徒然草 第99段 堀川相国は、美男のたのしき人にて、・吉田兼好 日文念书

堀川相国:<ほりかわのしょうこく>。1289年、太政大臣。久我基具。
美男のたのしき人にて:「たのしき」は金持ちのこと。美男で富裕な人で、の意。
そのこととなく過差を好み給ひけり:「過差」は度の過ぎた 贅沢、分不相応なおごりを言う。『大字林』)。何事によらず、ぜいたくが好きだった。
御子基俊卿を大理になして:ご子息(基具の次男)基俊を検非違使別当(現在の警視総監にあたる)にして。大理は唐名の呼称。
庁屋の唐櫃見苦しとて:検非違使庁の官舎の中に置いてあった唐櫃<からびつ>がこわれてみっともな いと言って、の意。「唐櫃」は脚のついた衣類や調度品を入れる櫃。中国伝来に故にこう呼ぶ。
上古より伝はりて、その始めを知らず、数百年を経たり:はるか昔から伝わったもので、その最初が分からないぐらい古く、数百年を経たものだ。
累代の公物、古弊をもちて規模とす:「累代の公物」は代々伝来の国有財産のこと。「古幣」は古びて壊れたようなもの。「規模」は名誉・面目の意。つまり、昔からある官有の物で、古くて壊れているものは、価値あるものという誉れなのだ。
故実の諸官等申しければ、その事止みにけり:(「だから、簡単には更新や廃棄はできませんよ」と)故実の専門家たちが言ったので、相国は唐櫃を廃棄することを止めた。