バースディ・イブ

バースディ・イブ
払いのけられて尻餅を付いたヴォルフラムは、きつくなった目付きでゆっくりと辺りを眺める婚約者の名を「ユ、ユーリ?」と、どもりながら呼んだ。
「……プーとやら」
普段よりも数段凛々しくなった有利はいつもよりも格段に威圧感がある。これは上様の出現なのか? そこまでぼくと決着をつけるのが嫌なのか? と、またしても拒絶されたことに眉を顰めたヴォルフラムは、「なんだ?」と上様が相手だというのにつっけんどんな返事を返した。
だがそんな臣下に上様は怒るどころか、闇色の瞳を見開いて驚きの表情だ。
「おぬしが余の寝所に侍っておるということは、まさか余とおぬしはそのような仲だったというわけか?」
「は?」
口元に手を当てて「うむむう」と考えこんでいる姿に、これはもしかしてユーリとの決着に進展が起こる絶好の機会かも、とか思っちゃったらしい、自称な域をいつまでも出られない婚約者は、「そうだとも」と勝手に事実無根な肯定の返事をしてやった。
「なんと! そうか、そうだったのだな……余の知らないところでそのような展開になっておったとは。己のことだというのに気付かなんだとは、男子一生の不覚!」
「まさか忘れたのかユーリ? ぼくたちはずっとこの部屋で一緒に暮らしていただろう」
都合のいい事実だけを伝えてやると、苦悩の表情で考え込んでいた上様が、じいっとヴォルフラムを見つめてきた。暫くの間唸りながらマジマジと美少年の上から下までを眺め、最後に行儀悪くあぐらをかいている彼の桃色ネグリジェから覗く白い足に視線をとめた。
「……あい分かった。ではプーとやら、もそっと近こう寄れ」
「……えっ?」
「それがまことならば、このまま何もしないというのもちとあれであろう? 忘れておった詫びに今宵はたんと可愛がってやるからの」
「ええっ!?」
思っていたのと違う反応がきて、ヴォルフラムは一歩下がった。詰め寄る上様は真面目な顔な分、いつもの有利より数倍美しく見えてときめくが、しかしこんな展開は想定外だったらしい。
「いっいや、あのっ、それはユーリに戻ってからでっ」
「余もユーリだろうに。いいから早よう夜着を脱がないか。ああそうか脱がして欲しいのか、ん?」
「ちょっ、ちょっと待てユーリ!」
「ほうれほれ、こんな無粋な着物など脱ぎ捨てて今宵は余と踊り明かそうぞ」
「わ~!? 待てユーリ、やめっ……やめろっ、へなちょこに戻るじゃり~っ!!」
自分が迫られるという、普段とは逆の行為に慌てふためくヴォルフラムがその夜どうなったかは、眞王のみぞ知る。
07.8.2
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