13あなたの愛が正しいわ~
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13 まるで夢のよう
少し攻めたデザインの私のドレスは、予想外に年上のお姉様方に好評だった。
黒地に銀の刺繍なので、若い子たちより年を重ねた女性のほうが上品に美しく着こなせる。
「まぁ、素敵ね」
「どちらで仕立てたの?」
私はすぐにお姉様方に囲まれた。その中には、お目当ての高位貴族の奥様も含まれている。
彼女たちの質問に、ひとつひとつ丁寧に答えていくうちに、打ち解け輪の中に入れてもらえた。
あまりの順調さに自然と笑みが浮かんでしまう。
そうしているうちに、以前、お茶会に招いてくれたグラジオラス公爵夫人が会場に姿を現した。夫のグラジオラス公爵と一曲ダンスを踊ったあとに、こちらに近づいてくる。
私を含めた貴族たちは、一斉に夫人に会釈した。
「楽しそうね。あら、あなたは……」
なぜか私は公爵夫人と目が合った。
「ファルテール伯爵夫人ね。今日のドレスも素敵だわ」
公爵夫人は、お茶会のときも私のドレスを褒めてくださったので、もしかしたら、趣味が合うのかもしれない。
「よければ、今度一緒に私のドレスを選んでくださらない?」
そういった公爵夫人は、優雅に扇を広げると私の耳元で「私の夫、センスが悪いのに私のドレスを選びたがって困っているの。私に選ばせてくれないのよ。だから、あなたが選んで私に贈ってくれたことにしてくださると嬉しいわ」とささやく。
「旦那様と仲がよろしいのですね。素敵ですわ」
私の言葉に公爵夫人は、ほぅとため息をついた。
「仲は良いのよ。でもね……あら、やだ。主人がこっちに来るわ」
公爵夫人の言葉で振り返ると、白い髭を蓄えた紳士がこちらに歩いてきていた。紳士は公爵夫人の左手に優しくふれる。
「マチルダ、もう一曲踊ろう!」
「いやよ、一曲踊ったら休憩するって言ったでしょう?」
「でも、私は君と踊りたいんだよ」
困った顔の公爵夫人が私に「あなた、踊れる?」と聞いてきた。
私が「は、はい」とうなずくと「じゃあ、私の代わりに、夫と踊ってくださらない?」と、とんでもない提案をされる。
「わ、私でよろしいのですか?」
戸惑う私に、グラジオラス公爵は「愛しい妻の推薦なら大歓迎だよ」と私を優しくエスコートしてくれる。
これは、またとないチャンスかもしれないという思いと、久しぶりに大好きなダンスが踊れる嬉しさで心が弾む。
その途中で「ローザ!」と名前を呼ばれた。驚いて振り返ると、なぜか夫のデイヴィスがそこにいた。
慌てている様子のデイヴィスを見た公爵は「急ぎの用かな?」と私に尋ねてくれる。
私は「彼は夫のデイヴィス=ファルテールです」と紹介し、デイヴィスには「グラジオラス公爵様とダンスを踊る栄誉にあずかったの」と説明する。
我に返ったのか、デイヴィスは慌てて公爵に頭を下げた。それを受けた公爵は「少しの間、夫人をお借りするよ」と優しく微笑む。
「行こうか」
「はい」
それからの時間はとても楽しくあっという間だった。公爵はダンスが大好きで、何曲でも踊りたいらしい。
「妻は私ほどダンスは好きではないから、今みたいに断られてしまうんだ。でも、妻の許可なく他の女性と踊るのは嫌なんだ。君は妻のお気に入りのようだから、これからは、私のダンス友達になってくれないかな?」
「わ、私でよければ」
公爵からの提案は、ダンス好きの私からすると、まるで夢のようだった。
この国の夜会では『まずはパートナーと一曲踊ってから他の人と踊る』という暗黙のルールがあった。
私の場合は、パートナーのデイヴィスが踊ってくれないので、他の男性に誘われても受けるわけにはいかなかった。パートナーと踊っていないのに、他の男性と踊ると『夫婦仲が悪いのでは?』と疑われてしまう可能性があるからだ。
しかし、自分より年上かつ身分が上の男性から誘われた場合は、断るほうが失礼なので、そのルールは適用されない。なので、公爵はダンスのお相手としては最高だった。
結局、公爵と三曲続けて踊り、踊ったあとに公爵夫人に「ありがとう。付き合わせてごめんなさいね」とお礼まで言われた。
あまりにすべてが上手くいきすぎて『私は夢を見ているのかしら?』と思ってしまう。
こんなことが私の身に起こるなんて信じられない。
ふわふわした気持ちで夜会会場をあとにし伯爵家の馬車に乗り込むと、そのあとにデイヴィスが馬車に乗り込んできた。
私は、そのときになって、デイヴィスと一緒に夜会に来ていたことをようやく思い出した。
