。
D 九州国際大付の左の強打者、佐倉俠史朗(きょうしろう)は福岡大会で打率4割3分5厘。佐倉を含め昨年の選抜、全国選手権に出場している選手が多く、経験値が高い。
A 東海大熊本星翔の百崎蒼生も気になる好打者だ。春の九州王者・有明を破った準決勝で逆転の3点本塁打を放った。決勝ではエース玉木稜真が九州学院を完封と総合力がある。
B 高知中央にも期待したい。準決勝で明徳義塾、決勝で高知を破り、勢いに乗る。高知からの初出場は1994年の宿毛以来29年ぶりなんだ。
C 強豪を破ったといえば、16年ぶり出場の文星芸大付もそう。栃木大会決勝で作新学院にサヨナラ勝ちした。継投が得意だよ。
A 社(やしろ)は激戦区の兵庫から3季連続。派手さはないが、土壇場でしぶとい。
B 英明(香川)は今春の選抜で智弁和歌山相手に好投した軟投派エースの下村健太郎の出来が鍵を握る。横手と下手の間ぐらいの位置から投げる独特のフォームで、90キロ台のスローカーブは打ちづらそうだ。
C 22回目出場の星稜(石川)は強肩強打の捕手、近藤真亜久(まあく)が攻守両面でチームの要だ。
B 市和歌山は投手がいい。制球力が高いエース栗谷星翔(せいが)が先発し、球威のある小野莞都(かんと)が救援する勝ちパターンがある。
A 大垣日大(岐阜)は5番でエースの山田渓太が投打で引っ張るよ。79歳の阪口慶三監督は、甲子園春夏通算40勝目まであと1勝に迫っている。
E 日大三は2桁得点が3試合と自慢の強打で、2年続けて西東京を制した。同校を強豪に育てた小倉全由(まさよし)・前監督から三木有造監督に代わって初の甲子園になる。
旋風に期待
B 夏はやっぱり攻撃力が左右するよね。
F 創部26年目の浜松開誠館(静岡)は打ち勝つ野球で初出場を決めた。1球目から積極的に振っていく姿勢が目立つ。
E 立命館宇治(京都)も打線は活発だ。チーム打率は3割6分超。3番北川陸翔は通算43本塁打で広角にも打てる。
D 目立つ選手はいないが、神村学園も勝負強い打撃をする。1~7番まで打率3割超で切れ目がなく、鹿児島大会決勝のサヨナラ3点本塁打は印象的だ。
A 対照的に堅守が光るチームも多い。
C 上田西(長野)は6試合を無失策で乗り切った。攻守の要の遊撃手・横山聖哉は流れるような守備を見せる。
B 富山商も5試合で失策がゼロ。二遊間がよく鍛えられている。
C 個性的な選手も多い。クラーク国際(北北海道)のエース新岡(にいおか)歩輝は横手、下手など様々な腕の振りで幻惑し、打っても3本塁打だ。
D 宇部鴻城(山口)の浅田真樹は横手投げの好投手だ。走者がいなくてもクイックを使うなど工夫が光る。
B 土浦日大は茨城大会全6試合で継投を駆使した。決勝では九回に3点差を逆転するなど粘りがある。
F いなべ総合(三重)も継投策だ。水野陸翔が先発、高田陽聖が救援というパターンが確立している。
A 12年ぶりの夏の甲子園となる徳島商はエース森煌誠が5試合を一人で投げ、2完封した。最速149キロを誇る本格派の好右腕だ。
E 日大山形は2年生が多い。山形大会で出た3本塁打はいずれも2年生が放った。
E 北陸(福井)は春夏連続出場。飛び抜けた選手はいないが、経験値が高く競り合いに強い。
勢いに乗れるか
B 今大会の初出場6校はすべて選抜出場経験もなく、フレッシュな印象だ。
C 共栄学園は東東京大会の準決勝、決勝でいずれも九回に逆転した。粘り強さは侮れないよ。
E 東京学館新潟は打率6割超えの1番佐藤明日葵(あすき)は俊足で、しぶとい。
D 九州からも新顔が2校。宮崎学園はノーシードから快進撃をみせた。2年生左腕の河野(かわの)伸一朗は身長189センチから投げ下ろす投球が持ち味だ。
B 鳥栖工(佐賀)はバント練習に力を入れており、5試合で計24犠打。小技を絡めた攻撃に自信を持つ。
A 最長ブランクは21年ぶりの川之江(愛媛)。前回は4強に入って旋風を起こしたんだ。今夏はノーシードから6試合をしぶとく勝ち上がったよ。
E 前橋商は私学勢を次々と破って、13年ぶりの夏の甲子園だ。6試合のうち5試合で逆転勝ちと粘り強い。
B 立正大淞南は11年ぶりだよ。日野勇吹(いぶき)と山下羅馬(らお)の両右腕を中心に守りからリズムをつくる。
F 甲子園初勝利をめざす学校もあるね。
A 鳥取商は2年連続の全国選手権だが、過去3回は一度も勝っていない。制球の良いエース山根汰三(たいぞう)を軸に悲願達成を狙うよ。
B おかやま山陽は春夏あわせて過去に2回、甲子園に出たが、初勝利に届いていないんだ。打率5割超えの2年田内真翔(まなと)を起点に好機を広げていきたい。
C ほかにも個性的なチームがあるね。
E 明桜は「一戦決勝」を心がけ、初戦から決勝を想定して5試合を勝ち上がったそう。記録的な豪雨で日程が何度も順延する中、集中力を切らさなかったんだ。
D 守備練習に力を入れる創成館は永本翔規、福盛大和、村田昊徽(ごうき)の3投手を中心に守り勝つ野球をめざすよ。
座談会出席者
東京 大宮慎次朗
笠井正基
名古屋 山田佳毅
大阪 山口裕起
室田 賢
西部 酒瀬川亮介