転職で年収上がる傾向 職種こだわり年収2倍の人も
短期間に転職を繰り返すと人事評価が下がるー
そんな考えはもう昔の話かもしれません。
転職サービスの運営会社によると去年、転職した人の年収は転職前と比べて中央値で7万円アップ。
転職後は年収が下がる傾向が続いていましたが、去年初めてプラスに転じたということです。
1つの職種にこだわって転職を繰り返し、年収が2倍になった人もいます。
将来に不安感じて転職 “広報が合っていた”
AIの開発を行う都内のベンチャー企業で正社員として働く中村麗奈さん(35)。
広報担当として企業のPRやホームページ作成などの業務を行っています。
大学を卒業後して働き始めて13年。これまでに6回転職しました。

中村さん
「転職している回数をスキルとか経験値というふうに見てもらえるような会社に入りたいなと思いながら転職を重ねてきています」
中村さんが初めに就職したのは医療法人で、医療ソーシャルワーカーとして働いていました。
月の手取りは20万円ほどで、年収は300万円足らず。生活に余裕がなく、責任ある立場を任されるようになっても賃金はほとんど上がらなかったといいます。
そんな状況を打破しようと就職から5年後に転職を決意。転職先で任されたのが「広報」の仕事でした。

仕事ぶりが評価され、社内で表彰されたことをきっかけに広報の仕事が自分に合っていると実感したといいます。
以来、広報にこだわってスキルや経験を高められる会社に転職を繰り返しています。1つの会社には長くても3年。転職のたびに年収は増えているそうです。
中村さん
「最初の就職先で働き続けていたとしても賃金は上がらなかったと感じています。それと比べると年収はおよそ2倍になりました」
今も外部のオンライン講座などを受講してスキルを磨く努力を続けていて、そうした姿勢を採用した上司も高く評価しています。

Laboro.AI 和田崇 執行役員
「転職の回数が多いと採用する側からはネガティブにうつることもありますが、彼女の場合は芯の通った転職をしていたので転職をポジティブに捉えて採用を決めました。場所を変えながらこれまで培ってきたスキルやノウハウを今の仕事にいかしてほしい」
転職で賃金アップの傾向も
人手不足などを背景に転職市場は活性化しています。
大手人材サービス会社3社を介して転職した人は、去年9月までの半年間で5万人を超えて過去最高に。前の年の同じ時期と比べ30%以上増えました。
さらにこうした転職を通じて賃金があがる傾向もでています。
転職サービスを運営するエン・ジャパンが、サービスを利用して転職した人の転職前後での年収の変化を示したのが下の図です。

2017年は転職後の年収が中央値で22万円減っていましたが、2022年は7万円のプラスになりました。
あくまでサービスを利用して転職した人のみのデータですが、転職後の年収が転職前の年収を上回ったのは去年が初めて。
年代別で見ても20代、30代、40代のいずれも転職後の年収がプラスに転じたということです。

転職サービス責任者 峯崎直哉さん
「転職によって給料があがる人の割合が増えている状況にある。コロナ禍からの経済回復に伴い、成長産業を中心に各社がアクセルを踏む中で、その起爆剤として人材が求められていることが背景にあると考えられる」
企業にも変化のきざし 5年で月給10%アップ
「賃上げで技術のある人材をつなぎとめ、これからもいいものを作っていきたい」
そう語るのは、広島県福山市で自動車や携帯電話などの塗装を行う設備の設計・製造を行っている会社の関藤寛社長です。

この会社では5年前から毎年のように定期昇給に加えて、ベースアップを実施。ことしも1月からベースアップを含めて3%ほどの賃上げを行いました。
これによって、この5年間で従業員ひとり当たりの月給は少なくとも10%ほどあがった計算になるといいます。
賃上げのきっかけは8年前。設備投資を行って、これまで外部委託してきた業務の多くを社内で担うようになったことでした。

塗装設備は取引先によって用途が異なるため、取引先のニーズにあった設計を提案、製造する高い技術力が求められます。
社内で担う業務が増えたことで、これまで以上に技術力のある人材の活用が不可欠になりました。
そこでコロナ禍でも利益を伸ばしていたこともあって、賃上げによって従業員をつなぎとめようと考えたといいます。
関藤寛 社長
「いいものを作ろうと思えば、いい人が継続的に社内で活躍することが大事だと思っています。経営を見直して、従業員に利益を還元できるシステムを作る必要があると考えました」
入社8年目の50歳の従業員は、給料があがった分を大学生の子どもの仕送りにあてています。
(従業員)
「年齢が上がると給料が伸びていかないことも多いですが、給料を上げてもらっているので、これから先も頑張ろうという気持ちにつながっています」
賃上げを実施してから入社1年以上の従業員で辞めたケースはゼロに。
今後は、若者の雇用にも力を入れていきたいとしています。
会社にとっては、賃上げはコストの増加につながりますが、優秀な人材を定着させるためには欠かせない費用だと考えています。

関藤寛 社長
「中小企業がいいものを作り続けるには、適正な賃金でしっかり人を雇っていくのが大事で、今後も人への投資を続けていきたいと考えています」
人材の流動化で賃上げ傾向強まる?
高い賃金を求めて積極的に転職する労働者と、人材の流出を防ぐために賃上げに取り組む企業。
転職業界では、こうした傾向は今後、強まっていくと見ています。
エン・ジャパン 峯崎直哉さん
「よりよい環境を求めて転職する人が増え、人材の流動化が進んでいます。働く人にとって選択肢が増えていることはプラスですが、キャリアが二極化していくおそれがあるので、自身の価値を高めていく必要があります。一方で企業側も優秀な人材を呼び込むためには、たとえ賃上げが難しい場合でも、やりがいや成長を実感できるような動機付けをするなどの努力が求められるでしょう」