02あなたの愛が正しいわ~
本专栏仅供学习和作为交流资料使用
02 『素敵な旦那さま』という夢から覚めた私
一人で馬車で帰ってきた私に屋敷の人々は驚いていたが、誰も何も言わなかった。
その日は、寝室に鍵をかけた。そして、ベッドに潜り込んで、後悔と共に思い切り泣いた。泣いて泣いて泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまった。
次の日、目が覚めた私は、泣きすぎて頭が痛くて仕方なかった。目も顔も腫れてしまっているようだ。
扉をメイドがノックしたけど、鍵は開けなかった。
いつもなら、デイヴィスに少しでも綺麗だと思ってほしくて、この時間から身支度を整えていた。きっとデイヴィスからすれば、私のそういう思いもうっとうしかったはず。
「今日は具合が悪いの」
扉の向こうでメイドが「奥様、旦那様との朝食は……?」と戸惑っている。
メイドが戸惑うのも当たり前で、私はデイヴィスと共にする朝食を、毎日、心の底から楽しみにしていた。だから、体調が悪い日でも、一度もいかなかったことはない。
でも、もう無理はしない。今日の体調は最悪だし、顔だって腫れあがって外に出られる状態じゃない。デイヴィスだって、私に会わないほうが気分が良いはずよ。
「頭が痛いの。朝食は、あとで部屋まで運んでちょうだい」
「は、はい」
「ああ、それと……」
私は寝室まで持ち込んでいた書類の束をつかむと、鍵を開けてメイドに渡した。
「これをデイヴィスに渡して。渡せばわかるわ」
「はい」
丁寧に頭を下げてからメイドは去っていく。
私はため息をつくと、再び扉に鍵をかけ、ベッドに横たわった。
「もうデイヴィスに褒めてもらいたくて、睡眠時間を削ってまで、頑張るのはやめるわ……」
デイヴィスが求めていた理想の妻は『彼の代わりに仕事をする妻』ではなかった。
「だって、彼の理想が、伯爵夫人として夜会やお茶会に積極的に参加して社交に力を入れる女性だったなんて知らなかったのよ……」
これからは睡眠をしっかりとって美容に気をつけ、ドレスも新調しなければ。私はため息をつくと心地好い睡魔に身を任せた。
*
荒々しく扉を叩く音で私は目が覚めた。
どれくらい眠っていたのか、窓の外の太陽は高く昇っている。久しぶりに十分な睡眠をとったので、気分がすっきりしていた。
「ローザ! いったいどういうつもりだい!?」
扉の向こうでは、なぜかデイヴィスが怒っていた。私はベッドから下りると扉に近づいたが鍵は開けなかった。身支度を整えていない姿を見せると、よりいっそうデイヴィスに嫌われてしまいそうで怖い。
「なんのこと?」
「なぜ朝食に来ない!?」
「体調が悪いとメイドに伝えたわ」
「そうやって、また僕の気を引こうとしているんだね。まったく君は……」
あきれたデイヴィスの声を聞きながら、私は不思議な気分になった。
私の夫は、体調が悪いと言っているのに『大丈夫?』の一言もくれない人だったかしら?
そういえば、結婚した当初は、毎日「愛しているよ」と言ってくれていたのに、最後にその言葉を聞いたのがいつなのか思い出せない。
それどころか、ここ最近は微笑みかけてくれたことすらないような気がする。
扉の向こうのデイヴィスは、きっといつものように、不機嫌な顔をしているのだろう。
「それにローザ、この書類はなんだい?」
「なに、と言われても?」
「君の仕事を私に回してくるなんて、昨日の当てつけのつもりなの?」
私は信じられない気持ちでいっぱいだった。
「……デイヴィス、それはあなたの仕事よ」
「は?」
今日、私がメイドに渡した書類は、一年ほど前にデイヴィスが体調を崩したときに、「少しの間だけ代わってほしい」と頼まれたものだった。
それは、領地経営に関することで、デイヴィスには簡単かもしれないが、私にはとても難しく、寝る時間を削って勉強することで、なんとかこなすことができていた。
デイヴィスは、「少しの間だけ」と言っていたけど、元気になっても私に任せたままで、もう一年がたっていた。仕事には少しずつなれたものの、やはり難しいので、この一年間、私はずっと寝不足で体調が悪かった。
だからこそ、早くデイヴィスに返したくて、この仕事をいつ返せばいいのか、毎日朝晩、この仕事をどうするのか確認していた。
「デイヴィス、もしかして、私に仕事を任せたことを忘れていたの? あんなに毎日、確認したのに?」
なんとか作った書類をデイヴィスに提出して、内容を確認してもらい、この仕事を今後どうするのか毎日確認していた。
扉の向こうからは返事がない。デイヴィスは、本気で忘れていたようだ。
優しく温かくて素敵な旦那様は、どうやらうっかりしているところがあるらしい。それに、結婚前にくれた宝石のように輝く言葉の数々も、口先だけのものだった。
私は、長い夢からやっと覚めたような気がした。
今まで幻想の中の素敵な夫を追いかけまわしていた。それは確かにデイヴィスにとって迷惑だっただろう。
扉の前から人の気配が消えた。デイヴィスは無言のまま立ち去ったようだ。
「謝罪もしないのね。私、今まで彼の何を見てきたのかしら?」
小さくあくびをすると、私は呼び鈴を鳴らしてメイドをよんだ。今日からは自分の仕事だけをしてのんびりと過ごせる。そう思うと、自然と頬がゆるんだ。