11あなたの愛が正しいわ~
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11 僕が今まで彼女にしてきたこと【デイヴィス視点】
僕に背を向けたローザは、まっすぐに歩き出した。
ローザの向かう先には、華やかに着飾った夫人たちが集まっている。その輪の中に気後れすることなく彼女は優雅に自然と溶け込んでいった。
楽しそうに会話をして微笑む彼女を、僕は離れた場所から見つめることしかできない。
馬車から降りたときには、僕を見つめてくれた彼女の美しい瞳に、もう僕は映っていない。
でも、僕にはローザに何かを言う資格はなかった。今、ローザがやっていることは、すべて今まで僕がローザにやってきたことだから。
今までの僕は、夜会での挨拶周りが終わると、ローザを残して親しい友の元へ行っていた。
ローザとはいつでも会えるが、友のロベルトとはこんな機会でもなければ、なかなか会うことができない。だから、ローザよりロベルトを優先するのが僕の中では当たり前だった。
しかも、僕はさっきのローザのように優しく伝えていなかった。うっとうしそうにローザの腕を払い、無言で去っていくこともあった。
あのときのローザは、どんな顔をしていたんだろう?
彼女の顔を見ていなかった僕は、それすらわからない。
「ごめん……ローザ」
楽しそうな夜会会場で、パートナーに置いていかれ、一人になることが、こんなに惨めだと知らなかった。
うつむきながら深いため息をついた僕は、誰かに背中を叩かれた。
「どうしたんだ、デイヴィス?」
「……なんだ、ロベルトか」
一瞬、ローザが僕の元に戻って来てくれたのかと思ってしまった。
ロベルトは、いつものように「バルコニーに行こうぜ」とグラスを片手に誘ってきた。
「そっちの事業はどうだ? 俺のほうは……」
いつもは楽しいはずのロベルトとの会話が今日は頭に入ってこない。
そんなことをしても意味がないとわかっていても、夜会を楽しむローザをずっと目で追ってしまう。
「デイヴィス、何かあったのか?」
「……いや」
僕の視線で気がついたのかロベルトは「ローザ夫人を見てたのか? お元気そうで良かった」と胸をなでおろした。
「ほら、前の夜会で俺がお前に酒を飲ませたせいで、大変なことになっただろう? お前たちが離婚でもしたらどうしようかと心配していたんだ」
「り、こん……?」
予想もしなかった言葉を聞いて、頭が真っ白になる。
「お前に限って離婚はないか。俺たちの中で、一番モテていたのに、ローザ夫人に出会うまで女にまったく興味がなかったもんな。どこのご令嬢がお前を落とすかって賭けになってたくらいだぜ? まぁ、お前からローザ夫人を紹介されて、皆、納得したけどな」
当たり前だ。ローザと離婚するなんて、今まで考えたことすらない。
ローザは僕の妻だし、そもそも僕たちの結婚は家同士の繋がりを深くするための政略結婚だ。それを理解しているローザが僕から離れるわけがない。
そこで僕は気がついてしまった。
『僕から離れるわけがない』とわかっているからこそ、僕はローザをないがしろにしていたことに。
そして、認めたくないが、たぶん僕は、心のどこかでローザに追いかけられることに歪んだ喜びを感じていた。冷たくしてもなお愛してくれるローザを見て、僕のすべてを受け入れてもらっているようで満たされていたんだ。
僕の非道な行いを知りもしないロベルトは、グラスをかたむけながら「今日も、ローザ夫人はお美しいな。もうすぐ俺の婚約者も社交界デビューするから、今度夫人に紹介させてくれ」と笑う。
そうだった。ローザは出会ったころから、ずっと美しかった。結婚前は、あんなに焦がれていたのに、手に入れてしまえば、彼女の美しさに慣れてしまい、僕の中で徐々に彼女の価値が下がっていった。それでも、ローザ以外に大切な女性なんていない。
出会ったころのような熱い想いが冷めてしまっても、相手を尊重して大切にすることだってできたはずだ。少なくとも、今のローザはそうしてくれている。
「僕は……なんてひどい男なんだ……」
