『ハイロー』を観たプロレスラーはなぜ溜息をこぼすのか──監督

スーパー・ササダンゴ・マシン"流行"を考える〈ポップカルチャー生涯学習〉
『ハイロー』を観たプロレスラーはなぜ溜息をこぼすのか──監督・平沼紀久に聞くLDHエンタメの真髄
2022/09/23 12:00
文=
スーパー・ササダンゴ・マシン(マッスル坂井)
写真=石田寛(以下同) K-POP、2.5次元、タピオカ、韓国ドラマ…etc.「流行る」カルチャーには理由がある! DDTプロレスリングのレスラー兼タレント兼新潟県の金型工場「坂井精機」代表取締社長のスーパー・ササダンゴ・マシンが、世の中の流行を眺めながらプロレスとDDTの未来を考える連載。 今回は連載特別編として、公開中の映画『HiGH&LOW THE WORST X』で監督を務める平沼紀久氏をお招きして、大人気「ハイロー」シリーズをさまざまな視点から語り合います。 第4巻『ハイロー』と『トップガン マーヴェリック』を観ればプロレスを作れるの回
平沼紀久(ひらぬま・のりひさ)1976年10月21日生まれ、神奈川県出身。2000年に俳優デビュー。劇団の立ち上げなどを経て、2018年『DTC -湯けむり純情篇- from HiGH&LOW』で映画監督デビュー。 スーパー・ササダンゴ・マシン(以下、ササ) 少し前に、ケンドーコバヤシさんと会う機会があったんです。そこで「いまHiGH&LOWにすごいハマってるんですけど、ケンコバさん見たことありますか?」って聞いたら「いやぁ……どこの世界に、ハーレーダビッドソン乗ってる暴走族がいるんですか」って言われたんですよ(笑)。 平沼紀久氏(以下、平沼)(笑) ササ でもそれって、不良マンガに対するリスペクトがめっちゃあるから出てくる言葉じゃないですか。だから「いや、ケンコバさん、違うんですよ」と。「最近のHiGH&LOW、すごいことになってるんです。前作だと、ライバルとしてあの“殺しの軍団”鳳仙学園が出てくるんですよ!」って言ったら「えぇ……!?」ってなって。「続編にあたる最新作では、当然鳳仙と組んでさらなる大きな敵と戦っていくわけで」「それはそうやなぁ」「多勢に無勢でピンチになる」「そうやなぁ」「敵役にはK-POPのスーパースターがいたりして」「勝てんでしょう!」「ここで出てくるのが、鈴蘭高校なんですよ……!」って言ったら、タバコの灰がポトッと落ちて「見んとあかんやないですか!!」って言ってました。 平沼 最高ですねぇ。 ササ おじさんは「鳳仙学園」「鈴蘭高校」って言われたらタバコがポロッとなるんですよ(笑)。今、そういう不良の世界の大河ドラマみたいな作品は減ってきていますよね。「HiGH&LOW」を観て、そこをLDHが全部背負ってるんだなと感じました。格闘技やプロレスの試合の構成とも、ハリウッド映画のバトルの構成とも違う、ウェットな殴り合いって日本の不良モノの中にしか存在しないと思うんです。平沼さんももともと不良モノはお好きだったんですか? 平沼 好きでしたね。『(疾風伝説)特攻の拓』とか『カメレオン』とか『湘南爆走族』とか、めちゃくちゃ読んでました。小栗くんの『クローズZERO』も好きで、でも僕は小栗くんよりもちょっと歳が上なんで、あそこには入れなかった世代なんですよ。 ササ 制服が着れなかったと。 平沼 着れなかった(笑)。「いいなぁ」と思ってました。
スーパー・ササダンゴ・マシン:1977年11月5日生まれ、新潟県出身。DDTプロレスリング所属。主催興行「マッスル」シリーズでは総合演出を担当。通常のプロレス興行とは一線を画したエンターテインメント性の高い内容で話題を呼ぶ。
ササ 不良モノをやりたいというのは「HiGH&LOW」立ち上げ時から念頭にあったんですか? 平沼 不良うんぬんより、HIROさんが最初から言っていたのは「中学生たちのバイブルになるものにしたい」ということでした。“普通”のレールからはみ出している人たちがかっこよく見えることってあるじゃないですか。「あの先輩が着てる洋服超かっこいい、どこで売ってるんだろう」「あのバイクめちゃくちゃかっこいいな、どこのなんだろう」とか。かっこいいものに憧れるって、そういうところから始まると思うんです。だから「いま一番かっこいい洋服はこれだよ」「いま一番かっこいいバイクはこれくらい改造してるやつだよ」って、映画を観たら一目瞭然でわかるようにしてあげたいという考えが最初にあったんです。リアルを追求すると、ケンコバさんがおっしゃるように「お金ないのになんでハーレー乗ってるんだよ」「なんでサンローラン着てるんだよ」ってなるじゃないですか。実際、髙橋ヒロシ先生からも最初は「みんな不良でお金ないんだから、タンクトップにドカジャンが基本だよ」と言われたんですけど、そこは「もっとこういうものを見せたいんです」と説明させていただいたところでした。 ササ 髙橋先生とそこまでのやりとりもされるんですね。あらゆる面で交渉と調整が本当に大変だったんだろうなと想像はしていましたが……。 平沼 そうですね。楽曲ひとつつくるにしても、僕ら演出チームからするとロックで爆アゲなやつが欲しいと思う場面でも、音楽のプロからしたら「ここは今の流行りを考えると、ヒップホップのほうがいいです」「中でも、この感じの音がいいです」という意見があったりするんですよね。今かっこいいとされているものがなんなのか、そこはプロの人たちの意見が必要なんです。一方で、ヒップホップがベースになるとBPMが遅くなって、テンポ含めて画のつなぎ方が難しくなるという課題もあって。 ササ 音楽もファッションも、一流のプロの方が携わっているんでしょうけれど、全部が全部その言いなりになっていない感じはすごくしました。 平沼 そこもせめぎ合いですね。一種類の「かっこいい」だけだと時代に遅れちゃう気もするんです。だから「これまではこの楽曲をこう使っていたけど、今はどういう形で使うのがいいのかな」というのも考えていかないといけない。監督をやって、本当に勉強になりました。 「琥珀さんはトム・クルーズ感あるんですよね」
ササ 音楽があってファッションがあって今度は宝塚とのコラボもあったりして、「HiGH&LOW」はものすごくデカいエンタテインメントの受け皿になってますよね。20年前までは、プロレスがいろんなカルチャーのるつぼになっていた時代もあったわけですけど、今や全部「HiGH&LOW」にやられているなぁ、と。プロレスすらすでに入ってるんですよ。 ──どういうことですか? 後藤洋央紀選手(新日本プロレスリング)が『END OF SKY』にチラッと出ているだけではなく? ササ 『FINAL MISSION』で鬼邪高が出てくるとき、「JUMP AROUND ∞」が流れた後、ケンカしてるところをザーッとパンする超高速撮影があるじゃないですか。あそこでどなたかがブレンバスターをかけてるんですよね。最高に美しくて、見世物としていちばんいいプロレス描写だと思いました。 平沼 そんな見方をしていただいたんですか。 ササ 本当に、「はぁ~」ってなったんですよ。俺がやりたかったのは全部これなんだな、と。僕がプロレスをやっていく上で『トップガン マーヴェリック』と「HiGH&LOW」を観続けていれば、多分延々と何かしらつくれるなって。過去現在未来が全部入っているから。 ──そこに『マーヴェリック』も並ぶんですね。 平沼 でもHIROさんも同じようなことを言っていましたよ。 ササ 本当ですか。それこそSWORD世代を再び登場させるなら『マーヴェリック』みたいなやり方が一番美しいんでしょうね、きっと。 ──口を挟んで恐縮ですが、『マーヴェリック』を観て「36年後に琥珀さんが見れる可能性はある!」と思いました。 ササ あー! そうですね、琥珀さんはトム・クルーズ感あるんですよね! 平沼 ありますね! ──何かの先生として還ってくる琥珀さんの話をいつか……いつまでも待ってますから……。 ササ 『GTO』じゃないですか(笑)。だから「HiGH&LOW」自体にもすごく刺激をもらいましたし、シリーズに触れて、平沼さんの存在を知れたことも僕の中ではもうひとつ収穫だったんですよ。 平沼 本当ですか、それはうれしいです。 ササ 僕はいわばプロレス団体の中で座付き作家的な仕事をしているわけですけど、試合もしていて、同時に出役でもあるんです。プロレスラーはプロレスラーの言うことしか聞かないこともあって、自分もリングに上がっている必要がありまして。同じような仕事の仕方をしている人って、実はあんまりいないんですよ。お笑いの世界だと芸人やりながら構成作家やってる方がいますけど、それともまたちょっと違うんですよね。だから平沼さんのように、俳優としてLDHに所属しながらひとつの作品世界をつくることにどっぷり関わっている人がいるとわかって、よかったなと思ってます。 平沼 それでいうと、HIROさんがまさにそうなんですよね。本人がアーティストで、そこからLDHを背負っていますから。肉体は年を取るけど、それでも最前線でエンタテインメントをずっと続けていくにはどうしたらいいか? というのはひとつのテーマだと思うんです。HIROさんは、EXILEの魂をエンタテインメントとして一生続けていくために、自分の意志を後輩たちにつなげながら育てて、それを自分も一緒になって体感しているんだなと、間近で見ていて思います。 ササ なるほど!? 平沼 先日、Jr.EXILEのライブで寸劇があって、そのホンを書いたんです。そういうときに何をいちばん意識しているかというと「彼らがよりかっこよく、キャーキャー言われるようになるにはどうしたらいいか」ってことなんですよね。そうやって頭を使って考えれば考えるほどエンタテインメントが盛り上がって、そうしたらまた違う可能性が増えていく。そこで「あぁ、こういうことなんだな」と思うんです。まさに、HIROさんと一緒に「HiGH&LOW」を立ち上げからやってきて学んできたことだなって。さっき言ったように、役者としてリアリティのある制服を着られる時期はすごく短いわけじゃないですか。でも、自分で何かを書いたり、後輩たちと一緒に何かをやるという形で青春の物語をつくり続けていくことはできるんだ、と。 ササ 監督をやっていて、自分もちょっと出てみようとは思わなかったですか? 平沼 全然思わなかったです。でも今演技やったら昔よりちょっとうまくなってるのかな? と思うときはあります。自分のことだけじゃなく、相手をよりよく見せるためにはどうしたらいいのかって考え方に変わっているので。制作と役者と両方の立場を知っている人間として、若手の子にはいろんなことを教えてあげようといつも思ってます。そういう中で、後輩たちから頼られたり「一緒にやろう」って空気ができてくるのはうれしいですね。本当に「HiGH&LOW」には人生を変えてもらいました。 ササ これからもHIROさんと一緒にこの世界を発展させていくんですね。 平沼 そうですね。やっぱり、ここからエンタメを盛り上げていきたいという思いは強いです。それこそプロレスと垣根を超えてコラボレーションするのも面白そうですよね。 ササ ここはぜひ、DDTの若者たちと鬼邪高校の全面対決を……。 平沼 いいっすねぇ。 ササ 両国国技館あるいは代々木第二体育館あたりでどうですか。いい試合つくりますんで! 平沼 キメられてるときにその人の回想とか入りたいですね! ササ 入ります! 入れられます! 大得意です!! (インタビュー・構成=斎藤岬/写真=石田寛) <作品紹介> 映画『HiGH&LOW THE WORST X』 2022年9月9日公開/総監督:二宮“NINO”大輔/監督:平沼紀久/出演: 川村壱馬、吉野北人 ほか 2019年10月に公開された鬼邪高校全日制をメインに据えたスピンオフ作品『HiGH&LOW THE WORST』の続編。「HiGH&LOW」シリーズ映画としては第7弾にあたる。鬼邪高校の頭に立った花岡楓士雄の前に立ちはだかるのは、瀬ノ門工業高校・鎌坂高校・江罵羅商業高校による「三校連合」だった……。NCT 127やBE:FIRSTといった人気アーティストのメンバーが揃ったことで、「ハイロー」の新たな可能性を提示する一作となった。 【转载】