【GPT机翻】战国小町苦劳谭 (戦国小町苦労譚)- 121 [千五百七十四年 十月上旬]
书名 战国小町苦劳谭
-------------------------------------------------------------------
作者: 夹竹桃
原作:http://ncode.syosetu.com/n8406bm/
翻译工具:ChatGPT
*机器输出的翻译结果UP未做任何修正,仅供试阅。标题章节号为原翻译版的顺延。*
-------------------------------------------------------------------
千五百七十四年 十月上旬(*原文网页序列号 - 138)
「囮?」
"诱饵?".
孫一が怪訝(けげん)な声で問い返す。頼廉(らいれん)は孫一の問いに首肯すると、言葉を続ける。
孙一听了感到疑惑,然后疑惑地问道。廖廉点了点头回答孙一的问题,继续说话。
「我らは常に織田の動向を窺っていた。微に入り細を穿って情報を集め、その場その場で最善と思える手を打ち続けていたのだ。しかるに現実はどうだ? 状況が好転するどころか、二進(にっち)も三進(さっち)もいかぬ立場へと追い詰められておる。つまり、織田は自身に耳目が集まっていることを承知で囮とし、派手に大きく動いて見せることで、本命の策を隠し果(おお)せたのではないか?」
我们一直在密切关注織田家的动向。我们不断地收集信息,并在每一个时刻打出我们认为最好的手牌。现实情况如何呢?我们被推到了一个越来越困难的境地,情况并没有得到改善,而是变得更加糟糕了。也就是说,織田家意识到自己被人盯上之后,故意制造噱头大肆行动,以此掩盖真正的计划。
「なるほど……我々は頭を追っていたつもりが、派手に飾り立てられた尻尾を掴まされていた訳ですな。しかし、何でも自分で決めたがり、大事なところを他人任せにしない織田が、本命の策を託せる相手などいるのでしょうか?」
“原来如此……我们原本想要追寻头部,但却被那华丽的尾巴迷惑了。但是,织田虽然总喜欢做主,不轻易把重要的事情交给别人,但也许还是有可靠的人可以托付他的主要计划吧?”
「普通は居らぬが、奴だけは囲っておる。男ではないため、出世の野心がなく、絶対に裏切らぬ上に有能であり、細かく指示を出せずとも命令の裏にある大筋を読んで単独で策を転がせる人物。此度の雑賀の受難にも、必ず一枚噛んでいよう」
通常不会有人跟着他,但只有他被包围着。他不是个有野心的男人,绝不会背叛,而且非常有能力,可以不用详细的指示就读懂命令背后的意图,独立制定计划。请务必在这次的雑贺之难中,也要让他参与其中。
「……近衛の娘か」
「……近卫的女儿吗」
手にした小枝をへし折って、中央の焚き火にくべながら孫一が苦々しげに呟いた。
孙一拿着一根小树枝折断后,边往中央篝火投入边郁郁寡欢地嘀咕道。
三人が所属するそれぞれの勢力のうち、孫一が属する雑賀衆が被(こうむ)った損害は突出して多い。国人でもないのに天下に名の知れた鉄砲傭兵集団が、今や見る影もない烏合の衆に成り下がっていた。
三人所属的各势力中,孙一所属的杂贺衆遭受的损失异常惨重。这支名声在天下响彻的火枪佣兵集团不仅不是国人,而且如今已经沦为一支一无所有的乌合之众。
更に雑賀衆の多くが商人へと立ち戻ったことは、流通を担う商人の口を通じて恐ろしい勢いで全国へと広まっていった。商人としては面白おかしい話題を提供し、取引相手の関心を買おうとするため、噂上の雑賀衆は壊滅した扱いとなっていた。
此外,许多雑贺众回到了商人行列,这个消息通过负责流通的商人口耳相传,呈现出惊人的势头向全国蔓延。商人会提供些有趣的谈资,以吸引交易伙伴的兴趣,所以关于雑贺众的流言坊间都说他们已被消灭。
こうなると傭兵集団としての雑賀衆を欲するものはいなくなり、ますます商売へと傾倒するようになる。雑賀衆の個々の勢力が個別に潤うのと引き換えに、雑賀衆の評判は地に落ちた。
这样一来,想雇佣雑贺众作为雇佣兵集团的人就越来越少了,他们也越来越倾向于从事商业。虽然雑贺众中的个人势力都能得到好处,但雑贺众的名声却已经一落千丈。
「織田の勢力ではなく、商人に情報を担わせたのも上手いやり口よ。商材を手に全国へと一斉に散る上に、全員の口に戸を立てるなど出来ようはずもない。徹底抗戦を唱えておった輩も、情勢が不利になるに連れて勢いを失っておる。戦意を保っておるのは、商才がない故に商売では食っていけぬ者ばかり」
“不是仅凭織田势力,而是利用商人转达情报的方法十分高明。他们不仅将商品通过手中传遍全国,而且还无法竞争。即使声称要全力抵抗,随着情况的恶化,他们的势头也逐渐消退。只有那些没有商业头脑而无法谋生的人才坚守战意。”
「敵を褒めてどうする! 何か手を打たねば、先人の作り上げた雑賀衆が崩壊するのだぞ?」
“夸奖敌人有何用!必须采取行动,否则先人创造的雑贺众将会崩溃!”
「無理だな。棟梁の号令一下、皆が動く体制であったならまだしも、合議制であったが故に崩壊はさけられぬ。皆がそれぞれ別の地点を目指し始めたのだ、再び纏め上げるのは容易ではない」
"不可能的。如果是由领导者下达命令,大家一起行动的话,还可能避免崩溃。但由于是合议制,崩溃是不可避免的。大家已经开始朝不同的目标前进,再次聚合起来并不容易。"
孫一は冷酷なまでに状況を理解していた。個人的な事を言えば、手塩にかけて育て、共に戦ってきた雑賀衆を崩壊に導いた信長や静子が憎い。しかし、雑賀衆の生き残りを考えるのなら、個人的な感情は排さねばならない。
孙一对局势了如指掌。就个人而言,他憎恨把自己栽培成人、和自己一同战斗的雑贺众,而让他们走向瓦解的信长和静子。但是,如果要考虑雑贺众的生存,个人感情必须保持冷静。
それぞれに違う方向へと進み始めた船団を捨て、自分と同じ方向を目指す船だけを束ねねばならない時が来ていた。かつての栄華を惜しんで、機を見誤れば全てを失う。
船队已开始向不同的方向前进,必须抛弃它们并集中管理航向与自己相同的船只。如果错过时机,珍爱过去的荣耀将毁于一旦。
常人には不可能な損切りだが、孫一にはそれが出来た。自分の命と他人の命を天秤にかけ、他人が生き残る方が雑賀衆の為になると思えば、躊躇なく命を捨てられる。そんな非人間的な潔さが、孫一にはあった。
常人不可能做到的止损,但孙一做到了。他能够将自己的生命和他人的生命权衡起来,如果认为其他人的生存对杂贺众有益,他会毫不犹豫地牺牲自己的生命。这种非人的勇敢是孙一所拥有的。
「それに織田に唆(そそのか)された連中に、構っておられぬ理由がある」
“而且被织田挑唆的那些人,有不理睬他们的理由。”
「その理由をお聞きしても?」
即使问了那个原因呢?
今まで聞き役に徹していた恵瓊(えけい)が疑問を口にした。孫一は一度大きく息を吐ききると、恵瓊の問いに答える。
一直以来担任倾听者的惠瓊发出了疑问。孙一深吸一口气后回答了惠瓊。
「連中も雑賀衆が憎くて袂(たもと)を分かった訳ではない。商人へと立ち戻ることが雑賀衆の為になると信じて転んだのだ。自身の考えを信じておるが故に、皆を導こうと主流派になろうとするだろう。こうして抗戦派は少数派へと追いやられ、ぬるま湯の中で朽ちてゆく。我らが牙を失った時、織田に抗する術などないというのに……」
「他们并不是因为讨厌杂贺众而离开的。他们相信重返商人的生活才能有利于杂贺众。他们坚信自己的想法,因此努力成为主流派,引导大家。这样一来,反抗势力就变成了少数派,逐渐消亡。当我们失去锐气,就没有对抗织田家的能力了……」
「しかし、ならばこそ皆に全てを打ち明け、再起を図るべきでは?」
“然而,难道不应该向大家坦诚一切,并尝试重新振作吗?”
「ここまで用意周到な策を弄する輩が、そのような猶予を与えるはずがない。必ず第二、第三の矢を打ち込み、互いに相争うように仕向けられよう。そうして皆が疲弊したところを織田が平らげる算段よ」
“准备周全的人们不可能给对方任何喘息的机会,必然会继续出击,让对方们相互拼杀。最后,等到所有人都疲惫不堪时,织田方将会借机全歼他们。”
「なるほど……織田は労せず雑賀を下し、本願寺は毛利以外の寄る辺を失う。加賀一向宗はまんまと織田に口実を与え、最早風前の灯火。紀伊門徒も雑賀衆という支えを失えば、遠からず瓦解しましょう。本願寺が生き残るには、籠城をするしかないが、援軍のあてがない籠城など緩慢な自殺に過ぎぬ」
“原来如此……织田不费力气打败了雑贺,本愿寺失去了除毛利以外的荫庇。加贺一向宗正好给了织田口实,现在是风雨飘摇的时候了。如果紀伊门徒失去了雑贺集团这样的支持,不久也将土崩瓦解。本愿寺想要幸存下去,只有进行守城战,但在没有援军的情况下这只是缓慢的自杀。”
「今の状況は詰んで(・・・)おる」
"现在的状况已经陷入僵局了"
頼廉が苦渋に満ちた声を絞り出した。最早尋常の一手では盤面は覆らない。それこそ何かを代償に、一回の番手で二回指すような大番狂わせが必要となる。
"頼廉用充满痛苦的声音说道,现在一般的手法已经无法覆盖整个棋盘,必须付出某种代价,进行一次大棋局,才有可能一步走两步。"
しかし、このような状況にあって尚、頼廉の目は死んではいなかった。起死回生の一手を信じて勝機を待つ、窮鼠(きゅうそ)の表情を浮かべていた。
但是,在这种情况下,尽管如此,项廉的眼睛并没有死去。他面带窮鼠表情等待逆境中的生机和机会。
「だから申したのだ……。最初の包囲時に、どれ程大きな痛手を被ろうとも織田を滅ぼさねばならぬと……」
“所以我说过……第一次包围时,不管我们遭受多大的伤害,都必须消灭织田家……”
慙愧(ざんき)に堪えぬとばかりに頼廉の口から漏れた呟きに、二人は掛ける言葉を見いだせなかった。
二人听到依赖廉去哼唱仿佛无法掩饰愧疚的呻吟,不知该说些什么。
「へっくち……誰かが噂をしているのかな? ま、それはそれとして……まーた厄介ごとだよ……」
“呼兔……有人在传闻吗?嘛,那另说……又是麻烦事啊……”
信長より届けられた文を見た静子がぼやく。文の内容を要約すると「静子の茶室を使うから、準備万端整えて待つように」である。
静子看到了信长送来的信并抱怨了一声。信的内容概括起来是“因为要使用静子的茶室,所以要准备万全地等待”。
岐阜城に設えられた信長謹製の茶室ではなく、わざわざ静子の邸宅にある茶室で茶会を開くとの内容だった。端的に言ってしまえば、静子邸にある茶室は質素である。
内容是在静子的住宅里举行茶会,而不是在设在岐阜城的信长亲自制作的茶室。简单来说,静子住宅里的茶室很朴素。
元々茶の湯に興味が薄い上に、史実で秀吉が作らせた黄金の茶室を知っている。絢爛豪華な茶室など気が休まらないとの理由から、贅を排した極力簡素な茶室に仕上がっていた。
原本对茶道没有什么兴趣,而且知道秀吉让人制作的金色茶室的历史事实。出于不能让盛宴压倒一切的原因,最终完成了尽量简朴的茶室,豪华绚烂的茶室让人无法安心。
茶室の広さは客層を考慮した、最低限の四畳半。所謂『小間(こま)』を採用した。余談だが四畳半以下の間取りを小間、四畳半以上を広間(ひろま)と呼ぶ。四畳半は『小間』にも『広間』にもなる。
茶室的大小考虑了客人的层次,最少为四个半房间大小。采用了所谓的"小间"布置。顺带一提,四个半房间以下的房间称为小间,四个半房间以上的房间称为大间。四个半房间大小可同时作为小间和大间使用。
基本的な設計は草庵茶室(そうあんちゃしつ)を参考にした。屋根には藁(わら)を葺(ふ)き、壁も素っ気の無い土壁。窓も下地窓(したじまど)と呼ばれる、壁をそこだけ塗り残したような簡素な見た目だ。
基本设计参考了草庵茶室。屋顶用稻草覆盖,墙壁采用朴素的土墙。窗户采用下地窗,看起来简单朴素,仿佛只在墙上留下了一小块漏涂的感觉。
内装も簡素極まりなく、中央部に半畳の炉畳を据え、周囲を風車の羽根のように取り囲む畳があるだけで、他にはこれまた簡素な床(とこ)の間(ま)があるだけであった。
室内装修非常简洁,中央放置着半畳大小的火炉,周围环绕着像风车叶片一样的榻榻米,除此之外只有简单的榻榻米和床的空间。
床の間には信長揮毫(きごう)の『諸行無常』の掛け軸と、市場で買ってきた何の変哲もない陶器の花入れが置かれ、季節折々で目に付いた草花を生けてあった。
床上悬挂着信长的《诸行无常》字画,花瓶里插着市场买回来的不起眼的陶器花朵,每当季节变化时就会插上各种鲜花。
外観は小ぢんまりとしており、内装も簡素ではあるものの風合いがあった。千利休が完成させた草庵茶室の趣を匂わせる中々の茶室だと自負していたが、周囲からは『陰気臭い』『みすぼらしい』と散々な評価を頂いていた。
外观虽小巧玲珑,内部装修简洁却别有一番风味。我自认为这是体现了千利休所完成的庵草茶室的特色,可周围的人却大幅评价它为"阴气森森"和"破旧不堪"。
「運気が下がるとまで貶した茶室を使いたいって……誰かに変な入れ知恵でもされたかな?」
“居然想要使用被降低到运势下滑的茶室……是被谁诡异地指点了吗?”
近頃の茶の湯において、良く話題に上るのが東山御物であった。茶室に東山御物があるだけで憧憬の的となるほどであり、多くの東山御物を所持していることで知られている静子の茶室は、さぞや見事な物であろうと囁かれていた。
最近在茶道的话题中经常提到的是东山御物。光是在茶室拥有东山御物就足以成为憧憬的对象,因为静子拥有很多东山御物而出名的茶室被传说着一定很精致。
現実には東山御物はおろか、信長本人の手による書以外には価値のあるものなど一切ないという、いっそ清々しい茶室であった。
实际上,除了信长本人的手写书之外,东山御物一无是处,这是一个清爽宜人的茶室。
「まあ、上様のことだから、何かに使えると踏んでのことだと思うけど……背景が判らない状態じゃ考えても無駄かな。そろそろ寝ようっと」
“嗯,我觉得这应该是因为上大人的事情,所以可以用来做某些事情……但是如果不知道背景,思考也是徒劳的。我想现在该睡觉了。”
灯りを消した静子は布団に潜り込む。既にヴィットマンたちが周囲で丸くなっているため、布団の辺りは若干暑いほどであった。
熄灯后,静子钻进被子里。由于维特曼等人已经在周围卷成一圈,所以被子周围有点热。
時折、猫が布団の上に乗りにくるのだが、睡眠中に胸を圧迫されると夢見が悪いので、部屋の片隅に毛布を敷いた籠を置くようにしていた。
有时猫会跳上床铺,但如果睡觉时受到压迫,会做噩梦,因此我借助房间角落放了一张垫有毛毯的篮子。
猫に代わりの寝床を提供したつもりだが、利用されている様子はなかった。
我提供了一张猫替代的床,但好像并没有被利用。
翌日、静子は茶室の準備を命じた後、一日の業務を午前中で片付けた。昼餉を取った後は、自室でヴィットマンたちとゆっくり寛いで過ごした。
次日,静子命令准备茶室之后,上午忙完了一整天的工作。中午用餐后,她和维特曼们到自己的房间里悠闲地度过了一段时间。
特別何をするという訳ではない。気の置けない家族も同然の仲間と、ゆったりとした時間を共有する。静子ほどの立場となれば、こうした時間の使い方は贅沢となる。久々に訪れた休みを堪能していた。
并没有什么特别的活动。只是和亲密的家人一起分享轻松自由的时间。像静子这样的身份,这种利用时间的方式就成了一种奢侈。她正在享受这次难得的休息时间。
「もう少ししたら寒くなるだろうけど、今は過ごし易い気候だね」
「虽然不久后会变冷,但现在的天气还是很舒适的。」
「ウォン」
"ウォン" in Simplified Chinese is "万".
静子の独り言にカイザーが一声吼えて応えた。彼女の言葉を理解しているのか、それとも単に偶然が重なっただけかは静子にも分らなかった。しかし、なんとなく合いの手を入れてくれたように思えた。
静子自言自语时,凯撒大声喊叫回答。静子不知道他是否理解她的话语,还是仅仅是巧合。但是,她觉得他似乎在帮她呼应。
「ふう……遂に南蛮果実たちも私の手を離れたし、南蛮商人から買ったデーツはそもそも手が掛からないからなあ」
“呼……终于南蛮的水果也离开了我的手,而且南蛮商人买来的枣子本来也不需要费什么心思。” translated to Simplified Chinese is: “呼……终于南蛮的水果也离开了我的手,而且南蛮商人买来的枣子本来也不需要费什么心思。”
デーツとはナツメヤシの果実である。南蛮商人が保存食として持ち込んだものを、静子が興味を持って買い取ったのだ。
椰枣是椰子的果实。静子对葡萄干产生了兴趣,就购买了南蛮商人带来的保存食品。
人類によるナツメヤシ栽培の歴史は古く、一節には紀元前六千年頃にはエジプトやメソポタミアで栽培されていたと考えられている。
人类栽培椰枣的历史悠久。据说在公元前6000年左右,埃及和美索不达米亚地区就已开始栽培。
日本ではそれほど馴染みがないため、単一品種のように思われているが、実際には四百種類以上もの品種があり、かつてナツメヤシを主食としていた地域では果実の成熟度合に応じて何種類もの呼び名が与えられたほど重要な食べ物であった。
在日本,并不那么常见,因此被认为是一种单一品种,但实际上有四百多种品种,曾经在以红椰子为主食的地区,由于其成熟度的不同而被赋予了许多名称,是非常重要的食物。
乾燥帯に多く分布していることから判るように、乾燥や温度変化に強く、過酷な栽培環境にも耐えて良く成長する。日本の気候に於いては、湿気にさえ気をつければ0度を大きく下回らない限り枯れることは稀であり、温室を利用できる静子の環境では手入れの必要がなかった。
正如可以从它在干旱区分布较广可见,它对干燥和温度变化具有较强的抵抗力,并且能够在恶劣的种植环境中良好地生长。在日本的气候条件下,只要注意湿度,不超过0度,很少会枯萎,而静子的环境可以利用温室,无需保养。
「しかし、ドライフルーツに加工された後でも発芽するとは……恐るべき生命力だね」
“然而,即使在干果加工后仍能发芽......真是可怕的生命力啊。”
工業的な加熱処理を施されない天日干しだけに、発芽能力が無くなる温度まで達しなかったのではと静子は考えた。
静子认为,可能是因为它只进行了自然晾晒,而没有进行工业化的加热处理,所以没有达到失去发芽能力的温度。
最初は食べた後のデーツの種を調べるために水に浸けておいたのだが、一晩経って見ると1.5倍ほどにも膨らんでいたため、もしやと思い土に植えてみたところ発芽した。
最初为了检查吃过后的枣子的种子,我把它们浸泡在水中,但过了一晚上,我看到它们膨胀了大约1.5倍,于是我猜想它们可能有生长的潜力,于是就把它们种植在土里,结果它们发芽了。
流石に全ての種から発芽する訳ではなく、発芽率は1割にも満たなかったが静子はとても喜んだ。
不过并非所有种子都能发芽,发芽率甚至不到10%,但静子还是非常高兴。
成木になるまでは低温に気を付ける必要があるため、鉢に移し替えて栽培を継続している。問題はデーツが雌雄異株による結実性を持っていることにある。
由于在变成木质之前需要注意低温,因此我转移到盆中继续栽培。问题在于食用枣具有雌雄异株的结实性。
この性質から雌雄の株が揃わないと、果実の収穫は期待できないのだが、花が咲くようにならなければ雌雄の判別が出来ないのだ。
从这个特性来看,如果不同性别的株没有配对,那么就不能期望获得果实收成,但如果花没有开放,性别无法区分。
静子は現代に於いて、ダイエット食品として紹介されていたデーツの記事を見ていたため、雌株は下向きに花が付き、雄株が上向きの花をつけるという事だけは覚えていた。
静子看到一篇介绍减肥食品的文章中提到了枣的内容,因此只记得雌株向下开花,雄株向上开花这一个事实。
今は10本程度の苗を育てているが、それらが全てどちらかの株に偏らないことを祈るのみである。
现在我正在培育大约10株苗,但只能祈祷它们不会全部偏向某一株。
「まあ、別に実が収穫できなくても良いんだけど、実が採れるなら『とんかつソース』を作れる可能性があるんだよねえ……。幸い南蛮商人たちはデーツが売り物になると思ってくれたようだし、今後も定期的に買い付けられるよね」
“嗯,虽然不一定非要收获果实,不过如果收获了的话就有可能做出‘炸猪排酱汁’了呢……幸好南蛮商人认为枣子能够卖出去,所以今后也能够定期采购到。”
ナツメヤシは中東ではポピュラーな食品であり、生のデーツを食べた後の種をその辺に捨てておいても良く発芽する。しかし、前述の通り、雌雄を判別するのに年数が掛かるため、多くの人々は育てようとは思わない。
棕榈树在中东地区是一种流行的食品,如果将生的枣子吃完后随手扔掉种子,也可以很好地发芽。然而,正如前面所述,由于需要几年才能判断雌雄,所以许多人不愿意尝试种植。
雄株が1本あれば、50本程度の雌株に受粉することが可能であり、優秀な雄株以外の価値が総じて低いため、後発にとって極めて不利な競争原理が働くためである。
如果有一株雄株,它就可以为大约50株雌株授粉。由于除了优秀的雄株之外,其他株的价值总的来说很低,因此对于后来者来说,存在极度不利的竞争原则。
これらの事から南蛮商人にとってデーツは保存食として以外では重要視されておらず、重量当たりの取引価格が高く設定している静子のところへと優先して回されることとなる。
因此,除了作为保存食品,南蛮商人并不重视枣子。由于静子所设定的每克售价较高,南蛮商人优先将枣子送到静子那里进行交易。
静子はこれを利用して、今後も乾燥デーツから種子を回収して、栽培を続ける予定だ。
静子打算继续使用这种方法从干枣中回收种子,并继续种植。
涼やかな午後の一時を満喫していた静子の耳に、敷かれた砂利を踏みしめて近寄ってくる足音が届いた。静子は手にした本を閉じると、立ち上がって警戒をしているヴィットマンたちの頭を撫でる。
静子正在享受凉爽的下午时光,听到走在铺满砾石上的脚步声。她合上手中的书,起身轻抚着警戒着的维特曼们的头部。
「静子様、上様より早馬が着きました。『明日の昼過ぎに着く』とのことです」
「静子女士,荣様的快马已经到了。他说:“明天中午过后到达。”」
「判りました。明日の早朝より茶室の掃除を行うよう、蕭に伝えてちょうだい」
"明白了,明天一大早就去清扫茶室,麻烦转告萧。"
「承知しました」
"知道了"
縁側に座る静子を立たせないよう、庭を回って報告にきた小姓へ命を伝える。静子は閉じた本を縁側に置き、立ち上がって全身を伸ばす。
命令来自庭园传递消息的侍从,要求他通过庭院传递命令,不要让静子从庭院上的榻榻米上站起来。静子将她合上的书放在榻榻米上,然后站起来,舒展了全身。
名残惜しいが穏やかな時間は終わった。表情を引き締めると、静子は己の為すべきことへと取り掛かった。
"很遗憾, 宁静的时光已经结束了。一收紧表情, 静子开始着手自己必须要做的事情。"
翌日の午後。蕭たちが念入りに手入れを施した茶室にて、静子は信長の到着を待っていた。たった四畳半とは言え、十月の気候には少し寒々しい。
第二天下午,在萧细心打理过的茶室里,静子正在等待信长的到来。虽然只有四个半榻榻米大小的空间,但对于十月的气候来说有些冷。
部屋の中央に設えられた炉(ろ)に、炭を並べて五徳を置き、その上に茶釜を掛けた。こうすることで、部屋全体が温かくなり、外気に晒された客が室内で暖を取れるようになる。
将炭放在屋子中央的炉子里,放置五个锅架,并把茶壶挂在上面。这样做可以让整个房间变得温暖,外面暴露在外的客人可以在室内获得温暖。
静子の茶室では畳の一部を切り取って、床下に備え付けられた囲炉裏である炉檀(ろだん)に釜を据える方式を採用している。ちなみに釜が畳の上に置かれた炉に掛けられる様式を、風炉(ふろ)と呼ぶ。
在静子的茶室里,采用了一种方式将榻榻米的一部分切下,将釜放置在炉檀内,炉檀设在地下。顺便提一下,将釜挂在放置在榻榻米上的炉子上的方式被称为风炉。
現代には様々な作法や手順が伝わっていたが、招かれた折に恥をかかない最低限しか知らない静子は、もてなす側として部屋を暖めておこうと考えたのだ。
现代已经传承了各种礼节和手册,但是只知道最基本的不想在宴会中丢脸的静子,作为款待客人的一方,决定预先把房间暖和起来。
室内が十分に暖かくなった頃、外に控える小姓が信長の到着を告げた。案内するよう命じて、静子は信長の到着を待った。
当室内足够温暖时,正等待着的小使告知了信长的到来。静子接到命令后便前往接待信长的到来。
やがて地面を踏みしめる足音が聞こえてきたため、耳をそばだてていると奇妙なことに気が付いた。
不久之后,听到了脚步声踏在地面上的声音,因此贴近耳朵倾听时,发现了奇怪的事情。
案内の小姓は途中で待機するため、足音は一人分になるはずだが、どう聞いても複数人の足音が聞こえるのだ。
由于引导仆人在半路停留,因此应该只听到一个人的脚步声,但无论如何听起来都像是多人的脚步声。
誰だろうと訝っていると、信長に続いて見た事の無い人物が茶室へと入ってきた。
当我们对那个人感到困惑时,一个从未见过的人进入了茶室,跟着信长。
外見から察するに五十路(いそじ)付近、武人特有の他を圧するような気配がないため、静子は商人ではないかと考えた。公家である可能性も考えたが、それならば信長が相手に応じた飾りつけを命じないのが不自然だ。
从外表看来,由于没有武士特有的压迫感,静子认为他可能是商人,大约五十岁左右。虽然公家的可能性也被考虑了,但如果是那样,信长不会命令他装饰得如此不自然。
公家に対して示威をするなら、多くの東山御物を所有する信長が使わない筈がない。信長に直接目通り出来る人物の顔は、静子も知悉(ちしつ)しているため、初見の人物の出自が判らず眉を顰(ひそ)めることとなる。
如果对公家示威的话,拥有许多东山御物的信长肯定会使用。因为静子知道能够直接见到信长的人的面容,所以对于没有见过的人并不知道其身份而皱起眉头。
「捨て置け」
"抛弃" (pāo qì)
静子の視線に気づいた信長が笑いながら命じた。信長が問題ないと断じた以上、静子としては異を唱える訳にもいかず、予定通り茶を点(た)て始める。
信长注意到静子的视线,笑着下令。既然信长认为没有问题,作为静子也不能表示异议,按照计划开始泡茶。
(……やりづらい)
(……难以执行)
静子としては招待客側の作法ならばある程度心得ているが、亭主側の作法等知り様もなく、歴史もののドラマなどで見たシーンを思い出し、見様見真似で茶を点てる。
作为静子,她对招待客人的规矩有一定的了解,但对主人的作法却毫无所知。她只能凭着在历史剧中看到的场景回忆起来,凭借模仿的方式泡茶。
床の前にある貴人畳にどっかりと胡坐をかいて座る信長から離れて、客畳に正座する人物は、静子の一挙手一投足を見逃すまいと観察していた。
坐在床前的贵族高高地盘着二郎腿,与信长保持一定距离,而那个坐在客厅正襟危坐的人,正注视着静子的每一个动作,不会漏过丝毫。
茶室を作りはしたものの、亭主側に座ることなど想定していない静子は、良く言えば我流で、悪く言えば稚拙な所作で茶を点てた。
尽管建了茶室,但静子从未想过会坐在主人的位置上。她自学了点茶艺,但动作不太娴熟。
亭主の動きを具(つぶさ)に観察せんとする姿勢から、客人は茶人かも知れないと思ったが、それにしては静子の腕前を知る信長が何も言わないのが腑に落ちない。
从客人试图仔细观察丈夫的动作的态度来看,他们可能认为他是茶人,但信长知道静子的技巧,没有言语表示让人不理解。
この場合、静子の不手際は主人である信長の不明に繋がり、恥をかくのは信長となるのだ。信長の意図と、客人の思惑双方が判然とせず、静子は一抹の不安を抱いていた。
在这种情况下,静子的失误将导致主人信长不知情,蒙羞的将是信长。由于信长的意图和客人的想法都不清晰,静子感到有些不安。
「……どうぞ」
"请……"
本来の作法であれば、まず茶菓子を勧め、客が食べ終わったのを見計らって茶を出すのだが、各自が好きなタイミングで食べた方が良いと思った静子は、両方を一遍に提供した。
按照传统礼仪,首先要提供茶点,等客人吃完后才倒茶。但静子认为每个人喜欢在不同的时间吃点心,便一次性将茶点和茶水一起提供了。
「ふむ、またしても新作か。見た目はともかく、味は良いな」
“哦,又是新的作品啊。虽然外表不算特别,但味道很好。”
信長は無作法を気にしていないのか、まず茶菓子を平らげ、次いで薄茶に手を伸ばした。そしてまたもや静子が暴挙に出る。
信长似乎并不在意无礼的行为,首先品尝了点心,接着又向薄茶伸出手。随后静子再度出了无法无天的行为。
別の茶碗で点てた茶を、またも茶菓子と共に客人へと勧めた。
用另一只茶碗泡好的茶,再次配上茶点,向客人献上。
余りにも型破りな振る舞いに度肝を抜かれた客人だが、頂戴しますと一礼し、信長に倣って茶菓子と薄茶を口にする。
这位客人被其独特的行为吓了一跳,但还是鞠躬行礼,效仿信长,品尝了茶点和淡茶。
僅かに目を見開き、次いで床の間に飾られた花入れへと目線をやった。
只是微微睁开眼睛,接着目光落在挂在壁龛上的花瓶上。
「なるほど……これは射干玉(ぬばたま)を模しておられるのですね。秋の夜長を思わせる艶めいた黒、茶菓子で季節を演出しつつ味わいも一級品。実に結構なお点前(てまえ)でした」
“原来如此……这是以射干玉为原型制作的呀。它散发出诱人的黑色,让人想起秋天的长夜,搭配茶点进一步营造出季节感,味道也是一流的。这真是一场美妙的茶道表演。”
「は、はい。お褒めに与(あずか)り恐縮です」
“是、是的。受到夸奖,我感到非常荣幸。”
そのような意図を一切していなかった静子は、褒め殺し状態に困惑していた。
没有任何这样的意图的静子,感到很困惑,因为她被夸赞得太过火了。
そんな静子の様子を楽しげに眺めながら、信長は客人の素性を明かした。
当观察着静子快乐的样子时,信长透露了客人的身份。
「良かったな、静子。どうやら宗易(そうえき)のお眼鏡に適ったようだぞ。世辞など言わぬ宗易が、手放しで褒めるなど珍しいこともあるものよ」
“太好了,静子。看来你很合宗易的口味。宗易可不是会随便恭维的人,他的直言不讳让他这样夸奖着实难得。”
「宗……易……? あっ!」
"宗......易......?啊!" 翻译为简体中文:「宗......易......?啊!」
目の前の人物が誰かを理解した静子は、思わず自分が知る名を言いかけ、慌てて言葉を飲み込んだ。
当静子理解了眼前的陌生人是谁时,她不由自主地快要说出自己所知道的名字,但又紧接着慌忙地咽下了这个词。
千宗易、現代では千利休の名で知られる、茶湯の天下三宗匠の一人であった。
千宗易,现代以千利休的名字为人所知,他是茶道天下三宗匠之一。
信長が堺を直轄領とした折、今井(いまい) 宗久(そうきゅう)、津田(つだ) 宗及(そうぎゅう)らとともに茶頭(さどう)として雇われていた。
信长将泽直辖领土定于堺市时,今井宗久、津田宗及等人被雇用作为茶头。
余談だが後世に伝わる利休の名を名乗っていた時期は短い。彼はその人生の殆どを法名である宗易として活動していた。
顺便说一句,利休自命不凡的时期并不长。他在生活中的大部分时间都以法名宗易为活动名称。
利休の名は1585年、秀吉が関白就任の返礼にと禁裏茶会を催そうと考えたことに端を発している。
利休这个名字源自于1585年,秀吉在就任关白并想要举办禁宫茶会作为回礼的想法。
その茶会の亭主を務める宗易の身分が町人であったため、彼が宮中へ参内(さんだい)出来るよう、正親町天皇が『利休』という居士号を宗易に与えたことにより、名実ともに天下一の茶人として名を馳せることとなる。
由于主持该茶会的宗易身份为城镇居民,因此正近街天皇赐予宗易“利休”出家者称号,使他能够在宫廷中参加仪式,从而成为名副其实的举世闻名的茶人。
「宗易は華美を好まず、贅を凝らした茶室や東山御物などの名物が尊ばれる茶会に倦(う)んでおった。ゆえに、わしが知る限り最もみすぼ……質素な茶室である、ここに連れてきたのだ」
「宗易不喜欢华美,对于那些注重豪华的茶室和东山御物等名物的茶会感到疲倦。因此,据我所知,这里是最朴素的茶室,我带你来了这里。"
「……それならば、前もって教えて頂ければ——」
“如果那样的话,如果您提前告诉我——”
「教えれば貴様は場を取り繕おうとするだろうが、ありのままの貴様を宗易に見せることが肝要なのだ」
“就算我告诉你,你也会想要掩饰现场的情况,但是展示你真实的自我才是最重要的。”
後に茶聖とも呼ばれる茶道の大家を前にして、稚拙な点前を晒した静子の抗議を信長は一言で切って捨てた。
在被後來稱為茶聖的茶道大師面前展現了稚拙的點前之後,靜子抗議時信長輕描淡寫地切斷了她的話。
信長の言う通り、事前に知らされていれば、静子は持てる力を総動員してその場を取り繕ったであろう。
如果静子事先被通知,按照信長所说,她会全力以赴地掩饰住场面。
そうして取り繕われた、その場限りの茶会では意味がないと信長は考えたのだ。
那样掩饰的、只是摆设的茶会在信长看来毫无意义。
「どうじゃ、宗易。近頃持て囃される流行とは真逆をゆくこの茶会、遠慮は要らぬ。思うところを申してみよ」
“怎么样,宗易。这次茶会与最近流行的相反,不必拘束,尽管表达自己的想法。”
「……そうですね。茶の湯の作法としては型破りも甚だしく、一服の茶を如何に美味しく味わって貰うかという点では、茶菓子と抹茶を一遍に出してしまっては台無しです」
“……是的。以茶道礼仪而言,这样做十分不合规矩,而且若将茶点和抹茶一起端出来,那么如何享受一杯美味的茶也会变得毫无意义。”
「は、はい。お恥ずかしい限りです」
“是,是的。真是让人不好意思。”
信長をして一目置かざるを得ない宗易から見れば、静子の点前は児戯にも等しかった。しかし、それは作法に限った話であり、客を如何にもてなすかという本質は押さえており、評価すべきところも多かった。
对于被信长钦点的宗易来说,静子的点茶仪式就像孩子在玩一样。但这仅仅是在仪式规范上的讲究,静子对待客人的态度和服务精神却无懈可击,值得我们大力称赞。
「そう畏(かしこ)まられることはありません。あくまで当世の『茶の湯』の作法に照らした際の話です。私は茶室ともども、この茶会を素晴らしく思います」
“不必如此谦虚。这只是按照当今‘茶道’的礼仪来说的。我对茶室和这个茶会都非常赞赏。”
「は、はあ……」
"呃,呃……"
「例えば床の間の花入れ。名物という訳でもなく、ありふれた陶器にこれまたありふれた檜扇(ひおうぎ)を生けてあるだけ。一見無造作に生けてあるように思えて、その実(じつ)、葉と花と実という見頃の異なる秋の時間を見事に再現されている。そしてその秋の移ろいという雄大さに比べて、ややもすれば素っ気ない程の器。そこに不足の美、侘びがあるのでしょう」
例如,壁龛里的花瓶。并不是名物,只是摆着一个普普通通的陶器,插着一支同样平凡的檜扇。初看似乎是随意的插放,实际上却惟妙惟肖地再现了秋天不同时间里叶子、花朵和果实的美丽交错。但与这份壮美相比,器物稍显平淡甚至有些冷漠。这其中可能体现的是一种不足之美,是一种寂寞之感。
「……恐れ入ります」
"抱歉打扰了"
まるで意図していないところを大仰に褒められ、静子は黙してお茶を濁すことにした。
就在静子完全没有想到的地方受到了过分的赞美,她选择沉默不语。
「実に良いものを見せて頂きました。貴女の茶室を見て、私は己の目指す先が見えた気がします」
“我真的看到了非常好的东西。看到了你的茶室,我感觉看清了我自己的追求方向。”
そう言って宗易はずっと浮かべていた渋面を緩め、初めて笑みを浮かべた。
这时宗易终于舒展起脸上一直挂着的冷漠,露出了笑容。
「私は近頃の茶の湯、とりわけ唐物の茶器を偏重する流れに不満を抱いておりました。されど、不満を唱えるだけ(・・・・・)で、新たな道を示せておりませなんだ。不平不満を口にするなら誰にでも出来ましょう、こんな茶の湯の方が良いと思いませぬかと、己が良いと信ずるものを示せずして他人の同意など得られるはずがございません」
"最近我对现代茶道特别是偏重唐代茶具的潮流感到不满。但仅仅抱怨而不能指引新的道路。如果只是抱怨,任何人都可以做到,展示自己相信的东西而不能得到他人的认同是不可能的。难道您不认为这种茶道更好吗?"
二人のやり取りを黙って見守っていた信長は、薄く笑みを浮かべると一言問うた。
观看两人的对话,默默无语的信长面带微笑,问了一句话。
「どうじゃ、静子は面白かろう? 少しは刺激になったか?」
“怎么样,静子有趣吗?有没有被激励?”
「はい、図らずして初心へ立ち返ることが出来ました。お陰で、己が求める茶の湯が間違っていなかったと確信できました」
“是的,我无意中回到了我的初心。感谢这一次的经历,我确认了自己所追寻的茶道没有错。”
「極限まで無駄を排し、虚飾を取り払う、枯れた幽玄の美とやらか」
将浪费减至极限,摒弃虚浮,呈现枯萎而深邃的美。
「これ以上何も削れないというところまで削って、簡素の中に趣を見出すのです。号して『侘び茶』でしょうか」
将其削减至无法再削减的程度,从简约之中寻找乐趣。这被称作“侘寂茶”。
「豪華絢爛を旨とする、我ら国人の茶の湯とは対照的よな。それもまた良し」
「追求奢华华丽并非我们国人茶道的追求,这也是一种好的方式。」
侘び茶という言葉が気に入ったのか、宗易は瞑目して何度も頷いていた。彼の頭の中では、侘び茶の方向性が形作られている。
宗易闭上眼睛,多次点头,似乎喜欢上了“侘寂茶”这个词汇。他的脑海中,侘寂茶的方向正在形成。
やがて再び目を開き、宗易は居住まいを正すと静子に向き直った。
不久后,宗易再次睁开眼睛,将目光转向静子,整理了一下居住的位置。
「静子様、一つお願いがございます」
"静子小姐,我有一个请求" translated to Simplified Chinese is: "靜子小姐,我有一个请求"
「お願い、ですか?」
“可以拜托一下吗?”
「不躾ながら、あの花入れを譲っては頂けぬでしょうか?」
"不好意思,能不能借过那个花瓶呢?"
宗易の言葉が意味するところを理解し、静子は花入れへと目をやった。これと言って目を惹くところのない、何の変哲もない陶製の花入れだ。
理解了宗易的话所代表的意思后,静子把目光转向花瓶。这只陶制花瓶并没有什么独特之处,也没有什么特别吸引人的地方。
若い職人の習作なのか、市場で一つだけ売れ残っていたのを静子が買い求めたものであった。
这似乎是年轻的工匠的练习作品,静子买下了在市场上唯一卖剩的那个。
ろくろすら使っていないのか、形も均一でなく歪んでおり、色合いも野暮ったい。
没有使用转轮器,形状不均匀并且扭曲,颜色也很土气。
「今日という日を忘れぬよう、道に迷った際に初心へ立ち戻る標(しるべ)として、どうかご一考頂けませぬか? 私に差し出せる対価など静子様からすれば微々たるもの、されど何であれ差し出すつもりでおりまする」
"您能否考虑将其作为回到初心的指南,在迷路时不忘今天这一天?尽管我能提供给静子小姐的代价微不足道,但我仍然打算提供任何可能的代价。"
「あ、いえ。そう大した価値のあるものではありません。お気に召したのであれば、どうぞお持ちください。対価は必要ありません」
「啊,不,这并不是什么特别有价值的东西。如果您喜欢的话,请随意带走。无需支付任何费用。」
「ありがたき幸せ。この御恩はいずれ」
"感激的幸福。这份恩情终将会有回报。"
まさか市場で十円(織田領内の新貨幣の単位、現代価格に換算すると数百円程度)で買い求めたものを欲しがる人がいるとは思わず、咄嗟に返答に窮してしまったのだった。
想不到会有人渴望以十元(在织田领内的新货币单位中相当于几百元)的价格在市场上购买的商品,我当时一时回答不上来。
静子は屋外に声を掛け、人を呼んで花入れを包ませると、宗易に手渡した。
静子在户外喊人拿花瓶套上,然后把它递给宗易。
「私の目指す茶の湯が形になれば、真っ先に静子様をお招き致します」
"如果我的茶道理念能够实现,我会第一个邀请静子女士前来品茶。"
「はい、楽しみにお待ちしております」
当然,我很期待。
宗易は丁寧に暇を告げ、茶室を後にした。一方の信長は、退出するつもりがさらさらないのか、貴人畳に胡坐をかいたまま、菓子盆の中身を摘まんでいた。
宗易礼貌地道别了闲暇,离开了茶室。另一方面,信长似乎没有打算退出,一直坐在贵人绒垫上捏着点心盘里的点心。
対する宗易は侘び茶のことで頭が一杯なのか、信長が残っていることにも気を留めず、足早に立ち去って行った。
对宗易来说,他头脑中充满了侘寂茶,完全没有注意到信长还在场,匆匆离去了。
「……侘び茶か。どうにも辛気臭くて敵わぬな。派手であれば良いとは言わぬが、華が無ければ茶の味も鈍ろう」
"哎呀,这茶真是凄凉啊。太过酸涩刺鼻,难以与之抗衡。虽不求华丽,却也要有点儿气质,否则连茶味儿都显得索然无味。"
宗易が立ち去り、暫し時を置いた頃。信長は静子が淹れた焙じ茶を湯呑で飲みながら、言葉を発した。
宗易离开一段时间后,信长拿着静子泡的焙茶,喝着,说话了。
「上様の好まれる茶会とは対極に位置するものなのでしょう」
「上流人喜欢的茶会与其完全相反」。
「……まあ良い。宗易が侘びに傾倒するならば、こちらとしても都合が良い」
"嗯……好吧。如果宗易倾心于侘寂,那我们也可以顺心些。"
「それはどういった……」
那是什么意思呢……
問いの言葉を発する中で、静子は理解に至った。宗易が目指す侘び茶は信長が好む『唐物数寄(からものすき)』と真逆の方向性を持つ。
在提问的过程中,静子达到了理解。宗易追求的装饰简洁的茶道与信长喜欢的“唐物数寄”完全相反。
名物(唐物の茶器)を必要としない宗易の考えが浸透すれば、それを自分が手に入れ易くなると考えているのだろう。何故か、信長は侘び茶が主流になれないと確信しているようだが、歴史を知る静子には一抹の不安が拭えないでいた。
如果宗易的想法(不需要名物(唐物的茶器))能够普及,那么她认为自己可以更容易地得到它。不知道为什么,信长似乎确信Wabi茶无法成为主流,但对于知道历史的静子来说,有些不安。
「貴様が気にせずとも良い事だ。それよりも大和行きの支度は出来ておろうな?」
「你不必在意这件事。你已经准备好前往大和吗?」
「は、はい」
"是,是的"
「ならば良し。京で数日滞在し、その後大和へと向かう。しかと役目を果たしてみせよ」
"那就好。在京城停留数日,然后前往大和。务必完成你的使命。"
信長はそれだけ告げると、静子の返答を待たずに茶室を後にした。
信长一说完,没有等待静子的回答,就离开了茶室。
宗易との邂逅(かいこう)からこちら、静子は忙殺されていた。静子は予(かね)てより正親町天皇へ正倉院の宝物閲覧の許可を求める陳情を出していた。
从与宗易的邂逅开始,静子就忙得不可开交。她自以为年来一直在向正仁天皇提出陈情,请求能够观看正仓院的宝物。
それが原因となって朝廷では騒動が巻き起こっていたのだ。発端は織田家に取り入ろうと考えた公家が結託し、帝の意向を無視して静子の閲覧を許可してしまったことにある。
这就是引发朝廷骚动的原因。最初由于准备追随織田家的官僚密谋,他们无视天皇的意愿,允许静子参阅(秘闻)。
事後承諾として知らされた帝が立腹し、公家達の越権行為を責めたのだが、公家達は『織田殿の引き立てで、公家一同が一丸となって政務に取り組むべき時に、形式に拘って機を逃すのは愚か』と、帝への不満を日記に残す状態であった。
事后承诺被知晓后,天皇十分生气,指责了官员们的越权行为。但是,官员们却在日记中记录下对天皇的不满,认为在受到织田家的支持下,所有官员都应该团结一致处理政务,而不应因形式问题而错失机会。
何故、公家と帝が争っているのかと言えば、今年が日照り続きで干ばつの被害が多かったためである。
为什么公家和天子在争议呢?因为今年持续干旱,干旱造成了很多灾害。
尾張・美濃など信長直轄の穀倉地帯は、常に干ばつ対策を取っており、設備も充実していたがために影響は軽微であったが、他国に於いてはその限りではなかった。
尾张、美濃等信长直辖的谷仓地带,一直采取干旱对策,设施也很充实,因此影响很小,但其他国家则不是这样。
繰り返し雨乞いの儀式が行われ、陰陽師を招いて占筮(せんぜい)を執り行わせた。結果は稀に見る凶事となり、朝廷は上を下への大騒動となった。
反复进行祈雨仪式,并邀请阴阳师进行占卜。结果是罕见的不祥之事,朝廷陷入了一片混乱。
現代人ならば「何を非科学的な」と一笑に付すところだが、この時代に於ける易占(えきせん)の信憑性(しんぴょうせい)は高く、各地で加持(かじ)祈祷(きとう)が盛んに行われることとなる。
现代人会对此一笑置之,认为它不科学。但在这个时代中,易占的可信度很高,各个地方都盛行着加持祈祷的活动。
そしてこれは大陸由来の考え方だが、天下が大きく乱れる時は、それを治める天子の不徳を、天が咎(とが)めているとする天人相関説が広く信じられていた。
这是大陆起源的思想,当天下大乱时,广泛认为是由于治理天下的天子品德不佳,天神因此惩罚了他。
それ故に大規模な干ばつが起きたとなれば、帝の不徳を天が咎めているとして、痛烈な天皇批判が相次ぎ、帝の命に従わない者も出てくるのである。
因此,如果发生大规模干旱,就会被认为是上天在惩罚天皇的不德行,引发强烈批评,并有些人会不听天命。
余談になるが、史実では信長が正親町天皇に譲位を迫ったという説がある(真逆に譲位を諫(いさ)めたという説もある)。それが折しも禁中怪異や、大災害で天下が大いに乱れた年のことなのだ。
顺带一提,在历史上有一种说法认为信长曾经迫使正親町天皇退位(也有相反的说法称其劝阻了退位),而这正好是发生在禁中怪异和天灾频发,天下大乱的那一年。
つまり信長は時の帝に無礼を働いた訳ではなく、天変地異や大災害を治めるためにも譲位してくださいと、当時の価値観としては当然のことを願い出ただけであった。
换句话说,信长并没有对时代的皇帝不敬,他只是依据当时的价值观认为应该让位,以治理自然灾害和大灾难。
因みに正親町天皇は信長の譲位願いを退け、彼が本能寺の変にて横死する最後まで譲位を拒み続けた。
顺便提一下,正仓院天皇拒绝了信长的禅位请求,一直到他在本能寺之变中横死也一直拒绝禅位。
こうした騒動も相俟(あいま)って、正式に正倉院への立ち入り許可が下りたのは、信長が京へと着いて数日後という有様だった。
随着这些骚动的发生,正式的进入正仓院许可证下发的时间是在信长抵达京都几天之后。
勿論信長が座して待っている間、静子は養父である前久(さきひさ)に働きかけ、朝廷内の調停を図って貰い、何とか今日という日を迎えたという状況であった。
当然,在信长等待的时候,静子与养父前久进行交涉,争取朝廷内部的调解,最终成功迎来了今天这个日子。
面倒な話だと思った信長だが、下心有りとは言え自分に便宜を図ろうとしてくれたものを無下にする訳にもいかず、騒動の起因となった事を詫び、双方を労(ねぎら)うにとどめた。
信长一开始认为这是麻烦的事,但是他不想无情地拒绝别人为他创造的机会,也不想因此引发麻烦。他向那个人道歉并取得了宽恕。双方都表示感激。
その後は何事もなく大和入りし、東大寺へと到着した。信長はそこで全軍に対して『無法の厳禁』を言い渡した。
随后无事件地进入大和并抵达东大寺。信长在那里下令全军“禁止行为不当”。
この禁を破れば、破った本人は勿論のこと、隊の仲間や直属の上司に至るまで連座で責を問うという、厳しいものであった。
如果违反了这个规定,不仅是违反者本人会受处罚,而且部队的同伴和直属上司也会因连坐而受到责罚。这是一项严厉的法规。
更には東大寺の境内に陣を敷くことも禁じ、境内外にて陣を敷く際にも火の扱いに至るまで細かく禁令を課した。
进一步禁止在东大寺境内设置阵地,设置阵地时也对火源的处理等细节制定了禁令。
その上、信長の帰りを待つ間、ただ待機していれば良いとするのではなく、周辺の治安維持に最大限の協力をせよと申し付けた。
此外,在等待信长回来的过程中,你们不应只是静静地等待,而应尽最大努力协助维持周边地区的治安。
これらの指示を出し終えると、信長は最低限の供だけを連れて東大寺を訪(おとな)った。
完成这些指示后,信长只携带最少量的供品前往东大寺。
その際にも強権を振りかざす訳でもなく、形式通りの手順を踏み正倉院へ立ち入り、黄熟香(おうじゅくこう)(蘭奢待(らんじゃたい)という名前を持つ)を閲覧したい旨を願い出た。
那时并非行使强权,而是按照正常程序前往正仓院,并请求查看名为黄熟香(别名兰奢待)的物品。
また、自身が宝物庫に踏み入るのではなく、蘭奢待のみを持ち出して貰い、大僧正立会の許、閲覧及び二か所を削り取るとした。
另外,他不是自己进入宝库,而是请求带出兰赏待,经过大僧正立会后削掉其中两个地方来观赏。
信長と言えば傍若無人の権化であり、神も仏も畏れぬ蛮人という先入観を持っていた東大寺の僧たちは、実際の信長を前にして、礼儀正しく堂々たる振る舞いに感心せざるを得なかった。
所以说信长,东大寺的和尚们预先认知他是傍若无人的化身,是一位不惧神佛的野蛮人。然而,在实际面前,和尚们却不得不佩服他的礼貌和从容不迫的举止。
信長が大和入りした最大の目的は、大和を支配下に置いたことを示すためであり、それに異を唱えなかった東大寺や春日大社に対しては、終始礼儀正しく振舞った。
信长入侵大和的最大目的是为了表明已经将大和置于支配下,并且对于没有反对的东大寺和春日大社,他一直表现得很有礼貌。
対して大和を治める為政者に関しては、再度自分の許へ赴いて支配下に収まることを宣言させた。信長の到着を知りつつも、挨拶が遅れている、もしくは音沙汰の無い者へは、小規模の軍を率いた使節を遣わせた。
针对治理大和的政治家,宣布再次前往他们的领土并宣誓屈服。对于没有问候或音讯的人,派遣了一个率领小规模军队的使节,尽管已经知道了信长的到来。
また挨拶に赴いた者にも、事前に収集していた情報と本人が述べた情報を照らし合わせ、その差異を次々に指摘して見せた。
对于前来问候的人,我们将预先收集到的信息和本人提供的信息进行比对,逐一指出其差异。
次いで隠し事をすれば為にならぬこと、領地運営に改善の兆しが見られぬ場合、その地位をはく奪する旨を伝えた。
接下来告诉他,隐瞒事情是无益的,如果领地管理没有改善的迹象,将被剥夺其地位。
反骨精神溢れる大和の豪族たちが、信長に絶対服従を誓うはずがないが、現状逆らっても勝ち目が見えない以上、為政者たちは信長の勘気を恐れて、我先にと参上することとなる。
反叛精神溢出的大和豪族们不可能向信长绝对服从,但由于反抗现状没有胜算,治理者们会因害怕招惹信长的怒火而争先恐后地前来朝见。
真っ先に挨拶に赴いたのは、他ならぬ松永久秀であった。他の有力者たちは、信長が陣を敷いて以降に訪れたのに対し、松永は信長が京を出た頃から準備を整え、付近で待機しており、信長の到着を平伏して出迎えた。
首先拜见信长的不是别人,正是松永久秀。其他有势力的人们是在信长布阵以后才来拜访的,而松永则是从信长离开京城之际就开始准备,并在附近等待,平伏迎接了信长的到来。
「出迎え大儀であった。久しいな松永、変わり無きようだが、息災であったか?」
「迎接你是一件大事。松永,好久不见了,看起来还是一如既往,身体健康吗?」
「は、勿体なきお言葉。領民ともども健やかに過ごしておりまする」
“那,您太客气了。我们与领民一同身体健康地生活着。”翻译成简体中文。
「城こそ召し上げたものの、腐らず忠勤すれば、いずれ日の目も見よう。さて、話は変わるが朝廷より任された芸事保護の一環で、名物の記録を取っているのは知っておろう? 其の方の持つ平蜘蛛(ひらぐも)も天下に名高き逸品と聞く、協力する気になればいつでも申せ、決して悪いようにはせぬ」
“城虽已被招募,但只要忠实尽职,不腐不败,终有一天会获得认可。另外,与宫廷相对应,为保护艺术活动的一部分,您是否知道正在记录名物的记录?据说持有平蜘蛛的人也是天下闻名的杰作,如果你愿意合作,随时可以告诉我,我决不会有任何不良动机。”
「は、ははっ!」
“哈哈!”
「ふむ、実に堅実に励んでおるようじゃ。唯一の懸念は筒井との仲か、くれぐれも軽挙妄動を慎むように、下がって良いぞ」
“嗯,你确实很努力。唯一的担忧是与筒井的关系,请务必谨慎行事,不要轻举妄动,可以退缩。”
松永は地面に額が着くほどに平伏していた。信長は松永の気性を知るが故に、無理強いはしないものの、折に触れて平蜘蛛を差し出すよう暗に要求していた。
松永俯伏在地上,额头触到了地面。信长知道松永的脾气,不会强求他,但是有时会暗示他提供平蜘蛛。
とは言え、平蜘蛛を差し出して、無事に返される保証はない。信長が名物狩りで召し上げた名物は数知れず、それが持ち主に返されたという話はとんと耳にしない。
然而,即使提供了平行蛛,也不能保证它们会被平安地归还。信长收集的名物不计其数,很少听说归还给所有者的故事。
面と向かって拒絶を口にすれば、朝敵として処罰されるのは確実であり、皮肉にも平蜘蛛の存在が松永の地位を守っているという側面もあった。
如果当面拒绝,就会被视为敌人,必然会受到惩罚。具有讽刺意味的是,平蜘蛛的存在也起到了保护松永地位的作用。
これは松永に限った話ではないが、朝敵となれば一族郎党皆殺しの根切りが待っている。松永個人としては平蜘蛛を手放したくなどない。
这不是只限于松永,一旦成为敌人,整个家族都会遭到灭顶之灾。松永个人并不想放弃持有平蜘蛛。
しかし、この時代に於いて個人の感情で、一族を破滅に追いやる選択など出来ようはずもなかった。松永としては最も効果的なタイミングで平蜘蛛を手放さねばならないという、難しいかじ取りを迫られることとなる。
然而在这个时代,个人感情并不能让整个家族走向毁灭。作为松永家的一员,他不得不在最为关键的时刻放弃平蜘蛛,这需要做出非常困难的选择。
「ひぃぃっ!!」
"ひぃぃっ!!" translates to "嘿啊啊啊!!" in Simplified Chinese.
「人の顔を見るなり悲鳴を上げるとは、礼がなっておらぬのではないか?」
“看到人脸立刻尖叫,这算得上是没有礼貌吧?”
信長に拝謁したのち、その足で静子の許へも向かおうとした松永だったが、建物の角を曲がったその先で彼が最も会いたくなかった人物と直面した。
信长拜谒后,松永想去拜访静子,但当他拐过建筑物角落时,他迎面遇到了他最不想见到的人。
生気を感じさせぬ昏(くら)い視線を受け、松永は首筋に刃を押し当てられたような、生きた心地のしない状況にあった。
面对那无生气的阴暗目光,松永仿佛感受到锋刃挤压着他的颈部,进入了一种毫无生气的状态。
「静子へも挨拶に向かう気か?」
“你打算把问候送给静子吗?”
「……織田様の信任篤く、朝廷より芸事保護を任される御仁。叶うならばお目通りを願いたいと思うのは、同じ主君を仰ぐ臣下としては当然かと」
「...... 织田大人信任甚深,被朝廷委托保护艺事的人才。作为仰慕同一主君的臣下,如果有机会能得到面见,是理所当然的想法」。
「ほほう、それは殊勝な心掛けよ。『所詮は世間知らずの小娘よ、如何様にも手玉に取れる』という言葉が聞こえた気がしたのだが、わしの気のせいだったのであろうな?」
“哦,那是一种值得称赞的态度。听起来好像有人说过:“那些世俗无知的小姑娘,毫无反抗之力”,我想这只是我的臆想罢了。”
足満の言葉に松永の表情が凍り付く。脂汗を垂らしながらも松永は必死に考えを巡らせる。先の言葉も決して大きな声で呟いていた訳ではない、すぐ隣に侍(はべ)っていたところで聞き取れたかすら怪しい。
足满的话让松永的表情变得僵硬。尽管满头是汗,但松永还在拼命地思考。即使之前的话也不是大声说出来的,只能在旁边的侍者听到。
それだというにも関わらず、目の前の男は仔細に繰り返して見せた。本当にあの世から蘇(よみがえ)り、悪鬼羅刹(らせつ)の力を得ているのではないかと、背筋が寒くなった。
即便如此,眼前的男子仔细地一遍遍重复了这话。我感到脊背一阵发凉,他真的是从阴间复活,获得了恶鬼罗刹的力量吗?
「のう、松永。わしは、貴様が何か思い違いをしているのではないかと考えておるのだ。貴様が今も命を繋いでおられるのは、貴様の才覚によるものと思ってはおるまいな?」
“松永,我认为你可能有什么误解。你现在还能继续活着,不是因为你的才智吗?”
「い、いえ……決してそのようなことは……」
“不,绝对不会发生那样的事情……”
「……まあ良い。人の心までは縛れぬもの。しかしな、松永。静子に、ひいては織田殿に弓引くときは心せよ。その時、貴様は本当の地獄を思い知ることになろう。簡単に死んで逃げられるなどと思うなよ? わしがそうした(・・・・)ように、何度でもあの世から引き戻し、殺してくれと懇願しても尚、責め続けてくれよう」
“嗯……算了。人的心是无法被束缚的。但是,松永啊。在向静子和织田大人双方射箭的时候一定要谨慎。那时,你将会真正地感受到地狱的滋味。不要以为可以轻易地死去逃避。就像我一样,无论多少次,都会被从那个世界拉回到这个世界。即使我恳求让我杀了自己,也不会放过,一定会持续地折磨着。”
「ひ!? ひぃぃぃっ!!」
"啊!?啊啊啊啊啊!!"
正に足満は地獄から黄泉返った悪鬼であった。尋常ではないと疑ってはいたが、遂に本性を現した。こいつの手に掛かれば、死して尚、安寧は得られぬという。
正是足满是从地狱里黄泉归来的恶鬼。我一直怀疑他很不寻常,但他最终还是暴露了本性。传说如果落到他手里,即使死了也无法得到安宁。
足満の言葉をそう受け取った松永は、顔面を蒼白に染め上げ、這うようにして一目散に駆けだしていった。冷ややかな目で松永の背を見送った足満は、踵(きびす)を返すと静子の陣へと戻った。
听到足满的话,松永脸色煞白,爬着一路狂奔而去。足满冷漠地看着松永的背影,然后转身回到静子的阵地。
松永にとっての不運は、既に静子へ面会の先触れを出してしまった事にあった。逃げ出した相手が待ち構える場所へ、のこのこと赴かねばならない。
对松永而言,不幸之处在于他已经提前告知静子面会的消息。他必须前往逃跑者设伏的地点,这是他无法避免的。
更に悪運は重なり、何故か(・・・)才蔵が外回りの警戒を受け持ったため、静子の陣内には足満の配下の兵が警護を固めていた。
进一步倒霉的是,由于(...)才藏负责外围警戒,因此静子的营地被足满的手下们加强了警卫。
「尾張の名君と名高き静子様にお目通りが叶い、大変喜ばしく思っておりまする。尾張と比べて鄙(ひな)びた大和ではございますが、我ら地の者には土地鑑(とちかん)(その地域に対する地理や、建物の配置、生活習慣などが身についている様。『勘』は誤用)が御座います。何なりと御用を申し付け下さい」
"我非常高兴能见到尾张的名君-静子殿下。与尾张相比,这里虽是土里土气的大和,但对我们当地人来说,还是熟悉的。有什么事请您尽管吩咐。"
松永は四方から投げ掛けられる、文字通り矢のような視線に耐えつつ、静子に失礼のないよう必要以上に遜(へりくだ)った挨拶を述べた。
松永承受着从四面八方投来的直截了当的目光,就像承受着箭矢一般,同时谦恭地向静子行了无可挑剔的问候,以免做出任何失礼的举动。
「私のような若輩者にお気遣い感謝致します。我ら大和には不案内ゆえ、お力をお借りするときもありましょう。その折にはよろしくお頼み申します」
"对于像我这样的年轻人的关心,表示感激。我们大和有时也需要您的帮助,因为我们不熟悉情况。那个时候,请多多关照。"
「はっ! 微力ながら全力を尽くす所存でございます」
“哈!我虽微薄,但定当竭尽全力!”
松永は、先ほどから激しく痛み始めた腹を手で押さえ、足を引きずるようにして静子の陣から遠ざかっていた。
松永开始用手按着越来越剧烈的疼痛的肚子,脚步无力地远离静子。
噂に聞こえた静子との初の目通りであったが、内外に多くの敵を抱える松永は一目でその異質さに気が付いた。多くの兵を抱える程に、皆の思惑は千々に乱れ、一つの目標へと邁進することは難しい。
听说静子那天是第一次相遇,但身陷内外多重敌人的松永一眼就察觉到她的不同。拥有众多士兵只会使人们的心思更加纷乱,很难一起朝着同一个目标前进。
しかしながら、静子の陣を守っている兵たちは、皆一様に心から静子に心酔し、静子のためとあらば、その命を投げ出す覚悟が窺えた。
然而,守护静子的士兵们都对她心悦诚服,只要是为了静子,每个人都愿意舍命献身。
宗教的な狂信にも通じる気配を感じ取り、松永は足満と並んで静子が恐ろしくて堪らなくなった。
感受到了宗教狂热的气息,松永与足满并排站立,静子变得令人不寒而栗。
(天はわしを見放した……。己を殺し、只管(ひたすら)に松永家存続だけを願おう)
(上天已经放弃了我……为了维持松永家族的存在而奉献自己,只愿意执着地追求这个目标。)
かつて暗殺した主君は地獄より悪鬼となって蘇った。更にその悪鬼が守る女は、あろうことか国中の男を惑わす傾国の悪女であった。
曾经暗杀过的主君已化身为地狱中的恶鬼再次苏醒。而且,由这个恶鬼守护的女子竟是一个迷惑全国男人的倾国之恶女。
野心を殺し、己を殺し、ただただ愚直に統治に励めば、松永家は見逃されるということが分かった事だけが収穫であった。
杀死野心,杀死自己,专注于刻苦治理,这是我们所得到的唯一的成果,即我们可以被放过。
捨て鉢になって、織田が欲して止まぬ平蜘蛛もろともあの世に逃げ果(おお)せ、意趣返しをしてやろうかとも考えたが、足満の言葉によれば、それすら叶わぬことらしい。
即使我想报复織田家,一直追求不懈的平蜘蛛也已逃离人世,但根据足满的话似乎即使如此也无法实现。
松永は己の不運を嘆き、生まれてくる時代を間違ったと後悔した。
松永哀叹自己的不幸,后悔出生在错误的时代。
すっかり憔悴しきった松永の姿を目の当たりにした大和の豪族たちは、比較的穏当な統治をしていると評判の松永をしてあの責められよう、どのような仕打ちが待っているのかと戦々恐々として謁見に臨むことになる。
目睹了已经彻底痛苦不堪的松永的模样,大和的豪族们心想,就连听说治理相对温和的松永也受到了责备,那么会受到什么样的待遇呢?他们战战兢兢地前去拜访。
結果的に信長は、意図せずして労せず大和の有力者を屈服させることができ、その成果に大いに満足していた。
结果,信长无意中成功地迫使了大和地区的有力人物屈服,对此他感到非常满意。
日を改めて再び訪れた東大寺では、大僧正の立会の許、蘭奢待を二か所削りとった。一つは自分の物とし、もう一つは正親町天皇へと贈ることとなる。
在改期再次访问东大寺时,经过大僧正的会见,削掉了两个兰奢待。 其中一个是自己的,另一个则被赠送给了正对町天皇。
その折に信長は大僧正に朝廷より請け負った芸事保護の任を説明し、静子に便宜を図ってくれるよう願い出た。自分の名に懸けて無法はさせぬと誓い、静子の人柄についても朝廷直々に任を与えるほどであると請け負った。
这时信长向大僧正解释了他从朝廷接到的保护艺术的任务,并请求为静子提供方便。他发誓绝不让不法行为发生,并承诺静子的人品得到了朝廷的高度赞赏。
政治的な判断を要する事だけに、その場での返答は求めず、信長は終始上機嫌で東大寺を後にした。続いて訪れた春日大社でも、同様の姿勢を貫き、静子に関する理解を求めることに腐心していた。
因为需要进行政治判断,所以信长在参拜东大寺时并未立即回答,一直保持着愉悦的心情离开了那里。接下来,他前往春日大社,同样坚持着这种态度,竭力寻求对静子的理解。