日本取引所グループCEO 英で日本株へのさらなる投資呼びかけ
日本株が上昇傾向にあるなか、東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループのトップが、ヨーロッパの金融の中心地であるイギリス ロンドンを訪れて投資家向けに講演を行い、日本株へのさらなる投資を呼びかけました。

日本取引所グループの山道裕己CEOは、グループのトップとしては4年ぶりにロンドンの金融街「シティ」を訪れ、29日におよそ160人の投資家を前に講演しました。
この中で山道CEOは「日本では、変化の岐路に立っていることを示しているかもしれない多くのことが起きている」と述べました。
具体的には、ことしから東京証券取引所が株価を意識した経営を企業に求めていることや、政府が東証プライム上場企業の女性役員の比率を2030年までに30%以上とする目標を掲げていることなどを紹介しました。
その上で「日本経済には多くの課題があるが、日本には見た目以上の可能性がある。取引所として日本の株式市場が魅力的な場所であることを伝えていく」と述べて日本株へのさらなる投資を呼びかけました。
日経平均株価はことし4月以降上昇傾向が強まり、今月にはバブル期の1990年3月以来の高値を更新しています。
その主な要因として海外の投資家が日本企業の株式を買ったことがあげられています。
山道CEO「日本が高い関心を持たれていると実感」

講演会のあと日本取引所グループの山道CEOは、NHKのインタビューで「世界の金融センターであるロンドンで、日本が多くの投資家から高い関心を持たれていると実感できたのが最大の収穫だ」と述べました。
また、日本企業の株価を意識した経営改革が大きく進んでいることや、設備投資が過去最高に迫る勢いで伸びていること、さらに優遇税制「NISA」の導入などで個人投資家のすそ野が広がっていることなど、株価上昇につながる要因がこのように重なるのは過去なかったことだという考えを示しました。
そのうえで「今までジャパンバッシングとか、日本が否定的に言われることが多かったが海外の投資家はもっと日本のことを知りたい、もっと勉強したいというふうに変わり始めている。単に株価が上がる下がるということにとどまらず、日本経済の話がもっと世界で語られるようになる可能性は高いのではないか」と期待を述べました。
さらに「株価の向上につながる経営改革に完成はなく、もっと上を目指して継続しなければいけない」とも述べ、企業の経営者は、業績の向上と従業員の賃金の引きあげなどに取り組み続けるべきだと強調しました。
講演会に参加した外国人投資家は
日本取引所グループのトップによる講演会に参加した投資家たちの間では、日本株上昇の要因として日本企業が内部留保を設備投資や配当に回したり、情報の開示を進めるなど、株価の向上に向けてさまざまな取り組みを進めていることがあると評価する意見が聞かれました。
このうちロンドンの投資会社で株式調査を担当する男性は「配当の増額や自社株買い、企業統治改革など、明確な変化があり、日本企業は転換期にあるように見える」とした一方、「一般的に、日本人は中国人やアメリカ人と比べてとても控えめだと思う。企業の広報活動が改善されれば投資家が日本に魅力を感じる大きなきっかけになる」と情報発信のさらなる充実を求めていました。
また銀行の運用担当者は「さまざまな前向きな話が一気に動いているので、日本の先行きに非常に期待している」と述べ、日本企業の改革の動きに関心があると話していました。
このほかアメリカの大口投資家が日本市場に関心を示したことが日本株への関心を引きつけるきっかけになったという人や、日本の金融緩和で当面円安が見込まれることも日本株を買い増す要因になっていると指摘する人もいました。
さらに、資産運用会社の担当者は「世界的に金融引き締め策がとられていることが、必然的に日本企業に資金が流れ込むことにつながっている」と述べて世界的に利上げが続いていることが日本株押し上げの要因になっているという見方を示しました。
一方、中小企業の株式に重点を置く投資会社の男性は「日本の企業は透明性を高める必要がある。社外取締役は独立した存在でなければならず、日本ではコーポレートガバナンス=企業統治がまだ明確ではない」と話し、企業経営を監視する仕組みを改善すべきだと注文をつけました。
「エコノミスト」元編集長“円安で日本の資産は安く見える”
日本取引所グループの山道CEOと対談した、知日派として知られる経済誌「エコノミスト」の元編集長ビル・エモット氏は、NHKの取材に対して「日本株上昇の最大の理由は、海外の投資家から見て日本株が非常に割安に見えるからだ。円安が続いていることで日本の資産は安く見える」と述べました。
そのうえで「いま注目しているのは、海外の投資家に続いて、日本の投資家が貯蓄から株式への投資を始めるかどうかだ」と述べ、株価上昇が続くかどうかは、日本の個人投資家の動向にかかっているという見方を示しました。
エモット氏は「日本は働き手が不足して賃金が上がり、輸入する原材料不足と価格上昇に直面している。日本の家計や企業はデフレというよりインフレ的な状況にある」と述べ、日本の投資家がインフレで現金を目減りさせるよりは株式などに投資するようになるかもしれないという見方を示しました。
エモット氏は「日本経済は生産性を向上させ、AIやバイオテクノロジー、エネルギー転換といった技術を活用できればまた日は昇るだろう。きょうまだそれは予測できないがその姿を見るのを私は待っている」と述べました。