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海边的卡夫卡(村上春树)海辺のカフカ(日文原版)

2023-07-08 22:46 作者:日韩英小剧场  | 我要投稿

カラスと呼ばれる少年 

「それで、お金のことはなんとかなったんだね」とカラスと呼ばれる少年は言う。いくぶんのっそりとした、いつものしゃべりかただ。深い眠りから目覚めたばかりで、口の筋が重くてまだうまく動かないときのような。でもそれはそぶりみたいなもので、じっさいには隅から隅まで目覚めている。いつもと同じよに。

僕はうなずく。

「どれくらい?」

もう一度頭の中で数字を確認してから、僕は答える。「現金40万ほど。そのほかにカードで出せる銀行預金も少し。もちろんじゅうぶんとはいえないげど、とりあえずはなんとかなるんじゃないかな」

「まあ悪くない」とカラスと呼ばれる少年は言う。「とりあえずね」

僕はうなずく。

「でもそれは去年のクリスマスにサンタクロースがくれたお金じゃなさそうだね」と彼は言う。

「ちがう」と僕は言う。カラスと呼ばれる少年は皮肉っぽく、唇を軽く曲げてあたりを見まわす。「出どころはこのあたりの誰かの引き出し――というところかな?」

僕は返事をしない。もちろん彼は最初からそれがどういう金なのかを知っている。まわりくどい質問をするまでもなく。そういう言いかたをして僕をからかっているだけだ。

「まあいいさ」とカラスと呼ばれる少年は言う。「君はその金を必要としている。切実にね。そして君はそれを手に入れる。借りる、黙って拝借する、盗む……なんでもいい。どのみち君の父親のお金だ。それだけあればとりあえずはなんとかなるだろう。でも、その40万円だかなんだかを使い切ってしまったときはどうするつもりなんだい?だて財布に入れたお金が、森のきのこみたいに自然に増えていくわけはないんだからさ。君には食べるものも必要だし、寝るところも必要だ。お金はいつかなくなる」

「そのときはそのときで考える」と僕は言う。

「そのときはそのときで考える」と少年は手のひらにのせて重みをはかるみたいに、僕の言葉をそのまま繰りかえす。

僕はうなずく。

「たとえば仕事をみつけるとか?」

「たぶんね」と僕は言う。

カラスと呼ばれる少年は首を振る。「ねえ、君はもっと世間ってものを知らなくちゃいけないよ。だってさ、15歳の子ども遠くの知らない土地で、いったいどんな仕事を見つけられると思うんだい?だいたい君はまだ義務教育だって終えていないんだぜ。誰がそんな人間を雇ってくれる?」

僕は少し赤くなる、僕はすぐ赤くなる。

「まあいいや」とカラスと呼ばれる少年は言う。「まだなんにも始まってもいないうちから、暗いことばかり並べたててもしょうがないものな。君はもう心をきめたんだ。あとはそれを実行に移すだけのことだ。なにはともあれ君の人生なんだ。基本的には、君が思うようにするしかない」

そう、なにはともあれこれは僕の人生なのだ。

「しかしこらから先、君はずいぶんタフにならないとやっていけないぜ」

「努力はしている」と僕は言う。

「たしかに」とカラスと呼ばれる少年は言う。「この何年かで君はずいぶん強くなった。そのことを認めてないってわけじゃないんだよ」

僕はうなずく。

カラスと呼ばれる少年は言う。「しかしなんといっても君はまだ15歳なんだ。君の人生は、ごく控えめに言って、まだ始まったばかりだ。君がこれまで見たこともないようなものが、世界にはいっぱいあるわけさ。今の君には想像もできないようなものがね」

僕らはいつものように父の書斎の古い革のソウファの上に、並んで座っている。カラスと呼ばれる少年はその場所が気に入っている。そこにある細々したものが彼は大好きなのだ。今は蜂のかたちをしたガラスの文鎮を手の中でもてあそんでいる。もちろうん父が家にいるときには近寄りもしないけど。

僕は言う。「でもなにがあっても、僕はここから出て行かなくちゃならないんだ。それは動かしようのないことだよ」

「そうかもしれない」とカラスと呼ばれた少年は同意する。文鎮をテーブルの上に置き、頭の後ろ手で組む。「しかしそれですべて解決するわけじゃない。またまた君の決意に水を差すようだけど、どれほど遠くまで行ったところで、君がうまくここから逃げだせるかどうか、それはわかったものじゃないぜ。距離みたいなものはあまり期待しないほうがいいような気がするね」

僕はあらためて距離について考える。カラスと呼ばれた少年はひとつため息をつき、それから指の腹で両方の瞼の上を押さえる。そして目を閉じ、その暗闇の奥から僕に語りかける。

「いつものゲームをやろう」と彼は言う。

「いいよ」と僕は言う。僕も同じように目を閉じ、静かに大きく息をする。

「いいかい、ひどいひどい砂嵐を想像するんだ」と彼は言う。「ほかのことはぜんぶすっかり忘れて」

言われたとおり、ひどいひどい砂嵐を想像する。ほかのことはぜんぶすっかり忘れてしまう。自分が自分であることさえ忘れてしまう。僕は空白になる。ものごとはすぐに浮かんででくる。いつものように僕と少年は、父の書斎の古い革の長椅子の上でそのものごとを共有する。

「ある場合には運命というのは、絶えまなく進行方向を変える局地的な砂嵐に似ている」とカラスと呼ばれる少年は僕に語りかける。 

ある場合には運命っていうのは、絶えまなく進行方向を変える局地的な砂嵐に似ている。君はそれを避けようと足どりを変える。そうすると、嵐も君にあわせるように足どりを変える。君はもう一度足どりを変える。すると嵐もまた同じように足どりを変える。何度でも何度でも、まるで夜明け前に死神と踊る不吉なダンスみたいに、それが繰りかえされる。なぜかといえば、その嵐はどこか遠くからやってきた無関係ななにかじゃないからだ。そいつはつまり、君自身のことなんだ。君の中にあるなんにかなんだ。だから君にできることといえば、あきらめてその嵐の中にまっすぐ足を踏みいれ、砂が入らないように目と耳をしっかりふさぎ、一歩一歩とおりぬけていくことだけだ。そこにはおそらく太陽もなく、月もなく、方向もなく、あるばあいにはまっとうな時間さえない。そこには骨をくだいたような白く細かい砂が高く舞っているだけだ。そういう砂嵐を想像するんだ。 

僕はそんな砂嵐を想像する。白いつまさきが空に向かって、まるで太いロープのようにまっすぐたちのぼっている。僕は両手で目と耳をしっかりとふさいでいる。身体の中にその細かい砂が入ってしまわないように。その砂嵐はこちらをめがけてどんどん近づいてくる。僕はその風圧を遠くから肌に感じることができる。それは今まさに僕を呑みこうもとしている。

やがてカラスと呼ばれる少年は僕の肩にそっと手を置く。すると砂嵐は消える。でも僕はまだ目を閉じたままでいる。

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年にならなくちゃいけないんだ。なにがあろうとさ。そうする以外に君がこの世界を生きのびていく道はないんだからね。そしてタフであるというのがどういうことなのか、君は自分で理解しなくちゃならない。わかった?」

僕はただ黙っている。少年のてを肩に感じながら、このままゆっくり眠りに入ってしまいたいと思う。かすかな羽ばたきが耳に届く。

「君はこれから世界でいちばんタフな少年になる」とカラスと呼ばれる少年は、眠ろうとしている僕の耳もとで静かに繰りかえす。僕の心に濃いブルーの字で、入れ墨として書きこむみたいに。 

そしてもちろん、君はじっさいにそいつをぐり抜けることになる。そのはげしい砂嵐を。形而上的で象徴的な砂嵐を。でも形而上的であり象徴的でありながら、同時にそいつは千の剃刀のようにするどく生身を切り裂くんだ。何人もの人たちがそこで血を流し、君自身もまた血を流すだろう。温かくて赤い血だ。君は両手にその血を受けるだろう。それは君の血であり、はかの人たちの血でもある。

そしてその砂嵐が終わったとき、どうやって自分がそいつをくぐり抜けて生きのびることができたのか、君にはよく理解できないはずだ。いやほんとにそいつが去ってしまったのかどうかもたしかじゃないはずだ。でもひとつだけはっきりしていることがある。その嵐から出てきた君は、そこに足を踏み入れたときの君じゃないっていうことだ。そう、それが砂嵐というものの意味なんだ。 

15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになる。

もちろん順を追ってくわしい話をしようと思えば、たぶんこのまま一週間だって話をつづけることはできる。しかしひとまず要点だけを言うと、だいたいそういうことになる。15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。

なんだかおとぎ話みたいに聞こえるかもしれない。でもそれはおとぎ話じゃない。どんな意味あいにおいても。

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